【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(084)「思い込み」は怖い!2018年6月1日
「思い込み」は怖い。
昔、あるとても高名な研究者と話す機会があり、よくある誤解について意見交換をしていたところ「私の立場ではもう聞けない」との言に驚いたことがある。それは本当にご存じないのか、あるいは間違えた時のことを想定しているのかは不明であるが、いずれにせよ「聞けない」ようだ。単純に素直に聞けば良いのにと思っていたが、世の中も、人の心も難しい。
このようなことは最近各所でお目にかかる。例えば、久しぶりに研究室を尋ねてくれたゼミ生以外の卒業生などの顔と名前を瞬間的に思い出すことは年々難しくなる。気が利く卒業生は突然訪問してきた時でも「先生、卒業生の○○です。」と言う。結婚して姓が変わった方でも続けて「旧姓は△△です!」と部屋に入る時に述べてくれるので大変助かるが、そうでないと30分位、名前がよくわからないままに話をすることになる。これは非常に申し訳ないが、盛り上がった会話の最中に「ところでどなたでしたっけ?」とも聞きにくい。そのため、私の研究室の内側には歴代ゼミ生との記念写真が掲げてある。ゼミ生以外の卒業生が来ても、さり気なく「誰の代(同学年)」かを確認することで学生時代のイメージが繋がるようにというささやかで涙ぐましい仕掛けである。
アイドルの名前など最近の筆者にはまさに「怖くて聞けない」。文書を扱う仕事を何年も継続してきたせいか、学会誌の編集委員会から突然査読を依頼された初見の論文でも、内容を読まずにざっと眺めただけでスペル・ミスや数字の間違いを複数個所で簡単に見つけられるようにはなったが、地元の銀行の宣伝に登場するアイドル・グループの何人かは電車の中で何百回と写真を見ているにもかかわらず、いまだに名前と顔を間違える。
※ ※ ※
当初、これは「トシ」のせいかとも思っていたが、どうもそうではないようだ。年齢に関係なく、最近は「思い込み」による誤解が大きいと考えるようになった。そこでこれは若い世代でも同じであることを検証するため、簡単な漢字テストをしたことがある。
「カンペキ」という言葉を書かせてみたところ、クラスに50人いれば必ず何割かは「完壁」と書く。その場で「不合格!」と告げてもどうして不合格なのかがわからず不思議な顔をされる。スマホで検索させても「カンカベ」と入力すれば「完壁」が出てくる時代だ。かなり年配の人でもいまだに間違えたままの人がいるのであろう。
もうひとつ例を挙げれば「シャレ」という字だ。同じように書かせてみると、「カンペキ」よりもはるかに多い割合で「酒落」となる。「〇〇ざんまい」の「ざんまい」などは、「シャレ」以上の確率で「三味」と書く学生が続出する。もちろん、答えは「完璧」「洒落」「三昧」である。
※ ※ ※
さて、漢字の間違い程度(と言ってよいかどうかは難しいが)で済めば良いが、世の中には組織運営や意思(意志ではない)決定において「思い込み」によるバイアスが影響し、その結果としておかしな事態を引き起こす事は意外に多いのではないかと思われる。
意思決定のバイアスについては、経営学や心理学の分野において実に多くの研究の蓄積がある。例えば、人は自分に都合よく解釈し間違える傾向、よく知られた「確証バイアス」があることが知られている。客観的には全く同じ行為でも、尊敬している人が行う場合は「すごい!」となり、嫌な人が行う場合には「格好つけやがって!」になるということだ。もちろん、こうした傾向を悪用した各種ハラスメントは許されることではないし、次元が異なることは言うまでもない。ちなみに筆者は新聞で株価を見ている時はよく当たるのに、自分の資金を投下するとバイアスがかかりなかなか上手くいかないことが分かっているため、相場には手を出さないようにしている。
日本の食料・農業・農村、そして農業協同組合の役割や機能についても、これまでの「思い込み」を頭の中で解き放ち、全く異なる視点で問い直してみると意外な価値や機能が見いだせるのではないだろうか。
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