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【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】類似の手法に注意 ~畜安法・森林管理法・種子法・漁業法をめぐる類似性~2018年9月6日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

 最近の法律改定・制定・廃止には次の二つの話がよく出てくる。
1. 省令で歯止めをかけるから大丈夫
2. 附帯決議で歯止めをかけるから大丈夫
 その結果はどうなっているか。

 

◆省令で歯止めはかけられなかった

 2017年6月に改定された「畜安法」(畜産物の経営安定に関する法律)が象徴的である。生乳の特質(消費者への安定供給には流通・加工量が把握できないといけない)からして世界各国すべての国が牛乳だけは全量出荷を義務付けているが、日本だけが「酪農家の二股出荷を酪農協が拒否してはいけない」という世界に例のない法改定で、農協共販の弱体化を断行した。
 当時の担当局長(事務次官の有力候補だった)が2年前に政権中枢に言った。「これはやり過ぎだ。やめたほうがよい。」そうしたら、答えは「わかった。じゃあ君がいらない」とばかりに、低いポストに配置換え後1年後に退職。担当課長までも配置換えになった。人事権の濫用は恐ろしい。 そのとき、「法律では規定しきれなくても省令で「いいとこどり」の二股出荷は拒否できるように規定するから安心して」と役所は酪農関係者には説明していたので、それならと期待した。実際、担当部局は歯止めをかけられるよう一生懸命知恵を絞っていた。しかし、「上」からの「生乳流通は自由化なのだ。小細工すると、わかっているよね」との圧力で、結局、有効な歯止めはできず、「二股出荷は拒否できない」ことになった。
 来るべき漁業法の改定でも、先祖代々前浜で営々と生業を続けてきた既存の漁業者の集合体である漁協に優先権を認めていた漁業権の優先順位を廃止するにあたって、法(または省令)で、「既存の漁業権者が水域を適切かつ有効に活用している場合は、その継続利用を優先する」と規定し、「適切かつ有効に」の定義は省令(またはガイドライン)で定めるとの案がある。「畜安法」の経験からすれば、省令で歯止めをかけるという「罠」を疑わざるを得ない。

 

◆林業も類似の事態になっている

 しかも、類似の事態が林業でも進行している。2018年6月、「経営意欲の低い経営者」から、強制的に木材産業(素材生産業者など)にその管理・伐採を委託する森林経営管理法が成立した。
 「経営意欲が低い」と市町村に判断されると、強制的に(=当人の同意がなくとも)経営権を剥奪され、「意欲と能力のある」受託企業がそこの木を伐採して収益を得ることができる。無断で人の木を切って販売して自分の利益にするというのは、盗伐に匹敵するほどの財産権の侵害で、憲法29条に抵触しかねない。既存漁業者から漁業権を剥奪するのと同様である。
 森林経営管理法の19条には、本人の同意がなくとも、「不同意森林の自然的経済的社会的諸条件、その周辺の地域における土地の利用の動向その他の事情を勘案して、当該確知所有者不同意森林の経営管理権を当該申請をした市町村に集積することが必要かつ適当であると認める場合には、裁定をするものとする。」とあり、「経営意欲の低い経営者」として強制的に経営権を剥奪するかどうかは、いかようにも恣意的に判断可能なものとなっている。
 しかも、その最大の受け皿は大手リース企業が展開する木材チップによるバイオマス発電事業といわれている。これを支援するために、震災復興税の事実上の無期限延長である森林環境税(1人1000円)も投入される。至れり尽くせりの便宜供与を受けるのは、急展開で企業が農地を買えるようになった農業の国家戦略特区に手を挙げたのと同じ企業である。
 貿易自由化で追い込まれた中でも、何とか頑張ってきた林家に対して、今度は、「経営意欲が低い」として、特定の企業が「盗伐」して自分のもうけにしてよいという。しかも、伐採が増えてハゲ山を増やしかねない事業に森林環境税で手助けして、さらに、異常気象と洪水発生を頻発させていくという悪循環が増幅されかねない。
「水域を適切かつ有効に活用していない」漁家から漁業権を奪うことを可能にする漁業改革には林業改革と極めて類似した意図が感じられる。「適切かつ有効」の判断基準を曖昧にしておこうとするもくろみに歯止めをかけないと極めて危険なことがよく理解できる。
 さらに付け加えると、森林経営管理法については、起草段階で内閣法制局が憲法・民法に抵触すると疑義を呈したが、政治判断で押し切られた経緯がある。

 

◆附帯決議は何の歯止めにもならなかった

 さらには、来るべき漁業法の改定においても、「附帯決議で歯止めをかけられる」との見方があるが、これは明らかに間違いである。
 そもそも附帯決議には政治的効果があるだけで何の法的効力もないと、わざわざ参議院のホームページにも書いてある。附帯決議は、国会審議で賛成・反対の双方がよく頑張ったというパフォーマンス、アリバイ作りで、気休めにもならないことを肝に銘じておく必要がある。6月29日のTPP11承認の附帯決議で「これ以上のアメリカからの要求には応じない」と書いたからといって歯止めになるわけがない。
 種子法廃止法にも「優良な種の安価な供給には、従来通りの都道府県による体制が維持できるように措置すべきだ」との附帯決議が入ったから大丈夫のはずとの意見が筆者にも寄せられたが、「附帯決議は守らないために決議している」と筆者は答えた。
 案の定、種子法廃止(2018年4月1日)に備えた「通知」(2017年11月)は、「従来通りの都道府県による体制が維持できるように措置する」という附帯決議に真っ向から反して、早く民間事業者が取って代われるように、移行期間においてのみ都道府県の事業を続け、その知見も民間に提供して、スムーズな民間企業への移行をサポートしろと指示している。つまり、至れり尽くせりで、早くグローバル種子企業がもうけられる下地を農研機構や都道府県が準備することを要請しているだけだ。 しかも、重大なことは、役所の担当部局と主要県の担当部署が相談して都道府県の事業継続のための案を工夫して作ったのだが、「上」からの一声で、「県が継続して事業を続けるのは企業に引き継ぐまでの期間」と勝手に入れられてしまった事実だ。「畜安法」と同様、担当部局が頑張っても、最後は「鶴の一声」で「ジ・エンド」である。
 ごまかしやカムフラージュの裏に透けて見える目的は共通して、相互に助け合って自分たちの生活と地域の資源とコミュニティを守ってきた人々から収奪して「お友達」企業への便宜供与を貫徹することで、はなから「上」の腹は決まっているのである。
 「振り込め詐欺」ではないが、パターン化された類似の手口には注意が必要である。

 

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鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】

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