【小松泰信・地方の眼力】TAGも忖度なら「期待できナイ閣」2018年10月10日
「厳粛だった会場の空気が一変したのは、菅氏が『沖縄の現状は到底是認できない』などと語った時。会場に『うそつけ』などの声が上がった。菅氏が追悼の辞を読み終え、降壇しようとすると、怒号は一段と拡大。ざわめきの中で『沖縄県民をなめるんじゃない』などの言葉が続いた」ことを、今朝(10月10日付)の東京新聞が1面で伝えている。翁長雄志・前沖縄県知事の県民葬でのこと。菅氏とは、生前の翁長氏に対して失礼の限りを尽くし、先の県知事選では沖縄に数回入り相手陣営を鼓舞した厚顔無恥の官房長官。
◆本当のことはアメリカに聞け
10月6日の日本農業新聞は、米国のパーデュー農務長官が4日、日本との貿易交渉を巡り、環太平洋連携協定(TPP) や日本と欧州連合(EU)経済連携協定(EPA)以上の農産品の関税引き下げを目指す考え方を示したことに関して、紙面の多くをさいた。
「日本がEUに与えたものと同等かそれ以上の市場開放を期待する」「米国の目標は、原則TPPプラスになる」と、氏が語ったことから、今後、米国側が圧力を強めてくるのは必至、としている。さらにペンス副大統領が同日の演説で「日本と歴史的な自由貿易の取引に関する交渉を間もなく始める」と述べ、実質的に自由貿易交渉(FTA)交渉ととれる発言をしたことから、TAGは「FTAではない」と説明している日本政府は整合性が問われそうだ、としている。
これに関して、野村哲郎氏(自民党農林部会長)は発言の「意図が分からない」と眉をひそめ、「TPP以上は絶対にできない。日本政府を信じるしかない」、山田俊男参院議員は「米国の意向が先行してあらゆる分野の交渉に引きずり込まれ、(農産物を含む)物品との取り引きに持ち込まれると、とんでもないことになる」「徹底して日本農業を守るという姿勢をよほど確立して望まないといけない」とのこと。
当然、閣僚からはパーデュー氏の要求を拒否する意向が出された。
菅氏は「日本側の立場を米国は尊重すると(日米共同声明に)明記されており、それが日米共通の認識だ」と強調し、世耕弘成経済産業相も、「国民から懸念がない形で今後の交渉を行える環境は整えられている」「日米で協議していく協定は包括的FTAではないと理解している」と語り、河野太郎外相に至っては、9月下旬の日米首脳合意とのずれを認めたうえで、「(米国側が)FTAをどう定義しているのか、分からない」と他人事。
同紙に意見を求められた柴田明夫氏(資源・食料問題研究所代表)の見解は、次の4点に整理される。
(1)安倍政権の見通しの甘さが露呈し、農業者が恐れていた事態になった。
(2)日本との2国間交渉でTPP以上の農林水産品の関税引き下げを求めてくることは必至と予想されたが、パーデュー氏の発言によって、その強硬姿勢が明白となった。
(3)この日本への圧力は、1ヵ月後に迫った米中間選挙を前に、成果を急ぎたいトランプ政権の気持ちの表れである。
(4)安倍政権が従来から行ってきたのは、一時しのぎの対応。今後、政府は真実を隠し続ける恐れがある。農業が犠牲になることは許せない。農業者にとって先が見えない状況を作り出しているに過ぎない。
結局、自民党の農林族は被害者面をしているが、政府の動きは容易に想定できたはず。要は政府とグルの共犯者。奴らも息を吐くように嘘をつく。本当のことは宗主国の長官に聞くのが一番ですか。
◆TAGも首相への忖度による捏造か
奇しくも、6日付しんぶん赤旗の一面には、"「TAG」は捏造の疑い 日米共同声明 日本政府訳にのみ記載 首相答弁との矛盾隠す"の見出し。同紙は、日米共同声明の英語(正文)には、Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services となっており、物品(goods)だけでなく、サービスを含むその他重要分野(other key areas including services)も書き込まれていること。さらに、TAG(物品貿易協定)という言葉さえ独立的には記されていないことを指摘する。にもかかわらず、外務省が発表した日本語訳ではTAGの交渉開始が、「あたかも物品のみの交渉」であるかのような表現となっている。このことから、トランプ政権との交渉を「日米FTA(自由貿易協定)交渉と位置づけられるものではなく、その予備協議でもない」とした、5月8日衆院本会議での安倍晋三首相の発言と、整合性をとるためのものと同紙は睨んでいる。ゆえに、忖度による捏造の疑い濃厚。まして、在日米国大使館のホームページに掲載している日本語訳は、「物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する」としている。宗主国の日本語訳のほうが信じるに値するとは、嘆かわしい。
鈴木宣弘氏(東京大学教授)によるコメントは、「日米共同声明にTAG(物品貿易協定)という言葉は存在しません。......今まで日米FTA(自由貿易協定)交渉をやらないと説明してきたのに、やることにしてしまったから、日米FTAではないとうそをつくために、無理やり編み出した造語です。非常に悪質です。もともと日本政府は物品とサービスを含むものがFTAだと定義してきました。今回合意したのは紛れもない日米FTAの交渉入りです」と、明快である。
◆"期待できナイ閣"と太鼓判
毎日新聞社が10月6、7日に実施した全国世論調査において、「今回の内閣改造で、安倍内閣に対する期待は高まりましたか」という問いに、「期待が高まった」が8%、「変わらない」が47%、「期待できない」が37%であった(毎日新聞8日付)。5割を占める「変わらない」という回答者の意識にも注意を払うべきではあるが、「期待が高まった」とする回答者が1割未満であることは、国民から"期待できナイ閣"と太鼓判が押されたことを意味している。
日本農業新聞(4日付)は、片山さつき規制改革担当相が3日の就任会見で、規制改革推進会議の委員から「ちょっと緩んでいる部分があるから大臣からばんばん言ってほしいと話があった」と述べたことを紹介した。ところが同紙5日付では、この発言が、規制改革の加速を担当相に催促していると受けとれ、安倍政権が掲げる「謙虚で丁寧」な政権運営に逆行する、ということで物議を醸していることを伝えている。馬鹿女将なりに正直に語り、言われた通りに動くはず。もちろん「傲慢で杜撰」をモットーとして。
自民党農林議員Aは困惑した表情を浮かべて、「一体誰が、そんな発言をしたんだ」「農家から約束違反との批判を浴びかねない」、同議員B は「首相が『謙虚で丁寧』と言っているそばから、規制会議の委員が担当相をたきつけるかのような発言をするとは言語道断」。ここでも被害者面した雁首二つ。加えて、農業団体幹部は「今度こそと思ったけど、やっぱり(行き過ぎた改革路線は)変わらないのでは」と不安げ。下手な顔芸三連発。こんな連中に期待できるわけナイだろう。
「地方の眼力」なめんなよ
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