【熊野孝文・米マーケット情報】摩訶不思議な主食用米の需給見通し2018年7月31日
西日本豪雨に続き台風12号の上陸と気象災害が立て続けで、コメの流通業者の間でももっぱらその影響を懸念する声が強まっている。農産物、水稲の被害はもちろんのこと物流も滞り、流通業者の中には直接の被害はなかったものの精米工場の機械部品が入手できず、1週間も搗精できないという業者もいる。先週の木曜日、全国から米穀業者が集まり情報交換会が開催された。各地の業者から出た意見は以下のようなものである。
〈北海道〉田植えは順調に進んだが、20日後に低温に見舞われ、10℃以下になったところもあり、移植が遅れたところは分けつが進まず、茎数不足で今後天候が良くても平年作止まりではないか。
〈青森〉曇天、低温が続き生育を心配している。〈福島〉早生は順調に生育している。ただ、コシヒカリは10㎝も徒長になり、普及所の職員もあまり例がないと驚いている。倒伏する可能性がある。極早生の五百川は8月14日には収穫できる。集荷業者の中には新米の買取価格を1万4500円(税込み)で検査料、フレコン代無料と言うチラシを撒いたところがあり、驚いている。
〈茨城〉台風の進路が気懸かりだが、降雨が少なく溜池を使っているところは厳しく、高温障害が心配。
〈茨城〉早生は早いが圃場によってばらつきがある。
〈新潟〉34℃、35℃と言った高温が続き、農協が生産者に水管理を呼びかけている。高温障害が心配。
〈石川〉北陸三県も高温で雨が少ない。8月15日には刈取りできるものもある。
〈大阪〉宮崎コシヒカリは関西着1万4900円のものもあるが、それでも買いが入らない。産地に溜まっているのではないか。売れる値段はどこなのか? 民間は下げが早いと思う。
この会合でもう一つ話題になったのが翌日開催される食糧部会でのコメの需給見通し。とくに具体的数値に関心が強かったのが「年度末在庫数量」。農水省が年度末在庫をどう見通しているのかでコメの相場に影響が出るためだが、公表された資料には今年6月末の在庫はコメの消費量が減ったことから当初予測より増加して190万tになっている。ところが来年6月末の在庫は184万tに減少すると見通している。来年末の在庫が減るということは30年産主食用米の生産量が減少するか、もしくはコメの需要量が増えるかしかないが、需要・供給面でもそう予想している米穀業者少ないので、大方の米穀業者にとっては摩訶不思議な需給見通しと思えたに違いない。
コメの需給見通しの算出方法は公表資料に出ているのでそれを参照してもらいたいが、実は第3者にはほとんど理解不可能な解釈がなされている。まず、主食用需要と言うのは何を指すかであるが、農水省の解釈では冷凍米飯は主食用には含まないがパックご飯は主食用に含む。酒造原料に使われる掛け米は、主食用に含むものと含まないものの2種類がある。もち米は包装餅に使うものも同じで主食用とそうでないものがある。その判断は農水省が行う。生産面はどうかと言うと主食用と非主食用の区分は、制度上は6月末に農水省が非主食用として認定されたものが助成金の対象になるため明確に区分されるはずだが、出来秋の作況調整で非主食用のものが主食用に流れるという事態が発生する。
こうした解釈の上に成り立っているのが主食用米の需給見通しであり、それを算出する担当官はまさに神業を使っているとしか言いようがない。
食管時代に低品位米(くず米等)を流通規制の対象にするか否かで議論があった。出た結論はそうしたコメは「特定米穀」という不思議な名称を与えられ、流通規制の対象から外れた。その結果、規格外米が1等米より高値で取引されるという現象が起きた。現在は低品位米の流通規制は無くなったが、用途限定米穀という法のもと非主食用米の流通は規制されている。それによって30年産で起きる可能性があるのが、非主食用米として助成金支給の対象になっている加工用米の契約価格が主食用米より高くなること。主食用米の高値を維持するために非主食用米と言う制度を作り、同じもコメであるにも関わらず、主食用の需給にカウントしないことによって今の制度は成り立っているのだが、助成金を得ている非主食用のコメが主食用米より高値になった時に制度の在り方をどう解釈すれば良いのか? ここでも神業的な解釈が出て来るのだろうか?
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