【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(103)わかっているけど止められない(?)2018年10月19日
ある種の嗜好品や生活習慣、そして他人とのコミュニケーションから仕事のスタイルに至るまで、「わかっているけど止められない」ということが世の中には数多く存在する。
ある事柄や行動について、最終的には「良くない」とわかっていても止められない理由は様々である。自分1人くらい、この程度なら...といったレベルから地域社会やより広いレベルでは国際関係、あるいは地球全体のレベルまで、「どうもこのままではまずい」ということを何となく深層心理では認識していても、実際の行動は良くないことを継続している。誰にでも多少は身に覚えがあるのではないだろうか。
少なくとも今の仕組みの元では現状の対応が最善の場合はまだ良い。時には仕組みを根本から作り直すことが必要と何となく認識はしていても、それを本当に実行するとなれば膨大な手間と費用・労力がかかるし、代替の効かないリスクや責任もある。そのため、限られたリソースの活用という点では不十分ながら現状の対応を継続せざるを得ない...あるいは作り直しも中途半端のままになり、振り子が振れるように新旧の間を揺れ動く。こうしたことは社会のあらゆる側面で目にすることができる。
人間が社会性を持つ動物である以上、人や組織の活動に様々な不合理や不条理が生じるのはやむを得ない。「〇〇は健康に悪い」とさんざん言われながら、街頭には「巧妙に」本質を隠した形での宣伝が溢れている。今や、我々は一人ひとり、何がホンモノか、全てを自分で判断しなければならないにもかかわらず、口コミやランキングを見ないと目の前の事象の良し悪しすら判断できなくなりつつある。専門家ですら中立ではなく、どちらサイドの専門家かを意識してから意見を聞くことに慣れてきたようだ。
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東京である会議が終了した後、こんな雑談をした。提示されている政策は内容も意義もわかる。その問題点や対応方法もわかる。国を担う人々がそれに必死で取り組んでいるのもわかる。
しかし、もしかすると、問題の本質は全く異なるのではないか?本当に考えなければいけないことは、実は違うのではないか? では、それは誰が考えているのか? 我々は本質から無意識に目を逸らしているのではないのか? 本当に必要なことがものすごく大変な場合、誰がこの一番やりたくない仕事をやるのか? この会話は本当にエンドレスになりそうだったので、地下鉄の駅が近くて助かった。
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話は変わるが、かつて、大きな駅の近くには必ず1つや2つ司法試験予備校が存在した。司法試験をめざした受験生は大学とは別にこうした学校に通った記憶があると思う。各校には専任講師と、各地の大学教員がアルバイトで教えていたこともあった。古き時代である。その後、こうしたアルバイトは禁止された。
20年ほど前になるが、筆者が大学院で法律を学んだ頃には、司法試験予備校もかなり集約され、大手が少数しか存在していなかったが、当時驚いたのは既に専任講師も数名で済んでいたことだ。講義はDVDに録画され、受験生はそれを好きな時間に好きなところで見て受験のテクニックを学んだ。ある予備校など、数人の教員で数千名の受験生を抱えていた。このDVDは高額だが、時間の無い社会人学生には非常に評価された。
最近は全て携帯で講義を受講可能だ。費用は月々数千円、受講者数は数万人という。講師は恐らく「多くて」数名であろう。2012年にオーストラリアに滞在した際、オンライン大学で学ぶ同僚が1科目の履修者数「5万人」と聞いて驚いたが、日本でもそれに近い状況が出現しつつあるのかもしれない。
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筆者の勤務する大学は総学生数2000人程度の小規模な組織である。1科目5万人のクラスなど全く縁が無いが、数名から数十名に対し、伝えるべき「モノの考え方」を伝えている。恐らくは「口伝」に起源を持つであろう、この非効率で時間のかかる仕組みは人類が長い時間をかけて繋いできたものだ。
2045年と言われている「シンギュラリティ」を見据えると、こうした伝授方法も今や絶滅に瀕した教え方なのかもしれない。AIを信奉し、怒涛のような流れを推し進める人達と、何となくわかってはいても流れには懐疑的、あるいは慎重な人達の間で、今後も様々な軋轢が生じると思う。目の前の事象は千変万化するが、物事の本質を見極め、それに正面から取り組むこと、その姿勢はいくつになっても持ち続けたいものだ。
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