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【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】TPP11はTPP12より悪い(質疑)2018年6月7日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

 今回は5月17日の衆議院内閣委員会のTPP11関連法案審議の参考人質疑での質疑部分の発言内容を紹介する。

(問)日米FTA、アメリカのTPPへの復帰との関連について

 二国間の日米FTAのような形にしろ、TPPにアメリカが戻るかどうかにしろ、日本側としても、アメリカからTPP12のとき以上の内容を日本に要求し、それを受け入れてもらうということをアメリカは求めているわけで、それに対して日本は、アメリカからの要求に応える姿勢を既に続けている。
 ですから、TPPに復帰するにせよ、アメリカは、TPP12のとき以上の要求を日本にしてくるし、それから、日米FTAになるにしろ、これまで以上の要求をしてくる。だから、形はどうあれ、日本が譲り続けなきゃいけないという状況が今できていて、そもそも、日米経済対話等の形で、日本はわざわざ、我が国からアメリカを訪問したときにそういうものを提案して、日本としてはアメリカの要求に応えますからよろしくお願いしますというような形の外交になってしまっているというところが問題だ。
 例を挙げれば、既に、例えばBSE、狂牛病の輸入条件は、二十カ月齢から三十カ月齢までTPPの事前の入場料で緩めさせられました。次、アメリカはBSEの清浄国であるからしてこれを完全になくしてくれというふうに言ってくるのを見越して、日本は、食品安全委員会が既に二年前から、言われたらきょうにでもやめられるように、完全に準備してスタンバイしています。国民には、TPP等を進めることで食の安全性は影響を受けないというふうに言っていますから公は言えませんけれども、そういうふうにして、準備万端整えて、アメリカの要求にいかに応えていくか、タイミングを計っている。
 米の輸入枠がもう既に六万トンを消化しているというのもそうですし、それから、この間、遺伝子組み換えでないという表示を実質できなくなる方向を日本は示しましたが、これもアメリカから要求されていることと全く整合性がとれている、その要求に対応するものであるというような形で進んでいる。
 要点は、いずれの形でも、今のような戦略では、アメリカからの要求を受け入れ続けることで日本の政治、行政の皆さんが自分たちの立場を守るとかそういうことには役に立っても、国民の利益になっているかどうかが問われている、ここに歯どめをかけられるかどうか、アメリカの要求を聞き続けるだけの外交でいいのかどうかが問われているということではないかと思います。

 

(問)食の安全との関連

 TPP12もTPP11もそうですが、まず、食の安全基準が緩められるという問題が一つ大きい。それは特にアメリカなどから、日本の検疫の基準などが非常に厳し過ぎる、極端に言えば、少々大腸菌が入っていても食べろというような形で、日本の世界一厳しい安全基準というものをいかに緩めるか、そういうふうな要求リストがアメリカなどからたくさん出ております。
 それに順番に応えていく、そういうものを小出しにしていくのが日本の戦略になってしまっていますので、食の安全基準は、貿易協定を進めることによって、あるいは二国間交渉、二国間の対応を進めることによって必ず緩められていくという構造になってしまっているということが一つと、もう一つ重要な点は、付表(略)にありますように、今輸入している農産物、今の基準でも非常に危険性が高いものがこんなに入ってきて、検査率が七%で素通りして我々が食べているということでございます。
 それが、更に貿易自由化を進めれば、もっともっとこういうものがふえて、自給率が下がる。今の自給率が、目標は四五%、それは上げる努力はしていかなきゃいけませんが、実際にはもう三八%まで下がって、このままいけば更に安い輸入食品に席巻されるような状況を我々は想定しているわけですから、そうなれば、こういうものを更に食べて命が縮むような状況になって、「いけない、国内の安全、安心なものをもっと食べたい」と思ったときに仮に自給率が一割になっていたらどうしますか。選ぶことさえできない。その状況を今とめなきゃいけないということだと思います。

 

