【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(088)ロシアと中国:ビジネスは至る所で芽吹く2018年6月29日
長年、穀物貿易に従事すると、米国やブラジルなど世界の主要生産国の動向を見ることが習慣化する。それはそれで必要なことは間違いない。その一方、全く意識していないところで常に新しいビジネスの機会が誕生する。
中国東北部、東三省のひとつである黒竜江省(Heilongjian)は、地理的には日本の北海道とほぼ同等以北に位置し、総面積は45万平方km、この省だけで日本より大きい。省都は人口1000万人を超える哈爾浜(ハルビン)である。この町は19世紀末にロシア人が建設し、その後、大きく発展している。第二次世界大戦期までの日本の歴史、とくに旧満州に関する歴史を読めば、常に登場する日本にも縁が深い場所である。
黒竜江省は大まかに言えば、東半分がロシアと国境を接し、西は北部が内モンゴル自治区、南が吉林省に接する。黒竜江省、吉林省、そして、その南の遼寧省を含めた東三省の合計人口は約1億人、合計面積で日本の倍を少し上回る79万平方kmである。
先述したように、東三省の中でも黒竜江省はロシアとの国境線が長い。...ということは陸路での国境を持たない現代の日本人にはなかなか想像がつかない様々なことが考えられる。
一言で言えば、貿易が非常に簡単にできるということだ。もちろん、あくまでも異なる国家間の貿易である以上、そして国境が存在する以上、様々な制約が存在するが、メキシコ湾からパナマ運河を経て太平洋を大型船舶で輸送するより、はるかに簡単な輸送が条件次第で可能ということだ。
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中露関係は国際政治の上では難しい問題があるのだろうが、アムール川を隔てた現場では隣人同士で様々な公的かつ現実的な協力が行われている。
近年では黒竜江省内の農家あるいは農家組織、あるいは管轄地区などが、ロシア側の相手(自治体など)とそれぞれのレベルで提携し、農業開発をすすめている。米国農務省によれば、2011年時点での対象面積の合計は約46万平方kmというが、これを多いと見るか、少ないと見るかは絶対値だけではなく、過去からの推移をも合わせて考えるべきであろう。
現在のところ、ロシアから中国への農産物の輸出数量は数字としてはそれほど多くない。興味深いのは2011/12年当時、年間6万4000トン程度の大豆が輸入されていたが、その数は5年後の2016/16年になると43万1000tへ急増している点である。過去5年間平均で146%の伸びである。植物油(主として大豆油およびナタネ油)のロシアからの輸入も同期間に8000tから22万tへと伸びている。こちらは過去5年間平均で194%と、倍々ゲームの様相である。同じペースが今後5年間続けば大豆は約300万トン、植物油は600万tに達する。単純計算では現在の日本の大豆輸入数量(325万t)に匹敵してしまう。
もちろん、輸入に際しては国境措置が存在しており、天候変動やインフラの不十分さ、品質などに加え、輸入関税や国境での各種規制などがあるようだが、増大する中国国内需要に対応するためには、地球の反対側のブラジルやアルゼンチンからコストをかけて輸入するよりは、目の前のロシアの農地において、自分達で作り、陸路で輸入した方がお互いにとってはるかに有益という現実的な判断に基づいていることは明らかである。
今シーズンの中国は年間1億t以上の大豆輸入が見込まれている中で、たかだか数十万tは、誤差のレベルにもならない。だが、そこにこそ大きなビジネス・チャンスがあることを見出した現場は真剣であり、着々とグローバルかつローカルでの農地と農産物確保の動きを進めている。
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仮に将来、ロシア極東連邦管区ハバロフスク地方から沿海地方が有数の油糧種子生産地域に成長した場合、日本海の対岸にある我が国はどうするのだろうか。それを見越して何らかの準備をしているのだろうか、それともあくまでも対岸の小さな動きと見ているのか、全く意識していないのかはわからない。
もしかすると22世紀の極東穀物貿易においては、あらゆる条件が整った場合、ハバロフスクがシカゴ、ウラジオストクがニューオリンズのような役割を担うのかもしれないなどと夢想した次第である。
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