【浅野純次・読書の楽しみ】第29回2018年8月30日
◎田中秀征
『自民党本流と保守本流』
(講談社、1728円)
時宜を得た、示唆するところの極めて大きい良書です。本書によれば自民党には「自民党本流」と「保守本流」があり、前者は岸信介、後者は石橋湛山が源流とされます。
両者の違いは「歴史観、憲法観、経済観、国のかたち」などに現れていますが、自民党本流は先の戦争を反省せず、憲法を改正ないし無視しようとする点で保守本流とは決定的に異なっています。
そして今、安倍首相が権力をほしいままにし、祖父である岸の思想をあからさまに追求し始めたことにより、自民党本流の天下になっていることに、著者は大いなる危惧の念を示しています。
石橋のほか吉田茂、鳩山一郎、田中角栄、宮沢喜一、池田勇人、橋本龍太郎、細川護熙、加藤紘一など保守本流を形作った多くの政治家が入れ替わり登場し豊富なエピソードや鋭い分析が次々に提示されてあきさせません。
しかも保守思想を基本とした著者の優れた思想性が全編を貫いているので、現下の政治を考えるに最良の素材を提供してくれます。
政治の劣化をどう食い止めるのか。日本の外交や防衛はどうあるべきか。選挙制度は。多くの問題提起と示唆が明快に伝わってきます。こんなに刺激的な良い本というのはめったにありません。
◎安倍司
『知ってはいけない外食のウラ側』
(宝島文庫、680円)
本書が描く、あまりに壮絶な外食の裏側には唖然とするばかり。金儲けのためには何でもありというのは、とりわけ食に関しては許されぬ話です。行政に期待はできない以上、私たちが賢くなるしかないのでしょう。
たとえば成型肉とか脂肪注入肉、結着肉、熟成肉など怪しげな肉が激安サイコロステーキとか激安トンカツなどとして提供されています。魚も同じ。回転寿司などでは深海魚が大活躍していて、マグロもどき、イカもどきなど、もどきのオンパレードなのだとか。
もっと怖いのは農薬まみれの中国産野菜の内幕で、業務用が安い輸入野菜に頼るのは当然として、現地で加工されればさらに安いので外食産業には薬品漬けが避けられません。
外食は表示の必要がないので、ブラックボックスの食事をいただくようなものであり、私たちの健康と日本の農水畜産業のために、外食の野放図の拡大にはブレーキを掛けるべきだと痛感します。安すぎれば必ずムリが来ます。外食には十分な注意が必要でしょう。
◎竹内一郎
『人生は「声」で決まる』
(朝日新書、810円)
声は表情に劣らず重要です。俳優やアナウンサーで声が決定的なことは言うまでもありません。でも自分の声のこととなると無関心な人が多いのはもったいないことです。
著者は劇作家・演出家として声の専門家でもあります。まず有名人を例にあげ、声の持ち味、しゃべり方の良し悪しなどを紹介していきます。大原麗子、石川さゆり、田中角栄、中村吉衛門・・・(角栄が悪い例というわけではないですが)。
平凡な私たちの声でも話し方、抑揚、大きさ、スピードなどにより、説得力も聞き手の気分も違ってきます。
ではどうするか。本書後半では、豊かな声をつくるテクニックとメンタルをさまざまに伝授してくれます。呼吸法も大事なのでたっぷり説明があります。私はもともと声が悪いからなどとあきらめる必要はありません。問題は声を大事にして意識して使うかどうかです。というわけで案外、声から人生開けてくるかもしれません。
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