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【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】流れを変えるのは女性の力2018年11月1日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

◆社会をつくるのは家事の力

「ゆりかごを動かす手は世界を動かす」という諺がある。すべての人は、お母さん、つまり、女性の手で育て上げられる。良い人間に育つか悪い人間に育つかは女性次第。家事も教育も役割分担で、女性に押し付ける意味ではないが、現実には女性の力が大きい。
 「毎日毎日、掃除・洗濯・炊事と追いまくられて、その価値を見失いそうにもなるが、その毎日の繰り返しこそが、世界を動かす力を育て上げている。」(東城百合子『かならず春は来るから』、サンマーク出版、2005年)。幸せな社会をつくるのは女性の家事の力。家事の中でも、炊事は人を育てる一番の基本。
 TPP11(米国抜きのTPP=環太平洋連携協定)の2018年12月30日の発効、それとセットで裏で準備されてきた日米FTA(自由貿易協定、日本名はTAG=捏造語)の交渉入り、日欧EPA(経済連携協定)の発効と続く「TPPプラス」(TPP水準以上)の「自由化ドミノ」で国産の安全で美味しい食材がこれ以上十分に手に入らなくなったら、日本社会の幸せは根底から崩壊する。

 

◆食を握る女性の声がうねりをつくる

 もう始まっている。TPP11、日米FTA、日欧EPAに酪農協の共販弱体化という「クワトロパンチ」の将来不安で、夏場に牛乳が店頭から消えるリスクが高まっていたが、北海道の惨事でついに顕在化した。お母さんが「ごめんね。今日は牛乳は飲めないよ」と子供たちに言わないといけない日を頻発させるわけにはいかない。
 国民生活の危機は差し迫り、「頑張ったけどだめでした」では済まないレベルに来ている。私のセミナーに参加してくれたフランス女性が指摘してくれた。
 「日本人は詰めが甘い。フランスのように政府が動くまで徹底的にやらなくては意味がない。流れを変えられなければ、すべての努力は、残念ながら、結局パフォーマンス、アリバイづくりで終わってしまう。フランスなら食料の大事さをわかってもらうために、パリに通じる道路を封鎖して政府が動くまでやめない。」
 日本の未来を救えるか否かは女性の声の結集によるうねりが作れるか否かに依存するところ大である。いまこそ、日本女性の底力に期待がかかる。

 

◆女性の高い経営力も活かした生・消の双方向ネットワーク強化

 女性の力は農業経営面でも高く評価されている。まず、日本農業法人協会の調べで、女性活躍経営体100選(WAP100)では、2014年の平均売上額が5億2000万円で、全法人の平均(3億2000万円)を2億円も上回った。
 また、日本政策金融公庫の「平成 28 年上半期農業景況調査」で、農業現場における女性の経営への関与状況について調査したところ、「経営者が女性」「役員として登用」「管理職など幹部登用」というように女性が経営に関与する経営体の割合は 53.8%と過半数に上り、さらに、3年間での売上高と経常利益の増加率については、「女性が経営に関与している」グループでは売上高増加率が 23.6%、経常利益増加率が 126.6%となり、「関与していない」グループと比べて、売上高増加率が1.9ポイント、経常利益増加率が71.4ポイント高かった。
 中でも、「6次産業化」「営業・販売」を女性が担当していると回答したグループは、特に経常利益増加率が高く、法人経営体に至っては極めて高い増加率となっており(6次化:431.1%、営業・販売:672.3%)、女性目線で消費者ニーズを敏感に感じ取り、販売などにうまく活かすことにより高い収益の伸びに結びついていると分析されている。
 さらには、空閑信憲「6次産業化が稲作農業経営体の生産性に与える影響について」(内閣府、2012年)でも、総農業労働時間のうち女性労働力が占める割合が1%上昇すると、生産性が1.09%上昇するという数値が推定されている。
 消費者に安全・安心な国産農産物が命・環境・地域・国土を守る重要性を認識してもらうにも、生産サイドの女性たちから消費者サイドの女性たちへの発信と双方向ネットワークの強化が極めて有効と思われる。女性の一層の活躍が明るい未来につながる。
 そのためには、男性がしっかりと家事も分担して、女性の経営面などでの力が存分に発揮できるようサポートすることも極めて重要だということが上記のデータから得られる示唆である。

 

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