【近藤康男・TPPから見える風景】ご都合主義の政府と対策頼みの農協??2018年7月6日
◆何とも既視感のある風景
6月29日(金)参院本会議でTPP11(CPTPP)関連法案が可決され、この後政令・省令が決定されれば、各国に外交文書で通知、日本としての手続きは完了する。
関連法案可決に合わせて参院内閣委員会では付帯決議が採択された。離脱した米国を除く豪州・NZ;カナダ・チリの4ヶ国と日本との間で行われる7年後の農産品関税等の再協議(第2章附属書2-Dのペ-ジ217の9)や日米経済対話の新枠組みFFRにおいて、"TPP以上の譲歩や国益に反する合意は行わない"、その他、農産物などへの影響試算の精緻化・見直しに努める、CPTPP協定6条への対応(見直し)などが主な内容だ。
翌30日の日本農業新聞には全国農協中央会・中家会長の談話が載っている。「農業者の不安を払拭するため、国内農業に対する万全の対策を講ずるよう、引き続き政府に働き掛けを行っていく」とのことだ。
何とも既視感に満ちてはいないだろうか?
◆安倍首相の言う"国益"とは?
6月28日の内閣委で、"国益に反しない"、"国益を守る"と繰り返すが、"国益の定義は何か?"という立憲民主党の相原議員に対する安倍首相答弁は、ある意味で素直に本音が出たものと感じた。
安倍首相の答弁の大意は、"通商協定でデメリットを受ける分野、関係者が出ることは否定できない。しかし、マクロ経済的にメリットがあることが大切だ。その替わりデメリットに対してはキッチリと対策を講じ、農業については強い農業を次世代につないでいく"といった内容だ。
素直に読めば、"参院内閣委決議は通商交渉では考慮するまでもない。対策で対応する。このセットで国益だ"と、これまで一貫した立場に基づく答弁だ。
そして、全中会長のコメントも"対策をしてくれればそれでやむなし"と、これもガット・ウルグァイラウンド以来同じでしかない。
◆既視感に満ちた政府・農協の対応の連続で結局農業はどうなったのか?
結果は広く知られた通りだ。後継者だけでなく、いよいよ働き手さえいなくなろうとしている。耕作放棄地の増加で山林と共に里も荒れ、鳥獣の被害にも歯止めが効かない。高齢者人口がピークとなる2040年には行政サ-ビスも既存の地域単位では立ち行かないという報告が、総務省の研究会から総務相に提出されたばかりだ。ミクロでは様々新しい芽も出ているが、規模拡大にも拘わらず、農業生産の低下は続いている。
そして日本に限らず、世界中で、絶対的に有利な条件を持つ国からの輸入自由化、農業以外からの資金・技術・経営主体の参入促進、そして輸出促進が共通する政策となってしまっている。これらの政策は、農家そっちのけで、自らは農業をやる気も無い政・官・学から発せられる"やらせる論理"だけが跋扈した結果だ。家族農業と地域の疲弊への道である。
ウルグァイラウンド対策の6兆円以降、様々な対策が取られたが、既に20数年以上が過ぎている。曰く、守りの対策としての経営安定来策、攻めの対策としての意欲ある農家への支援・競争力ある農業作り、と政府も言い続けてきた。しかし実際には対策予算は通常予算に吸収され、その農業予算は減り続けている。
農業に対策ありき、の掛け声が続き過ぎている。多分、その結果、農業の価値や食の大切さが見直されないまま、農業は金喰い虫の既得権益頼みの業界だ、という誤った観念だけが社会に定着してしまったのではないかと危惧せざるを得ない。
これだけの金額・時間は、真面目に何かに取り組めば結果を出せるだけのものだ。
◆"対策"、"嘆願"よりも地道な抜本策を
新自由主義的掛け声で成長をあおり立てるだけの"国益"認識はあまりに軽い。それでは済まされないほど地域の疲弊の進行は深刻だ。政治には構想力が問われている。環境・未来の地域社会のあり方を構想し、それを支えるバランスのとれた経済造りと平和的秩序を目指す外交を求めたい。その中で譲れない一線について"対策"ではなく、断固支え、通商交渉でも守りぬくことが、"国益を守る、国益に反しない"ことではないだろうか?
そして、地域の中核的存在である農村・農業の側も、対策を嘆願するのではなく、同じだけの予算、同じだけの20数年以上の時間を掛けるのなら、本来の農業の価値やあるべき姿、その社会的意義の定着にこそ地道に力を注ぐべきだったのではないか? その上で? あるいはそのこととセットで? 直接支払いなどの基本的抜本策の確立に全力を尽くすべきではないだろうか?
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