【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第7回 まともに米が食えない農家2018年6月14日
1983(昭和58)年に1年間放映されたNHK連続テレビ小説『おしん』、テレビドラマの最高視聴率記録を持ち、「世界で最もヒットした日本のテレビドラマ」と言われているのだが、この主人公おしんの生家は私の生まれた旧山形市から西北約30㌔のところにある。若い人たちは見ていないかもしれないが、そのなかに「大根飯」というものが出てくる。米にきざんだ大根を糧(かて)に入れて焚いたご飯であるが、私は食べたことがないので両親に聞いたらこう言う、「大根はがさがあるし、その色が米と同じ白なので白いご飯を食べているように見えて見栄えは悪くないだろうが、まずくて食えたものではないだろう」と。
私もそのまずさが想像できるので食べたいとは思わないが、おしんの家は貧しくてそんなものしか食えなかったというのである(そして幼くして実質身売りされていくのだが)。
でも、大根飯は米粒が見えるだけいい。「わずかなご飯を鍋に入れ、水でふやかして野菜から雑草から何でも食べられるものを入れ、それを味噌もしくは塩で味付けしておかゆとも雑炊ともつかないもの(米などどこにいったか見えなかった)がみんなの食事だった、恥ずかしくって他の人には見せたくもなかった」。
こんな話を現在の山形空港近くの農家の方(こうした暮らしを何とかしようとまわりの農家の方と農民組合をつくり、小作料引き下げ闘争などをやって厳しい弾圧を受けた方だった)に聞いたことがある。
私の生家から100㍍くらい離れたところに耕作面積の少ない小作農家があった。その家では小作料を払うと旧の正月までもたせるのがやっとの量しか米は残らない。雪でおおわれた田畑には雑草すらなく、食う物がない。腹が空かないように、寒さを感じないように、家を閉め切ってぼろ布団にくるまって寝ているしかない。やがて家族の顔はげっそりやつれて土色になってくる。稲わらに土を混ぜて食べて腹一杯にしているからだなどと噂する人もいた。
本当かどうかはわからない。しかしどんなことをしてでも冬をもたせればいい、春になればともかく田畑や道端・川端の草地に雑草など何か食べられるものが生えてくるし、夏にはいろんな作物が育ってきて何かしらお腹に入るものがあるからだという。そんなうわさが出るような暮らしをその農家は毎年繰り返していた。
それでも米をちょっとの間でも食べられるだけましである。生まれてから一度も米の飯を食べないで死ぬ人すらいた。たとえば当時の技術水準では稲作のできなかった岩手の北上山系の小作農(「名子」と呼ばれていた)などはヒエ飯しか食えなかった。
米の飯を食べられるのは旦那さま(「地頭」=巨大山林地主)だけだった。名子の耕作する農地はもちろん林野、宅地、家畜、農具まですべて旦那さまのもの、名子はそれを借りた代償を賦役(労働)で払う、こういうきわめて古い土地所有形態のもとで、米を買って食べるなどできるわけはなく、ヒエやソバなどの雑穀を主食にする等、きわめて貧しい生活を送らされてきたのである。
「名子は『奴隷』と同じだった、旦那さま以外みんなそうでそれ以下の階層はもうなかった」と当時名子だった家の人は述懐するが、そういえばヨーロッパの中世の賦役制度時代の農民は『農奴』と呼ばれていた、名子もまさに『奴』に近かったのかもしれない。
これは極端な例としても、白いご飯を毎日食べられる農家は少なかった。食べ物をつくっていながらまともに食べ物が食べられない、これが戦後民主化以前の多くの農家の姿だった。
生きるのにまず必要な食べ物すらまともに食べられない、ということは着るものなどましてやないことを意味するものでもあった。いうまでもなく衣は食と並んで不可欠のものである。ましてや寒い地方などは衣なしでは生きていけない。ともかく最低限必要な衣服を何とかして手に入れ、それを長期間いかに使用するかを考えるよりほかなかった。
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