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【熊野孝文・米マーケット情報】ササニシキ系のコメなら消費が増える? 食味テストの現場から2018年10月23日

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【(株)米穀新聞社記者・熊野孝文】

 新米が出回る時期にコメ卸や小売店が必ず行うことがある。それは新米の試食で、特に新品種は念入りに試食する。
 試食する前に玄米や精米の穀粒判別器で品位データを取り、それから試食するのだが、米穀業者の中には少し変わった試食のやり方をするところもある。この業者は同じコメを2つの炊飯方法で炊いて試食する。一つは一般的なIH炊飯器で炊いて試食するやり方なのだが、もう一つは土鍋を使った炊飯で試食する。
 具体的にどうするかというと、まず玄米を89%~90%搗精する。ここまではIH炊飯器で炊飯するときと同じだが、洗米は笊で20回攪拌を2回繰り返す。研いだコメを30分置く。それから計量するのだが、全て重量を計測する。それは容積重で計量すると間違いが起きる可能性があるからで、正確を期すためにコメ1kgに対して水は1.38kg。合計2.38kgを計量してから土鍋で炊飯する。使用する土鍋は底が厚く熱伝導に時間がかかるものを使用する。ガスに因る直火だが、炊くコメの重量によって炊く時間を決めている。なぜそんなことをしているのかというと自社でおにぎり店を経営していることもあるが、精米の顧客がこだわったコメを求めるところがあり「プロ仕様のコメ」を出すためである。この会社の経営者はこうした炊飯の試食を官能テストは言わず「実食テスト」と言っている。

 

  ◇    ◇

 

 もうひとつ変わったコメの食味テストを行っているところがあるので、そこのやり方も紹介したい。この会社は米穀業者ではなく、一般食品のマーケティングを行っている会社である。そこが大手外食企業の委託を請けて、どのメニューにどのようなコメが合うのか調べているのだが、この会社はそれを行うために食味テストのパネラーを訓練して養成する。なぜならこの会社では日本式の食味テストのやり方は採用しないからである。
 カリフォルニア大学には食品工学部という学部があり、ここで「知覚評価学」を教えている。知覚評価学は第一次世界大戦後に誕生した学問で、アメリカでは兵士に食事を供給する際、いかに美味しく食べてもらえるか研究していたのである。食欲を増進させるためには味覚だけではなく、もっと広い知覚を研究することが必要だということでこうした学問が誕生した。訓練されるパネラーは女性が多い。これは味に敏感な女性が多い穀検の食味パネラーと同じである。まだ30年産米の各産地銘柄の知覚テストの結果は出ていないが、おそらく一般にこの銘柄がこのメニューに合うという評価とは違った結果が出て来るのではないかと予想している。
 農研機構では、丼、炒飯、カレーライス、寿司、リゾット、チルド米飯といった用途に合う産地品種の一覧表を作成している。数が多すぎてとても紹介しきれないが、それぞれ特色のある品種が数多く誕生していることだけは分かる。少しだけ紹介するとチルド米飯に向いたコメとして、ゆきがすみ、ゆきむつみ、ミルキーサマー、ミルキークイーン、姫ごのみ、ぴかまるなどと言った品種をあげている。チルド米飯需要は将来増加する予測して食味劣化の遅い品種が開発されているのだろう。
 以前、目隠しテストで米穀業者や研究者が試食して品種を当てるという食味テストが行われたことがあった。結果はほとんど当たらなかった。それには一つ理由がある。
 それは現在出回っているいわゆる良食味と言われるコメは「コシヒカリ」の血を引く系統のコメがほとんどで、それを見分けるのは困難だ。筆者も品種の試食会に参加して数多く試食してみたが、一番ユニークだったのは、農研機構が研究所で実施した一般主食用米と多収の飼料用米の食べ比べであった。その数はざっと20品種以上もあったが、味覚音痴の筆者でもさすがに飼料用米とコシヒカリの区別は出来た。ただ、飼料用米がそれほど不味いとは思わなかった。これは笑われても仕方ないが、大手中食業者が従業員124名の参加を得て国産ヒノヒカリとカルローズの食味比較テストでは2対1の割合でヒノヒカリに軍配が上がったが、意外な結果も分かった。
 それは10代の若い男性従業員と50才~60才の女性従業員はカルローズに軍配を上げる人が多かったのである。人種に限らず年代、性別によっても嗜好が変わるという例かもしれないが、冒頭に記した実食テスト行っている米穀業者はプロ仕様としてコシヒカリ系ではないササニシキ系のコメを推奨する取組みを本格化させることにしている。なぜならそれが「コメを多く使ってもらうことに繋がる」と信じているからである。

 

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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】

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