【リレー談話室・JAの現場から】生乳の南北戦争2018年9月3日
北海道の東端に位置する根釧地区は、草地に立脚した酪農の主産地である。根釧地区11JA全体の生乳生産量は、132万トンと全道の379万トンのうち3分の1を超えている。今年は前年度から生産量が回復傾向となっており、前年度比102%程度で推移している。しかし一番草は刈り遅れ、デントコーンも生育不足、二番草も収量減と冷夏、日照不足で今後の粗飼料不足の影響が懸念される。農業は常に自然との共生である。(写真はイメージです。)
また、牛乳の消費も夏の天候(気温)によって大きく変動する。今年の本州のように暑くなると消費は伸びるが、牛は夏バテし消費に応えることが厳しくなる。需給バランスを保つための緩衝役として北海道からの輸送体制が確立されている。ここ数年は本州の基盤低下が進み、年中北海道から飲用乳を本州に送っている。
そうしなければ「店頭から牛乳が消える」こともあるかもしれない。昭和50年代から平成の初期のころは、北海道で生乳がだぶつき本州に持ち込んだらという議論も聞かれた。外圧ならぬ南北戦争勃発かとも揶揄された。しかし狭い国内でいがみ合っても得られることなどあろうはずもなく、大きな混乱は避けられたと記憶している。
ところが今となってはどうかと言えば、北海道から本州に送り込まなければどうにもならない時代に入ってしまっている。「生乳の南北戦争」は今では死語となってしまった。北海道は何とかここ数年基盤維持を図っているが、本州はどんどん基盤が損なわれている。国内の生乳生産量は、ピーク時の平成8年度には865万トンから昨年度は729万トンまで減少してしまった。減少した数量はほとんど本州の生産量である。
暑熱対策や糞尿処理、飼料の確保など本州で酪農を継続するためには、多くの課題をクリアしなければならないが、これ以上の基盤低下は今後の生乳の取引形態などに大きな影響が出る可能性がある。
第一に北海道各地にある乳業工場が維持できなくなる恐れがある。北海道はバターや脱粉をはじめ生クリームなど、加工向けが多くを占めている。地方創生の観点から乳業工場は優等生であるが、飲用向けの本州送りが増加すれば工場操業の原点となる原料不足に直結する。工場再編の情報が既に報道されている。
第二に本州の業者による直接買い付けが発生したことである。本州の基盤低下に伴い、本州の乳業工場に納入される生乳は当然減少する。工場にとって原料が減ることは死活問題である。少々無理をしてでも会社存続のためには何とかしなければという心理が働いて当然である。
この2年間で制度の変わり目もあるが、根釧管内から業者を通じて直接販売に切り替えた酪農家は20数戸に上っている。そのうち当JA管内からも8戸がJAから離れ、切り替えた。北海道と本州の工場間で生乳を獲得するための「新たな南北戦争」が始まっている。
今は100円乳価となり酪農家の手取りは確保されているが、乳価は経済変動や気候による需給変動によってどうなるか先行きは不透明である。毎日、大量に生もので、しかも液体の生乳の取扱いは、停滞することが許されない。一時的に好条件の取引が行われたとしても、持続性が担保されなければ意味がないのではないかと日々感じているのは、私だけだろうか。
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