【森島 賢・正義派の農政論】米朝首脳会談の議題は朝鮮半島の平和と非核化2018年6月4日
米朝首脳会談が、8日後に迫った。会談の議題は何か。マスコミは、北朝鮮の非核化が最大の議題だという。それを聞いて「なるほどそうか」と思う人は、よほど無関心な人だろう。
ここで言いたいことは、そういう人を批判することではない。そのように言うマスコミの無責任を追及することである。米国の主張をそのまま一方的に宣伝しているだけだ。事実を見ようとしないし、論理もないし、批判精神もない。
そもそも、北朝鮮の非核化が最大の議題だ、と言われれば北朝鮮が、のこのこと会談に出かけて行って、被告席に座るはずがない。北朝鮮にとって最大の議題は、朝鮮半島の和解と平和なのである。そのためなら、非核化してもいい、と言っている。
だから、こんどの会談の最大の議題は、非核化と朝鮮半島の和解と平和だ、と言わねばならない。せめて、非核化と体制保証だ、と言わねばならない。
米朝首脳会談の議題は、非核化と体制保証だ、と一部で言っている。もしも、そうだとすれば、すでに金日恩委員長は、体制を保証すれば非核化する、といっているし、トランプ大統領は、非核化すれば体制を保証する、といっている。だから、仰々しく会談しなくていい。約束を文書にして交換するだけでいい。
しかし それでは、元の木阿弥に戻るだけだ。約束を破ったとか守ったとかいって、醜いののしり合いが続くだけだ。それでは、事態は何も変わらない。
そもそも、非核化とは何か。非核化といっても、完全な非核化から、疑似的な非核化まで、種々の段階がある。北朝鮮だけの非核化か、それとも朝鮮半島全体とその領海を含めた非核化か。朝鮮半島と、その近海にいる米軍の非核化も含むのか。
また、核兵器だけを捨てるのか、それとも、核兵器を作る資材や技術も捨てるのか、さらに技術者までも朝鮮半島から移住させるのか。
◇
体制の保証とは何か。北朝鮮は米国に体制を維持する保証を要求しているという。だが、本当にそうなのか。
いったい、他国に自国の体制を保証してもらっている国がどこにあるのか。そんな国は属国でしかない。独立国ではない。独立国なら、自国の体制は自国が決める。他国の干渉は排除して決めるものだ。誇り高い北朝鮮が米国に自国の体制の保証を、頭を下げてお願いするとは、とうてい思えない。
国民主権、平和主義と並んで、人間が生まれながらに持っている基本的人権を尊重するという価値観を、日本と米国は共有しているという。この価値観は、国家が生まれながらに持っている基本的権利である国家主権を認めないというのか。
◇
実は、北朝鮮は米国に対して、体制を保証せよ、ではなく平和と安全を保証せよ、といっている。当面は、北朝鮮へ侵攻するための米韓合同の軍事演習をやめよ、と要求している。そして、その先には、米軍の朝鮮半島からの撤退を見据えている。
立場を逆転して、頭の体操をしよう。もしも北朝鮮軍がフロリダ半島の近海で、軍事演習をしたら、米国は怒り狂うだろう。米朝の関係は、そうした対等でない関係なのか。
一方、米国が体制保証というとき、金委員長の生存を保証する、という意味でいうことがある。斬首作戦はしない、という意味である。また金委員長が率いる政治・経済・社会の体制を保証するという意味でいうこともある。金体制を転覆しない、という意味である。
しかし、北朝鮮が要求しているのは、そんな当然のことではない。朝鮮半島の平和と安全の確保である。
◇
非核化と、いわゆる体制保証について、どの程度の時間をかけて、どのような順序で段階的に約束するか、という点にも両者の間に大きな隔たりがある。
米国は、即時完全非核化を主張している。それが実現するまでは、いっさい譲歩しない、といっている。それが実現した後で、朝鮮半島の平和体制を協議する、といっている。
一方、北朝鮮は段階的な非核化を主張している。平和体制の構築と非核化を段階的に進めよう、といっている。つまり、六者会合での共同声明でいう「約束対約束、行動対行動」の原則である。
以上のように、米朝首脳会談で議論すべきことは、広範な範囲にわたっている。そして、それぞれが両者の間で鋭く対立している。
◇
いま行われている事前協議は、非核化するかどうか、などという総論で角突き合わせをしているのではないだろう。朝鮮半島の和解を含む広範な各論で、詳細な議論を重ねているのだろう。
そこのところを、しっかり伝えることがマスコミの責務である。それを全世界に伝えることで、ことに北東アジアに伝えることで、北朝鮮と米国のどちらの主張に理があるか、その判断材料を読者に伝えねばならない。
北朝鮮の非核化が最大の議題だ、などと米国の主張だけを偏って伝えることは、会談の成功の障害になるだけだ。日本の政府は、米国の政府の忠実なイエスマンになっているから、それは、日本政府の主張をそのまま無批判に伝えていることになる。
それは、戦前に軍部の発表を、そのまま報道した、当時の新聞を想起させる。そうして、戦争への突入に大きな役割を果たした。
今また、同じ過ちをくり返そうとしている、と思えてならない。猛省を促したい。
(2018.06.04)
(前回 北東アジアの夜明けは近い)
(前々回 北朝鮮は悪魔の王国か)
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