【熊野孝文・米マーケット情報】異常に高い気温 盆前に始まった新米取引は?2018年8月7日
「そんな気温になったらイネに限らず、どんな植物でも稔りませんよ」。渇水、高温対策に追われる新潟県の担当者が怒ったような口ぶりで答えた。何を聞いたかと言うと「稲の開花期に36℃以上になったら受粉しないそうですが」と。
そうした異常な高温が現実に起きているのだから聞かざるを得ないのだが、新潟県に限らず、現在も続いている異常高温はすでに様々な農産物に影響が出ている。水稲も例外ではなく、開花期の高温障害に留まらず、出穂以降20日間で1日の平均気温が26.5℃以上になると背白、腹白など乳白未熟粒が発生することが知られている。
新潟県は8月1日、18年ぶりに「渇水情報連絡会」を県庁の危機管理センターで開催した。配布された資料の中に農産物等の状況について以下のように記されている。
◇ ◇
(1)中山間地域の天水田や中小河川の水系の地域で、乾燥により田面が白くなったり、イネの葉に巻き症状が見られつつあり、一部では葉の枯れ上がりがはじまっている状況。また、野菜や果樹についても、全般的に生育不良や葉先枯れなどのほか、実の肥大不足などの症状が見られ、稲や園芸作物で減収や品質低下の恐れ。
(2)一部の養鯉池で水不足が生じており、給餌制限や鯉の移動等が講じられているが、高温や過密による生産量の減少が懸念される状況。
(3)気象台によれば、引き続き高温・少雨傾向が見込まれている。
◇ ◇
この頃は、コシヒカリが出穂して最も水を必要とする時期に当たり、仮に水不足となれば収量減少や品質低下に直結し、新潟米のブランド低下につながりかねない事態である。また、園芸作物、錦鯉についてもさらなる減収や品質低下等による収入減の恐れ。
(4)具体的な被害規模については、現在地元市町村から情報収集中。
農林水産部では県内13カ所にある地域振興局に「高温条件下での新潟米の品質確保に向けた」電話相談窓口を設け、穂肥の施肥や水管理を呼びかけている。
水稲高温障害を長年研究して来た専門家は、高温障害の対策として「稲体を冷やすことが大事で、それには窒素肥料を投入することだ」という。窒素肥料の投入は食味低下を招く懸念もあるが、穂肥だけでなく実肥を施肥することでリスク軽減になる。また、圃場への給水も「田んぼについた足跡に水が溜まるぐらいでも障害を軽減させる効果が見込める」としている。 高温障害で強烈な印象として残っているのは2010年で、とくに埼玉県の被害が深刻で、主力品種の彩のかがやきはほとんどが乳白被害で規格外扱いになった。当時、羽生市のコメ集荷業者を訪ねたところ、その業者は「誰も買い取ってくれないのでうちが引き受けているんですよ」といって地区ごとの規格外集荷数量のリストを見せてくれたが、その個数(30kg袋)で40万袋もあったことは強烈な印象として残っている。集荷価格は通常の1等米価格の3分の1程度と言うもので、気温が高いことでこうした被害が起きること自体が信じられなかった。この経験は高温耐性品種の「彩のきずな」の育種に繋がる。高温耐性品種としては九州の「にこまる」が知られているが、埼玉県でもにこまるが栽培されている。
このほか富山の「てんたかく」、新潟「こしいぶき」、山形「つや姫」、石川「ゆめみずほ」、福井「ハナエチゼン」、千葉「ふさおとめ、ふさこがね」、福岡「元気つくし」、佐賀「さがびより」、熊本「くまさんの力」、宮崎「おてんとそだち」なども高温耐性品種である。
しかし、高温耐性品種であると言われていても障害を受けないということはない。人間の体温に近い気温まで上がるということ自体が想定外で、今年の場合、どのような被害が発生するのか刈り取ってみないと分からないというのが実情だ。
関東の早期米は高温・多照の気象条件が続いたことで刈り取り時期がこれまでになく早まっており、今週には刈り取りが始まる。3日には業者間の新米席上取引会が開催され、8月中渡し条件で千葉ふさこがね1等持込1万3500円、茨城あきたこまち1等同1万3600円で成約した。この席でも高温障害のことが話題になった。話題の中で外食店などに白米を納入している業者から、取引先から「野菜は高くなっているけどコメは安くなるんだよね」と言われたという。これに対して埼玉県の業者が2010年に高温障害を受けた乳白米を5kg980円で販売した過去の経験を紹介した。異常に高い気温の中で、過去に例がないほど早く収穫期が訪れた30年産米は、まさに異例ずくめのスタートとなった。
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