【城山のぶお・リメイクJA】第4回 職能組合論と地域組合論2018年9月7日
職能組合論と地域組合論は、第二次大戦後、農協研究で今日まで戦わされた代表的な農協論だ。この議論は、1960年代からの日本の高度経済成長の下、都市化の中でJAの准組合員が増え、信用・共済事業が大きく伸長することで、JAが農業協同組合として組織の性格を問われることになったことで表面化した。
職能組合論の主張は、農協は農業振興を旨とする組織であり、地域性には必ずしも重きを置かない議論である。職能組合の構成員は主に専業農家であり、農産物の販売が主たる業務となる。念頭に置かれるのは農産物生産・販売の専門農協である。職能組合論の旗頭は、佐伯尚美(元農林中金調査部・東大名誉教授・1929~2018年)であった。
佐伯は「地域原理とは、それのみをもってしては協同組合形成の基本原理となりうるものではない。地域原理という言葉によって意味されるものは、同一地域に居住することによって生ずる一般的な人間的連帯感ないし親近感であり、単にそれだけのことである」「およそ経済的要因(いわゆる職能原理)による組合など論理的に存在するはずがない」として地域組合論を排した。
これに対して、地域組合論を主張したのは鈴木博(元農林中金調査部・長崎県立大教授・1932~2010年)であった。鈴木は、わが国の農協はもともと一元的な職能組合ではなかったとする。そして、准組合員制度に着目して、この制度によって農協は地域内の居住者をその職業のいかんにかかわらず組織することができた地域協同組合として発展してきたのだと主張した。
また、協同組合の結合原理について、協同組合の組織化の軸となるものは、生産・生活のそれぞれの場における具体的な協同活動そのものであり、佐伯の言うような特定の職能に限られるものではないとした。1983年には、鈴木博編著による「農協の准組合員問題」(全国協同出版社刊)が発刊されている。
このような、JAは職能組合か地域組合かの議論はなぜ戦わされたのか。それは、戦後の農協が農協法に基づき、信用事業を兼営する総合農協として、また地区内の住民を職業のいかんを問わず組合員として抱えることができる准組合員制度を持ちながら発展してきたからである。
JAが職能組合か地域組合の議論は、その発端から今日まで半世紀の長きにわたって続けられてきた農協論であり、今次の農協改革で見直しが迫られている基本的問題の一つである。
その理由はこれから述べるが、この議論の今日までの帰趨をみると、結論的には地域組合論圧勝に終わった感があった。それは、現実のJAの発展の姿に表れていた。今日までの運動過程で、JAは職能組合論者が唱えるような専門農協になることはなく、むしろ専門農協を包含・吸収してきたし、信用・共済事業兼営の総合農協として、また准組合員の加入によって大きく発展してきたからである。
ちなみに、これまでの農協論としては、こうした職能組合・地域組合論のほかに、代表的なものとして統一協同組合論、産消混合型組合論などがある。統一協同組合論は、職能別に分かれている現状の協同組合を共通する一つの協同組合法にまとめ、そのもとで自由に職能組合を組成し、互いに競わせることで組合員の負託に応えようというもので、炭本昌哉(元農林中金調査部・学習院大学講師)によって主張された。
また、産消混合型組合論は既存の協同組合に拘らず、生産者・消費者の枠を超えた協同組合を構想するもので、河野直践(茨城大学教授・1961~2011年)によって主張された。
そのほかの多くは、職能組合論と地域組合論の中間の立ち位置をとる学者・研究者が多かった。このうち、どちらかと言えば職能組合論に近い立場をとったのが太田原高昭(北海道大学名誉教授・1939~2017年)であり、中間かむしろ地域組合論よりの立場に立ったのが藤谷築次(京都大学名誉教授)であった。
次回は、職能組合・地域組合論を顧みて、その終焉について述べてみたい。
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