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【小松泰信・地方の眼力】公約は唇寒し秋の風2018年8月29日

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【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

 8月10日自民党の石破茂・元幹事長は9月の党総裁選に立候補する意向を正式に表明した。安倍晋三首相は26日、視察先の鹿児島県垂水市で立候補を表明した。野田聖子総務相は不出馬の方向にあり、石破、安倍、両氏の一騎打ちとなる模様。

◆お二人とも良いこと言いますね。でもネ......

小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) 日本農業新聞(8月27日)によれば、「子どもたち、孫たちの世代に美しい伝統ある故郷を、誇りある日本を引き渡していくためにあと3年、自民党総裁として内閣総理大臣として日本のかじ取りを担う決意だ」と述べた。その後、鹿児島市で開かれた自民党県連主催の会合で、「大切な農林水産業は必ず私たちは守り抜いていく」と強調し、「農業に携わる皆さんの収入が増えていく。安心して規模の大小にかかわらず、再生産に取り組んでいくことができる農業にしていきたい」と語った。
 同紙(28日)で紹介されている石破氏の単独インタビューにおいて、石破農政の要諦を問われて「農業者と正面から向き合う正直な政治であり、あらゆる農業者、農業団体に公正に接する農政だ。信頼なくして、農政改革ができるわけがない」と答えている。JAの役割については、「農村が危機に瀕しているときこそJAの出番だ。私がJAにお願いしたいのは地域マネジメントと営農事業の発展だ。そこに総合農協の意味がある」とのこと。
 また、「アベノミクス」に対抗した「石破ビジョン」において、農業に関して「全国民、全世界が利益を享受するもうかる農林水産業の実現」を明記するとともに、27日の記者会見で「6次(産業)化ということが極めて大きな要素になる」ことを強調したそうだ。

 
 
◆胸のすく毎日新聞による断罪

 毎日新聞社説(27日)は、安倍氏の出馬表明を「具体的な中身はなかった」とするとともに、鹿児島県を表明の場に選ぶ異例の手法も「演出優先」と厳しい。さらに「日銀は金融緩和を続けるとともに、巨額な上場投資信託(EFT)を買い入れて株価を支え、国債を大量に購入して結果的に政府の財政出動を後押ししてきた。そうした方法が市場をゆがめているという懸念は一段と強まっている。......デフレ脱却を大義名分に導入された『劇薬』は、今や効果より副作用の方が心配」と、アベノミクスの行き詰まりを指摘する。
 そして、「問題は安倍首相がこうしたマイナス面に目を向けないことだ」と断罪する。
 石破氏が「金融緩和の出口戦略を模索して金融引き締めに転じる一方、財政再建を重視する考えを示している」ことから、両氏の論戦に期待を寄せている。ただ安倍氏が消極的であることから、「まさか堂々と論戦するのは自分に不利だと考えているわけではあるまい」と、急所を突く。

 

◆求められる地方創生の具体策

 地方票欲しさのリップサービスにはご用心。地方紙がこの一騎打ちをどう見ているかを社説等からみる。
 "スローガンより具体論を"という見出しを付すのは北國新聞(8月28日)。「総裁選の争点として地方創生に再び光が当たったのは喜ばしい。論戦を通じて、極めて深刻な地方の悩みに向き合ってほしい。聴きたいのはスローガンではなく、具体的な政策である」として、て「総花的ではなく、効果的な政策に予算を集中し、地方主導の地方創生の後押し」を求めている。
 同じく実効ある地方創生策を求めているのはデイリィー東北(28日)。石破氏が地方創生担当相当時、地方創生の柱として、中央省庁や大企業本社の地方移転促進をあげたことから、「全面移転が決まったのは文化庁の京都移転だけだ」として、氏が「どの程度の省庁の移転を目指すのか、またそれをどう担保するのかを明確にすべき」とする。首相に対しても、現状を認識し今後の実効ある方策を示す責任を求めている。そして有権者に対しては、政策に実体が伴うのか、その本気度を見極めよ、と注文を付ける。
 気になるのは、これら以外の社説等においても、農業の位置づけや振興に言及したものがないことである。

 

◆改憲ありきへの警戒

 東京(中日)新聞(8月27日)は、「内外の課題が山積する中、憲法改正にはやる安倍氏の姿勢が心配」とする。共同通信社による全国電話世論調査で、秋の臨時国会における自民党改憲案の提出について、「反対」49.0%、「賛成」36.7%であったことから、「国民の慎重論は顧みられることはないのか」と問いかけ、「九条改憲を巡る議論が過熱し、国民にとって肝心の課題が置き去りにされてはならない」とする。
 西日本新聞(28日)は、「国政の現状に鑑みれば『立憲』の精神そのものが大きく揺らいでいないか」と警戒する。そして、「政治家が憲法と向き合い、国民とともに国政の在り方を論じ合うことは重要」としたうえで、「そこでは国民主権を柱とした憲法の精神が生かされているか、国の姿を真摯に見つめることが肝要」とし、「改憲ありき」の姿勢にくぎを刺す。
 そして新潟日報(27日)は、「政権党とはいえ、一党の総裁選に勝利することによって異論を封じ、改憲のお墨付きを得ようと考えているのだとしたら極めて無理筋だ」と、正鵠を射る。

 

◆Uターン就農者の声と農林水産業対策

 今朝(29日)届いた『岡山畜産便り2018.8』(一般社団法人岡山県畜産協会)の〔畜産現場の声〕というコーナに書かれた、瀬戸内市で酪農を営む小橋敏行氏の文章には、つい読み入ってしまった。
 1977(昭和52)年酪農家に生まれ、酪農大学校へ進学。卒業時に「このまま決められたレールを走る人生でいいのか?」と悩んだ末、大都会東京へ。いろいろな経験を経て妻子に恵まれ、大手運送会社で11年間働く。そして激務。「このままでは会社に殺され、家族も崩壊する」と感じ、気が付くと母親へ電話。「帰ってこられ」と母親。2017年4月、退職届と離婚届を出し単身で帰郷。築50年、後継者もなく、そろそろ畳もうとした牛舎は目を覆うような情況。まずは天井一面に張り巡らされた蜘蛛の巣の掃除。
 なんとか持ちこたえて一年が経過。2018年4月復縁。妻は育成の給餌・哺乳担当、愛息は地元の保育園に通園。最後に、「20年間好き勝手にやって来た私に酪農という素晴らしい居場所を残してくれた両親、そして、慣れない土地で頑張って働いてくれる妻と、いつも笑顔で元気にしてくれる息子に感謝の気持ちでいっぱいです。今後は、東京で培ってきた経験・失敗を酪農の経営に生かしながら頑張っていきたいと思います」と、感謝の気持ちと決意のほどが綴られている。
 内閣府が8月24日付で発表した「国民生活に関する世論調査」において、「政府に対する要望」(選択肢は33、複数回答)の最多は「医療・年金など社会保障整備」(64.6%)、これに「高齢社会対策」(52.4%)、「景気対策」(50.6%)が続く。職業別で見ると農林漁業職者では、これら上位三項目に「農林水産業対策」が43.1%と突出した値で続いている。公約を記憶にないとは言わせない。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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