【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(087)米国における食品のリコール2018年6月22日
米国農務省によると、2004~08年の5年間にリコール(※1)された食品の件数は年間平均304件であったが、2009~13年の5年間では年間平均676件と大きく上昇している。この数が多いか少ないかは別として、リコール件数は着実に増加しており、その背景には様々な要因が考えられている。
まず、食品の生産量そのものが増加している。また、病原体の検知技術が向上している。さらに、食の安全に対する様々な規制が続々と誕生している、などである。最後の例としては、食品政策(英語では食料政策も食品政策も同じfood policyであり、日本語にすると微妙に意味が異なるがここでは食品とする)に関する2つの法律が良く知られている。1つは通称FALCPAという法律である。正式には「食品アレルゲン表示・消費者保護法(Food Allergen Labeling and Consumer Protection Act)」であり、2004年に成立している。FALCPAは英語の頭文字を並べたものである。他の1つは、2011年に施行されたFSMA、つまり「食品安全近代化法(Food Safety Modernization Act)」である。
※ ※ ※
さて、2004-13年の期間にリコールされた食品を分析した資料をみると、最も多いのが調理済食品(但しスープを除く)であり、全体の11.9%を占めている。以下、ナッツ製品が10.9%、焼き菓子・焼いた食品・ビスケットやクッキー類、つまりベークド・グッズ(baked goods)が9.0%、穀物・穀物製品(ベークド・グッズを除く)が8.4%、キャンディー製品が7.9%、そして、ソース、調味料、ドレッシングなどが5.0%である。これら6分野を合計すると53.1%とリコールされた食品の過半数を占める。これは非常に興味深い結果だが、最近の食生活を良く考えてみればむしろ当たり前かもしれない。
※ ※ ※
一般に、食品のリコールと聞くと、予備知識がない場合には魚や肉、あるいはベーコンやソーセージ、ヨーグルトなどが思い浮かぶかもしれないが、リコールされた全ての食品の件数の中でこれらの食品が占める割合は意外に低く、いずれも5%未満である。
むしろ、かつては余り関心が払われなかったナッツ類や焼き菓子のようなものが、現在ではリコールの対象として上位を占めている。ナッツ類の一部商品を除き、これらの商品に共通する特徴は、ほぼ全てが「高度に加工された食品」である。
つまり、複数の原材料を高度な加工技術を用いて1つの商品に仕上げている。そこでは原材料として何を使用しているかが極めて重要となる。言い換えれば、先に上げた2つの法律の1つが対象としているアレルゲンとの関係が問われる。今や多くの消費者にとってアレルゲンは非常に関心が深い点であると同時に、「食の安全」を担保するためには不可欠な要素でもある。
さらに、男性も女性も働く中で、日々の食事を調理済食品などの「高度に加工された食品」に依存する割合が増えてきている。その結果、多くの人にとっては自分の目で見て判断する内容が、食品の素材そのものからパッケージや原材料を記した表示にシフトしてきているという現実がある。そうなると顕在化しているアレルゲンはもちろん、潜在的なものまで含め、適切な表示がなされているかどうかが極めて重要な購買判断基準の1つになるということが数字として表れたということであろう。それは食品メーカーにとってはリコールを出すか否かの大きな分かれ目となる。
※ ※ ※
日本の場合、平成27(2015)年4月以降は、新しい食品表示制度が施行されているが、比較のために旧制度の平成26(2014)年度における食品の理由別回収件数を見るとこちらも興味深い。表示不適切(46.5%)、異物混入(15.1%)、品質不良(12.9%)、企画基準不適合(12.2%)、その他(10.4%)、容器・包装不良(2.9%)であり、件数的には概ね年間1,000件程度となっている(※2)。わずか数年前には日本でも食品の自主回収のほぼ半数が「表示不適切」によるものであったという点は頭に入れておいて良いかもしれない。
※1:今回のコラムは、以下の米国農務省の報告書の内容の一部を紹介しつつ、筆者のコメントを付加したものである。USDA-ERS, "Trends in Food Recalls: 2004-13"(2018年6月20日閲覧)
※2:農林水産消費安全技術センター,「年度別月別収集件数」「食品の自主回収情報」(2018年6月20日閲覧)
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