(問)影響試算の評価

 影響試算というのは、本来は、これだけの影響が出るということをまず計算して、であるから、どれだけの対策が必要かという順序で進めなきゃいけないはずですが、それを、影響がないように対策をするから影響はないということで計算しておりますので、これは対策を検討するための影響試算にはなり得ないということだと思います。例えば農産物の価格が十円下がったら、そのためにそれを相殺するだけの政策はやるから生産量も所得も変わらないんだという計算方法でございます。それでは本当の影響というのは見えない。もしそれを正当化するのであれば、その十円下がったときにどういう対策をやるからその十円が相殺されて生産量と所得が変わらないのかについての根拠を示さないといけない。
 そういう意味で、まず、対策を入れ込んだ影響試算ではなくて、対策をしなければどういうことが起きるのかという純粋の影響というものを示してから議論すべきである、これが基本的な視点ではないかというふうに考えております。

 

(問)代替試算について

 私どもでは、TPP12のときに独自の影響試算をして、政府試算とは全く違う、七倍の数字、一兆六千億円の被害が出るという数字を出しました。これは、基本的にはTPP11になっても変わらない、あるいはそれ以上であると考えなきゃいけない。つまり、TPP11をやるということはTPP12以上の内容を結果的に受け入れるわけですから、少なくとも、TPP12のときの打撃が出るということをまず踏まえる必要が出てくる。ですので、改めてTPP11だけを切り取って影響試算をすることも可能ではありますが、私はそれを今のところはやっていません。それは今のような理由からでございます。

 

(問)企業利益について

 アメリカのグローバル企業、製薬会社さんとかが、人の命を縮めても自分たちがもうけられるようなルールをアジア太平洋地域に広めたい、これが端的なTPPの本質ですね。まさにグローバル企業、それが政治家とお友達になって、お友達企業への便宜供与と世界の私物化という現象が起こっている。極端に言えばそういうことだと。
 それは日本のグローバル企業にとっても同じことで、日本の企業が、あるいは小売業が、アジアに行って、直接投資が更に自由化されれば、どんどん展開できる。それによって日本のグローバル企業の経営陣の利益もふえます。しかし、現地の人たちは安く働かされる。そして、日本の国内では、国内の人々が結局安い賃金で働くか、あるいは失業して、例えばベトナムの方々の賃金は日本の二十分の一から三十分の一ですから、そういう方々が更にふえる、あるいは企業が出ていく。
 いずれにしましても、グローバル企業の経営陣にとってのメリットは、それは日米ともにあることは間違いない。しかし、それが一般国民の九九%の方々の生活をプラスにするかというと、それは逆行してしまう。ここをどのように調整できるのかということが問われているんじゃないかというふうに思います。

 

(問)関連する一連の動きについて

 いろいろな政策、方向性がセットになって、貿易の自由化、それと国内の規制改革という名のもとのルールの撤廃ということが、どんどん国内の農林水産業の、特に家族農業経営を追いやるような状況が今進んでいる。
種子法も最たるもので、まさにアメリカ発のグローバル種子企業が、日本の国民が食べる米も遺伝子組み換えにしたい、そういうことで、そうなると、国がお金を出して安全、安心な優良な種子を安く供給する、こういう体制が邪魔であるということになって、種子法がいつの間にやら廃止される。これは種の値段を下げるのが目的だと言われましたが、民間の種は、今、奨励品種の十倍もしている、米の種が。ですから、種の値段が下がるわけない。関連法では、今まで県の試験場が培ってきた種とその情報をただで民間企業に差し出せと書いてある。平昌オリンピックでイチゴの種が問題になったのに、種子法に関しては、米麦の種をただで企業に差し出せと書いてあるわけですよ。こんなことをやれば、グローバル種子企業はぬれ手でアワで、ただで材料を得て、それを遺伝子組み換えちょっとして、高く売りつけてくる。それを日本の農家は買わざるを得ない。日本の国民はそういう遺伝子組み換えの米を食べざるを得ない。まさにグローバル企業による日本の国民の植民地化ですよ。こういうことがどんどん進んでいるわけです。
 これは漁業権の開放でもそうです。沿岸漁業権を全部企業に開放すればいいと。どこの国が買うかわかりませんよ。制海権を失うような状況ですよ。だから、こういうことを進めて、日本の食料と、国民の命と環境、地域、国境を守っている産業をこれ以上ずたずたにしてしまったら、私たちの国民の命と健康と国土、それから主権というものは本当に維持できるのか、そういうことが全部総合的に今進められている。そこの点を問題にしなきゃいけない。

 

