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【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(090)精密農業の行きつく先は?2018年7月13日

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【三石誠司 宮城大学教授】

 スマート農業、AI農業、IoT農業、そして精密農業…、いろいろと呼び方には違いはあるが、最新の情報技術を農業生産に活用するという点では共通している。研究者や手法の開発者・販売業者はそれぞれの内容は異なると主張するかもしれないが、要は最先端の情報技術と熟練農家の技を、いかにコストをかけずに融合できるかが鍵であろう。

 良く知られているように、「精密農業(PA:Precision Agriculture)」は、GPS(全地球測位システム:Global Positioning System)で得られたデータを農業現場で容易に活用可能になったことにより急速に発展した。ポイントは、対象の「観察」「計測」「記録」、そして得られたデータの「解析」と「制御」、さらには「計画」である。簡単に言えば、全てを数値化(見える化)するということだ。初期の精密農業はこの段階までであったが、近年ではAIの発達により、解析した結果を基に、AIが自動的に判断して最適環境になるよう圃場の状態を制御するということまでが行われている。

 

  ※  ※  ※

 

 さて、米国農務省によると、GPSを活用した最近の精密農業には3つの共通した情報技術が使われているようだ。
 第1は、単純なGPSによる播種や施肥等のガイダンス・システムだ。例えば、播種において、播き過ぎや不足を起こさず、確実に一定量を等間隔・等量で播く。播種や施肥、農薬散布等は小さな畑でも大変な作業だが、広大な農地ではわずかの差が最終的には大きなコストの差になる。そのため、「計算した通りに確実に作業を行う」システムは重宝される。2010-2013年のデータでは主要作物作付面積の約半分にこうしたシステムが適用されているという。
 第2は、マッピング・システムによる畑の状況の詳細な把握である。筆者が穀物取引を実際に行っていた90年代当時からトウモロコシの収穫機にはリアルタイムで単収が表示されていたが、最近では同じ畑の過去のデータとも容易に比較が可能になっているようだ。それだけでなく、土壌成分分析も適宜行うことが可能なようだが、こちらはまだ導入レベルが低く、25%を下回っているという。
 第3は、通称VRTという技術だ。これはvariable-rate input application technologyのことで、直訳すれば「可変速度投入アプリケーション技術」とでも訳すことになる。簡単に言えば、GPSで得られた畑の各々の場所の作物の状況や土の状況に応じて適切な肥料や農薬、水などを常に最適な状況で投入するものだ。
 理想的かもしれないが、実際に行うとなると多くの技術的なハードルがる。そのため、現時点では特定の作物に特化した形での普及が進められているが、それでも特別のソフトウェアを導入し、専用機器のメンテナンスが必要など、安価で一般に普及するまでには、まだしばらくは時間がかかるであろう。
 それでも、農務省によれば、2010-13年の間に、トウモロコシ、大豆、コメなどの生産の約2割は既にVRTにより生産されているという。現在のところ収益性の向上はVRTで1%、GPSマッピングで3%程度に過ぎないようだが、農業生産の方法が全て定量化され、「工業生産」の側面が強くなるとともに、農家の高齢化など社会環境の変化に伴い、農作業の省力化を促進するこうした技術の利用は大規模農場を中心に急速に拡大することが予想されている。

 

  ※  ※  ※

 

 ところで、こうした農業の行き着く先はどこか? 頭の体操で思い浮かぶ極論は、農家が誰もいなくなり、無人の農場がAIにより管理され、最適と考えられる仕組みの中で農作物の生産や収穫が行われる世界かもしれない。それを素晴らしいと見るか、何かがおかしいと見るか、恐らく現段階では価値観によるのだろう。
 あくまでも感覚的な私見だが、こうしたシステムは効率性と生産性という意味では一時的に成果を上げるかもしれないが、長期的には様々な問題が出てくる可能性が高い。その中でも最大の問題は、ある時点で我々人間が自らの生存に最も必要な農業や食料生産について「考える」という行為を放棄することではないかと思う。
 物事は極論だけでは上手く行かない。極論はあくまで参考にすべき視点であり、現実的な選択が必要だ。例えば、将来的に食と農の全てをAIに任せた段階で、我々は作る側からAIに飼育される側になる。誘惑に負けず、その直前で踏みとどまることが出来るかどうかが試される。

 

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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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