【城山のぶお・リメイクJA】第7回 JAはなぜ地域組合の立場をとってきたか2018年9月28日
JAはこれまで地域組合の立場をとってきた。すでにのべたように、1970年の「生活基本構想」(第12回全国農協大会議案)では、「JAは農業者だけの組織たるにとどまらない組織」であるという表現が見えるし、今JAが進めている自己改革でも、JAは職能組合であると同時に地域組合の性格を持つ組織であるという立場を崩していない。
それでは、なぜJAは地域組合の立場をとってきたのか。それは言うまでもなく、JAは准組合員制度により、地域内の居住者をその職業のいかんにかかわらず組織することができたのであり、法律の趣旨を忠実に自らの組織のあり方として主張してきたのである。
その意味では、JAが自らを地域組合の側面を有する組織と主張してきたことは全く正しいし、そのもとで准組合員加入の促進など准組合員対策を講じてきたことは何ら指弾されることではない。このように考えると、法律でその存在が保障されている准組合員に対して事業利用規制をかけるのは全く不当なことといえる。
また、JAが自らを地域組合と主張するにはもう一つの理由がある。それは農業振興の困難さである。農業の重要性を否定する人はいないが、実際の農業経営は厳しく、農業従事者は減少の一途をたどってきている。そのことを反映して、JA経営も営農・経済事業の多くは赤字だ。
JAは農業振興を第一義とする組織であることは理解できても、JAが農業振興に注力すればするほどJA経営は立ち行かなくなる。農業が厳しい立場におかれているのは、農業政策によるものでJAのせいではない、農業不振の理由をJAに押し付けられるのはご免こうむりたいという思いからだろう。
また、このこと関連があろうが、地域組合論を唱えることが農業振興のみならず、協同組合運動一般を賛歌するのに何かにつけて好都合で、JA役職員を勇気づけるものであったからだ。
これまで、地域組合論の行き詰まりを述べてきたが、実のところ、今回の農協改革までは、筆者もどちらかと言えば地域組合論の立場をとってきた。それは実務者の立場から農業振興はきれいごとではなく、一筋縄ではいかないことをよく理解できたからだ。
加えて、農家以外の地域住民が准組合員として認められているのだから、JAの存在はその数によって左右されるべきではないという発言をしてきた。
また、一時期は組合員資格を問わない産業組合への回帰さえ考えたこともあったが、戦後、職能別に再編された協同組合法制の歴史の歯車を逆に回すことは不可能であり、また、そうすることが農業振興には必ずしも結び付かないことに気付くのにそう時間はかからなかった。
だが、そのような発言・認識をしつつ、一方で今回政府から准組合員の事業利用規制問題が打ち出されて以来、従来の地域組合論では対応ができないことを感じており、その思いは日々強くなっている。
その理由は、言うまでもなく、JAの准組合員数が総体として正組合員の数を上回り、しかも年々その傾向が強くなってきているということだ。JA内では、これまで、法律に基づいて准組合員対策を進めてきているのであり、政府の事業利用規制は不当だという空気が強い。
しかし、准組合員数が組織の過半を占めるようになって、それが組織の変質ととられ、国民からJAは本来どのような組織であるのかを問われることになることとは別問題である。
また、JAが取ってきた准組合員対策は、本来の農業振興とは関係なく、員外利用制限を逃れるために、おもに信用・共済事業を伸長するために行われてきたことは事実であり、こうした面からも、JAの組織的性格が問われているというべきである。
JAは准組合員利用による信用・共済事業の収益が農業振興を支えているのだという准組合員制度の正当性を主張するのに加え、そもそもJAとはどのような組織かを改めて組織の内外に明らかにすべきことが必要になってきている。
准組合員問題の深刻さは、JA(全中)が自民党インナー政治の下で中央会制度の廃止と引き換えにしたほどで、自身がそのことをよくわかっているにもかかわらず、JAのあり方の根本問題が議論されないのはどうしたことか。
JAグループは、准組合員数が総体として正組合員の数を上回り、しかも年々その傾向が強くなってきているという事態をもっと重く受け止めるべきである。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(138)-改正食料・農業・農村基本法(24)-2025年4月19日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(55)【防除学習帖】第294回2025年4月19日
-
農薬の正しい使い方(28)【今さら聞けない営農情報】第294回2025年4月19日
-
若者たちのスタートアップ農園 "The Circle(ザ・サークル)"【イタリア通信】2025年4月19日
-
【特殊報】コムギ縞萎縮病 県内で数十年ぶりに確認 愛知県2025年4月18日
-
3月の米相対取引価格2万5876円 備蓄米放出で前月比609円下がる 小売価格への反映どこまで2025年4月18日
-
地方卸にも備蓄米届くよう 備蓄米販売ルール改定 農水省2025年4月18日
-
主食用МA米の拡大国産米に影響 閣議了解と整合せず 江藤農相2025年4月18日
-
米産業のイノベーション競う 石川の「ひゃくまん穀」、秋田の「サキホコレ」もPR お米未来展2025年4月18日
-
「5%の賃上げ」広がりどこまで 2025年春闘〝後半戦〟へ 農産物価格にも影響か2025年4月18日
-
(431)不安定化の波及効果【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月18日
-
JA全農えひめ 直販ショップで「えひめ100みかんいよかん混合」などの飲料や柑橘、「アスパラ」など販売2025年4月18日
-
商品の力で産地応援 「ニッポンエール」詰合せ JA全農2025年4月18日
-
JA共済アプリの新機能「かぞく共有」の提供を開始 もしもにそなえて家族に契約情報を共有できる JA共済連2025年4月18日
-
地元産小粒大豆を原料に 直営工場で風味豊かな「やさと納豆」生産 JAやさと2025年4月18日
-
冬に咲く可憐な「啓翁桜」 日本一の産地から JAやまがた2025年4月18日
-
農林中金が使⽤するメールシステムに不正アクセス 第三者によるサイバー攻撃2025年4月18日
-
農水省「地域の食品産業ビジネス創出プロジェクト事業」23日まで申請受付 船井総研2025年4月18日
-
日本初のバイオ炭カンファレンス「GLOBAL BIOCHAR EXCHANGE 2025」に協賛 兼松2025年4月18日
-
森林価値の最大化に貢献 ISFCに加盟 日本製紙2025年4月18日