【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】「強い農業」は災害に「弱い農業」? ~9月10日(月)テレビ収録用質疑資料~2018年9月13日
◆国内の"生乳の危機"の現状は?
都府県の生乳生産の減少が止まらず、北海道だけで全国の生乳の50%以上を生産している現状になっている。何とか頑張っている北海道への依存が強まってきているが、それでも、この夏、特に学校給食再開の9月初めにも、小売店頭から飲用牛乳が欠品する日が出る可能性が心配されていた。
背景には、趨勢的な所得の低迷(飼料価格の高騰、乳牛価格の高騰、所得の下支えが不十分なこと)、貿易自由化(TPP11、日米FTA、日欧EPAなど)や制度改定(酪農協の共販の弱体化)などによる将来不安といった複合的な要因がある。
◆今回の地震によって、さらに危機は高まった? なぜ?
北海道への依存が強まっている中、ただでさえ、この夏、特に9月初めには小売店頭から飲用牛乳が欠品する日が出る可能性が心配されていた矢先に、頼みの北海道がこんな惨事に見舞われたため、小売店頭から牛乳が消えるリスクは一気に顕在化した。
◆今年6月15日の『生活と自治』ウェブ版(生活クラブ)**などで指摘されていた"還元乳"増加の可能性は?
国は、不測の事態には、バターと脱脂粉乳を追加輸入して水と混ぜて「還元乳」を飲めばよい、と言うが、方向性が間違っている。新鮮な栄養価の高い牛乳は輸入できない。まず、安全で新鮮な国産牛乳を確保するために国産牛乳の増産を図るのが国民の命を守る国の使命ではないか。
◆こうした北海道の酪農の現状は、たとえば都内のスーパー・消費者に対しどのような影響が出てくるとみられるか?
現に、9月10日の午後には、都内のスーパーでも牛乳コーナーがカラになる店が多く見られた。一日も早く被災地の酪農・農業が回復するための、そして、災害が引き金になって廃業に向かう農家が出ないようなサポートの充実が欠かせない(イージス艦1隻に1500億円、オスプレイ17機に1700億円、イバンカさんへのお小遣いが57億で北海道の災害復旧費は5億4千万円?)。災害が引き金になって廃業に向かう農家が増えるようなことになれば、それは日常的に牛乳が欠品するリスクを高めることになる。
店頭から牛乳が消えたら、育ち盛りの子に牛乳を飲ませられない。重大な国民の命の危機である。消費者や小売店は牛乳を特売品にせず、北海道でも都府県でも、頑張っている酪農家・農家を適正な価格で支えることが、子供の命と健康を守るために不可欠だということを、今回の危機を契機に、今こそ気づかなくてはいけない。
カナダの牛乳は1リットル300円で、日本より大幅に高いが、消費者はそれに不満を持っていない。筆者の研究室の学生のアンケート調査に、カナダの消費者から「米国産の遺伝子組み換え成長ホルモン入り牛乳は不安だから、カナダ産を支えたい」という趣旨の回答が寄せられた。生・処・販のそれぞれの段階が十分な利益を得た上で、消費者もハッピーなら、高くても、このほうが皆が幸せな持続的なシステムではないか。「売手よし、買手よし、世間よし」の「三方よし」が実現されている。
我が国のように、買いたたいてビジネスができればいい、消費者も安ければいいと、こんな「今だけ、金だけ、自分だけ」の「3だけ主義」を続けて、しわ寄せを生産サイドに集中して、農家がやめてしまったら一番困るのは国民である。みなで泥舟に乗って沈んでいくのだと国民が自覚しないと手遅れになる。
また、今回の停電は、貿易自由化にも負けない生産コスト削減を目指して推進されてきた酪農・農業の「工業化」(機械化、自動化、ロボット化、巨大化)が災害に弱いのではないかという疑問も改めて提起した。「災害にも自由化にも強い、自然の摂理に従った環境に優しい複合的な循環型酪農・農業」の再評価・再構築の議論が求められる(参照: 北林寿信「TPPに強い農業は災害に弱い農業~フランスの教訓」2016年4月21日)。
*大坂なおみ選手の快挙により、本VTRは没になった。
**相次ぐ酪農の廃業。今夏、牛乳が品薄になる恐れも | 生活と自治
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鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】
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