【熊野孝文・米マーケット情報】1社だけ残った「万俵会」 業務用専門小売の生き残り策とは?2018年7月3日
(グラフ)米穀小売の仕入れ先割合
先週、都内で業務用向けにコメを販売している米穀小売店が集まり勉強会を開催した。この勉強会は2ヵ月に一回程度のペースで開催されているが、どこが主催してどのような内容の勉強会を開催しているのか業界紙等にも一切記事が掲載されたことがない。主催者側がごく私的な勉強会という位置づけでそうした対応をとっているのだが、開始時間は毎回決まって夜8時から。終わるのが10時で、その都度関心のある問題について講師を招いて、講演後弁当を食べながら質疑応答というスタイルをとる。先週の講師は産地の集荷業者で、生産調整が廃止される30年産米で、現場ではどのような変化が起きているのかを知るというのが開催の趣旨であった。関心のある事案は多岐にわたるが、最も関心が高いのは何といっても先行きの相場動向である。
農水省がマンスリーリポート6月号に付録として「小売店における業務用向けの米の販売状況について」と題したアンケート調査結果を公表した。農水省がこうした小売店の業務用米の動向について調査を行うのは初めてのケースだが、調査に当たっては日米連の協力を仰ぎ、出来るだけ質問項目を絞り、答えやすい形をとった。その甲斐あってか85社から回答があり、仕入れ先や業態別の精米1㎏当たりの販売価格が出ている。そのデータは別表の通りだが、仕入れ先割合はJA等の集荷業者からが34%、農家・農業法人からが26%となっており、合わせて60%にもなっている。これは見方によっては驚くべき数値である。
食管法時代は、米穀小売店は許可制であり、国の認めたコメ卸からしかコメを買えなかったため「結び付き卸」という表現でコメ卸から買うというのが当たり前であった。それが劇的に変化したのは平成5年のコメパニックで、消費地の米穀小売店はコメを確保するために一斉に産地に走った。すでにそのころ食管法は形骸化していたとはいえ、コメの流通実態が大きく変わったのは平成5年のコメパニックで、食管法廃止から食糧法への移行は、法が実態を追認したに過ぎない。ただ、法の改正で誰でもコメを自由に売れるようになったことから流通規制で守られたいた米穀小売店は自由競争の荒波に飲み込まれ多くが消滅して行った。
法が改正される以前、東京には業務用大手小売で組織される「万俵会」なる名称の組織があった。文字通り月1万俵以上販売する大手小売が10社名を連ねており、ピーク時には平均2万俵のコメを業務用として販売していた。その組織は今どうなったかというと1社を残してすべて跡形もなくなくなった。
なぜ1社だけ生き残れたのか? その秘密の大きな要因の一つに仕入れ戦略の違いがある。
平成5年のコメパニックの折は、ご多分に漏れず、この小売店もコメ買い付けのために産地に走った。違うのはその後の対応である。他の大手小売りはパニックが収まるとこれまで通り結び付き卸からコメを仕入れるようになったが、この小売はそうせずにこれはと思ったJAや商系集荷業者、大規模稲作生産者との取引関係を強め「年間購入契約」を結ぶ方針に切り替えた。「1年間ロング一発契約」と称する取引形態の肝は、契約した当該年のコメは全量引き取るというのは当たり前だが、その引き取り時期まで産地に保管するという形態をとったことである。
この大手小売店の経営者の持論は「コメは動かすからコストが掛かる」で、どうやって最終ユーザーまでコメを動かさずに届けるのかを考え続けた。産地から消費地への輸送は産地銘柄別に定期便化し、毎日朝7時に自社精米工場に到着するようにした。精米工場では保管スペースを有効活用するため2日分をストックの最大限として決め、精米、袋詰めして毎日午前と午後に取引先に運ぶ。販売ルートも特定、効率化を最優先、遠方には配達しない。取引先は料理店、仕出し弁当、病院等様々で、求められるコメの価格も違えばロットも違う。ロットは1㎏から10㎏まで7種類もあり、それを30㎏ワンセットにして配達して回る。売上金額ベースでいくと月1万円というところもあるというのだから、いかに細かい作業をしているのかうかがい知れる。
こうして徹底して効率化したコメ仕入・販売戦略をとっていても先行きのコメ相場動向を見誤ると利益が一瞬にして吹き飛ぶ。27年産から29年産まで3年連続して値上がりしてきたため「1年間ロング一発契約」はうまく機能したが、果たして30年産はそれで良いのか? この小売店にとっても先行きの相場動向は最大の関心事である。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日