(問)波及的影響について

 TPP11をやるということは、TPP12のときにアメリカが要求していた内容以上のものを最終的に受け入れざるを得ないし、日本はその準備を進めていると。だから、TPP11をやるということは、「TPP11+TPP12以上のア メリカの要求=TPP12のとき以上の日本の打撃」、こういう算式になりますので、これはそのことを踏まえてきちんと検討しなきゃいけないということであると思います。

 

(問)アメリカ復帰の条件について

 アメリカが戻る場合には、アメリカが以前のTPPのときに要求していた以上のものがとれるということがわかっ たときに戻ってくるということですので、それはそれで日本にとってはよくない。そこからわかるように、アメリカがTPPに戻る可能性は、アメリカにとってTPP12のとき以上の利益があるということがはっきりしたときだろうというふうに考えます。
 それから、そうでなくても、ハッチ議員が製薬会社さんから五億円もらってルールを、新薬の特許をもっと保護しようというようなことを進めている、そういう、企業と結びついた多くのアメリカの政治家の皆さんは、今でもTPP型のルールをやりたくてしようがないわけですね。そういう方々が、トランプ政権の中枢の意向とは違うわけですので、そういう方々の力がどこの時点でもう一度出てくるかということが一つの鍵になろうかと。
そういうのをとめるためには、私は、RCEPというものをもっと、アメリカ抜きの間にきちんと、柔軟で互恵的でその国々の発展につながるような、お互いに認め合って利益があるような柔軟な協定にしましょうというRCEPを、本来の姿できちんと中国や日本が推進して、そういうものを広げていくという形を早く進める必要があるんじゃないかなというふうに思っております。

 

(問)あえてメリットを挙げるとすれば

グローバル企業のように国際的な展開をしている企業の経営陣にとっては、これは大変なメリットがあるということでみんな進めているわけですから、そういう企業の皆さんと、その方々をお友達としている政治家の皆さんにとってはこれはメリットだ。
だけれども、それは一%で象徴される皆さんになっていて、残り九九%と言われる方々にとっては、これはある意味収奪の対象になってしまうということで、この構造をどこで調整するかということが重要ではないかというふうに考えております

 

(問)望ましい経済連携について

 TPP12に集まってやってみたけれども、八十項目にも及ぶ、嫌な、外したい事項がいっぱいあって、今回、それが大もめにもめたわけですよね、TPP11をやるに当たって。ですから、本来は、アメリカに市場アクセスができるということで、嫌だけれども、無理やりに認めざるを得なかった、こういうことがたくさんあるわけですから。
 アメリカ以外の、特にこれから発展する途上にある国々にとっては、特にアジアの国々は、アジアを中心とした別の枠組みで、WTOが全体で確かにありますけれども、RCEPのような形はアジアの国を基本的には中心にして、例えば農業でも分散した小さな水田農業、そういうものが共通項としてあります。WTO全体だと、新大陸の要求もあって、なかなか、そういう小規模な農業や地域が存続できるルールをうまくつくることができないという要素もありますから、私は、アジアを中心とした、アジアの地域がともに助け合って発展できるようなルールを、まず日本や中国や韓国が一緒になってつくって、それを世界全体に主張していく、そういうふうな流れというのは一つ重要なのではないかというふうに考えております。

 

(問)検疫の問題について

 検疫の問題に関しましては、まず、これが非常に大きな非関税障壁として使われているという現実がございます。TPPなどでは、日本の検疫や安全基準がSPSよりも厳し過ぎる、その理由がはっきりしない、予防原則ではだめだ、科学主義で、因果関係が特定できないならばやめなさいという形で、どんどん緩めさせられているという問題があり、あるいは、トランプ大統領は商務長官との電話で、日本が大腸菌が入っていたといってアメリカの農産物を突きしてきた、けしからぬからもっとおどしてもっと緩めさせろというような議論をしている
 一方で、アメリカは、日本の肉も果物も野菜も、何十品目も、病気になっているとか虫がいるといって、関税はないけれども、全然入れてくれないわけですよね。中国は、日本の米にカツオブシムシがいるといって、薫蒸しないといかんと怒る。それから、EUはミラノ万博で、かつおぶしにはカビが生えていて、がんになると。そんなことばっかり言って日本のものを全然入れてくれないのが世界なんですけれども、その世界の国々が、日本の検疫が一番厳し過ぎるといって、大腸菌が入っていても食べろといって、更に緩めさせられる、このような外交をやっていたのでは農産物の輸出を伸ばすということはできないということだと思います。

 

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