【森島 賢・正義派の農政論】米中の体制間摩擦2018年10月22日
米国と中国との間の貿易摩擦は、たがいに相手からの輸入品に高い関税をかけ合って譲らず、いまや経済摩擦の様相を呈している。
世界中の人たちは、これに重大な関心をもって注目し、世界経済の先行きに不安を感じはじめている。
この貿易摩擦に端を発した摩擦は、経済摩擦にとどまらず、両国の体制間摩擦にまで広がろうとしている。新しい冷戦だ、という識者さえいる。それ程までに、米中間の貿易摩擦の根は深い。そのことを市場は敏感に感じとっている。
米国の中国に対する不満は、多額の貿易赤字にとどまらない。中国の政治・経済体制に対する不満が、その底にある。それは、経済に対する政府の規制である。経済に対する政治の支配、といっていい。具体的には、政府の国有企業への多額の補助金であり、企業活動、ことに外資系企業の企業活動への政治の介入である。
中国は、主要な産業は国有企業が担っている。だから、国有企業への財政資金の投入は当然だろう。それを否定すれば、憲法第1条で決められた社会主義国ではなくなる。
また、中国の会社法によれば、中国の会社は、会社内に共産党組織をおき、その活動に協力することになっている(第19条)。
この条項に対して、一部の外資系企業から、経営への介入を懸念する声が聞こえる。政府が民業を圧迫して経済を歪めている、というわけである。
しかし、中国はこれに対応しようとしない。外国企業は、中国の法律を守る義務を承知した上で中國へ進出したのではないか、と中国はいいたいのだろう。
◇
中国は、資本主義的市場を利用できる範囲では利用する。しかし、社会主義国として、政府の市場への介入は止めないだろう。それを譲れば社会主義国ではなくなる。
また、米国は中國の一党独裁体制を非難する。たしかに一党独裁体制は、中國の致命的な弱点である。これは容認できない。しかし、それは開発途上国のどこにでもみられる暫定的な独裁体制の一種である。それは、国内の勢力と、国外の悪意ある、無法で暴力的な勢力が結託して、政権を転覆しようとする謀略を阻止するために、必要な体制なのだろう。
しかし、それはやがて解消するだろう。それは、自国が決めることで、他国がとやかく干渉できることではない。
この一党独裁体制と社会主義体制とは分けて考えねばならない。中国は一党独裁を止めても、社会主義を放棄して、政治が経済に介入することを止めることはないだろう。
◇
米中の間の、いまの貿易摩擦は、中国の社会主義体制に起点がある。
中国は、いまの政治・経済体制を、さらに社会主義体制の方向へ向けようとしている。つまり、政治の経済に対する規制を、さらに強めようとしている。
それに対して、米国は中國のいまの社会主義体制、つまり、経済に対する政治の規制を弱めて、企業、ことに外資系企業の企業活動の自由を広げさせようとしている。そうして中国を、より資本主義体制へ近づけさせようと考えている。
この体制間の確執を解消するには、互いに武力を背景にした内政干渉ではなく、両国の国民が、自分自身で、平和のうちに解決するしかない。
◇
中国も頑迷な社会主義国ではない。鄧小平以来、資本主義的な市場を大幅に取り入れている。資本主義国と見紛うばかりである。
米国も頑固な資本主義国ではない。こんどのNAFTA交渉では、時給が16ドル(約1800円)以上の労働者が生産した自動車の輸入を歓迎し、それ以下の低賃金国からの輸入車を制限し、制限を超えたものには高い関税をかけることに合意した。つまり、政治が貿易だけでなく、外国の労働市場にまで介入した。
このように、米中の両国とも自国の政治・経済体制に、あくまでも固執しているわけではない。両国とも、国民がかたくなに固執することを許さないのだろう。だから、冷戦などといって武力を背景にしたにらみ合いを続けるのではなく、自国の国民世論を背景にして、互いに相手国の体制を批判しあい、切磋琢磨しあえばいい。そうして、互いにより良い体制を目指せばいい。
◇
とはいうものの、中国は社会主義国としての体制の根幹を、断固として堅持しようとしている。また米国も資本主義国に純化しようとする大きな流れを、根本的に反省する気配はない。
こうした流れの中、安倍晋三政権の日本丸は、トランプ大統領の米国丸の右舷の前方で、不様な姿をさらけ出しながら迷走している。
だが、日米FTA交渉で、農業を犠牲にして自動車を守る方向だけは定めているようだ。それに対する野党の反撃は、残念ながら鈍い。農業者はいら立っている。
(2018.10.22)
(前回 自由貿易のたそがれ)
(前々回 立憲、国民は保守政党か)
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