【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第26回 「子孫に美田を残さず」の国へ(2)2018年11月1日
農山村から都会に出て行った人たちのなかには、『故郷』の三番の歌詞のように、できればいつか故郷に帰りたいと考える人もいた。
「志を はたして いつの日にか 帰らん
山は青き 故郷 水は清き 故郷」(注1)
しかし故郷はあまりにも変わってしまった。故郷にいるのは高齢者ばかり、子どもの声はほとんど聞こえない。戸数も大きく減っている。社会生活がいとなめる地域ではなくなりつつある。
松の緑で全山覆われてきれいだった山は下刈り等の人手が入らないために松が疎らになるなど、山の景観も変わってきた。かつての田畑のなかには草ぼうぼうになっているところもある。山や田畑の管理の不行き届きから小崩落が起きるなどして水の流れも地形も変わっている。
そうなるのは当然のことである。美田、美林は生産と生活の基盤とならなくなってきたからである。子孫のために美田、美林を残そうとしても何にもならない。たとえ残しても子どもたちは引き継ごうとしない。赤字になるだけだからだ。それで美田、美林にする人がいなくなり、故郷は荒れ果て、やがては帰るに帰れないところになってしまう。そうした過程が今全国で進行しつつある。
今から3~4年前のこと、ふとつけたあるテレビ局の番組で昔の歌番組の録画を放映していた。たまたま鶴田浩二が登場し、古い歌を歌いはじめた。私は彼があまり好きではないのでチャンネルを他に回そうと思った、そのときである、前奏をバックにして語る次のようなせりふが耳に入ってきた。
「生まれた土地は 荒れ放題
今の世の中 右も左も
真っ暗闇じゃ ござんせんか」
えっ、と思った。これは今のことではないか。
でも、この歌の生まれたのはたしか1970年である。考えてみれば、ちょうどそのころから中四国の山村などの土地が少しずつ荒れ果てて来ていた。またすさまじい公害で荒れ果てつつある土地が川が海があった。その後公害による荒廃は少しずつ回復してきた。しかし、農山村の荒廃はとどまるところを知らなかった。子孫のために美田を美林を残そうと思っても残してやるべき若者たち、子孫は村からいなくなっており、やがて親たちは高齢化し、田畑の耕作ができなくなり、林野の管理もできなくなった。結局耕作は放棄され、林野は放置され、荒れるより他なくなった。
そして今、2010年代後半、全国の農山漁村の土地は「荒れ放題」になりつつある。家々の灯は灯らなくなり、村は真っ暗闇だ。しかも最近の世の中、森友加計問題のような筋の通らぬことばかり、70年代の比ではない。この『傷だらけの人生』(注2)という歌の作詞者は今を予言していたのではないかとさえ思える。まさにその詞の言うとおり、
「何から何まで 真っ暗闇よ
筋の通らぬ ことばかり」
こんな世の中である。
その「筋の通らぬ(最大の)こと」が現政権の進めようとしているTPP、FTA、TAG、アベノミクス、米軍基地増設、沖縄の海の破壊、憲法改悪だ。こんな「筋の通らぬこと」がやられれば、一方では巨額の金を儲けて子孫に残せるほんの一握りの金持ち階層が政治経済をもっと強く支配して自分たちのつまり「金持ちの子孫のために美田(=財産)を残す」ことがこれまで以上にできるようになり、格差はさらに広がり、最終的には戦争のできる国、する国になっていく
(次回に続く)。
注1:.文部省唱歌、作詞:高野辰之、作曲:岡野貞一、1914(大3)年
注2:歌:鶴田浩二、作詞:藤田まさと、作曲:吉田正、1970(昭45)年
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