【小松泰信・地方の眼力】天はミズから助くるものを助く2018年11月7日
11月5日のNHKニュースウォッチ9は、10月22日未明に山口県周防大島町で起きた、貨物船による島唯一の送水管破断事故のその後を伝えた。二週間を経過しても島のほぼ全域の9000世帯で断水が続く。損傷を受けた橋は2トン以上の車は通行できず、給水活動もままならない。観光客は激減。特産のミカンも行き場を失いつつある。島民の顔には疲労の色が滲んでいた。家庭で水道が利用できるのは早くても12月上旬の予定。
◆周防大島の断水と井戸水
10月25日、椎木巧周防大島町長が各自治会長に「家庭用井戸等の共用利用について(お願い)」を出した。要点は以下のところ。
「供給水量の絶対量が不足している状態となっております。つきましては、自治会内で、トイレや洗い物等の生活用水に利用できる現在使用中の家庭用井戸等がございましたら、災害時の共助として、共用利用をお願いしたいと考えております。なお、共用利用していただける場合は、公表し、あくまでも自己責任での利用であることを町民に周知したいと考えておりますので、井戸の所有者の方に、その旨、お伝えいただきたいと思います。また、断水期間中において、飲料水として共用利用をご承諾いただける方で、水質検査のご希望がございましたら、検査料は町が負担いたします」
島に住む知人に見舞いの電話をする。幸い知人宅には井戸があった。しかし、30年ほど前に上下水道が整備された時から不使用。水質検査は行っておらず、風呂、洗濯、トイレなどに利用。それでも水使用量の7割強をまかなっており助かっている様子。飲料用水は給水車に依存しており、やはり給水ポイント通いは大変とのことであった。
送水管というライフライン、つまり命綱が一本しかないことから生じた断水は、二重の意味で人災といわざるを得ない。
◆湧き水の恵み豊かなこの郷で
11月4日のNHK総合テレビ『小さな旅』は、「麗しの水 蔵の町へ~福島県喜多方市」というタイトルで、霊峰飯豊連峰の豊かな伏流水が潤す喜多方市を紹介した。
新酒の仕込みがはじまった230年あまり続く酒蔵では、水の神様を祭った神棚があり、豊かな水に感謝して手を合わせる。どんなに日照りの年も枯れることがなかったまろやかで甘い湧き水。それで育った地元産酒米。その力を借りて酒蔵は続く。「水は酒屋の命。だから大事に大事に守っていく。守り続けていくことは未来につながること」とは、九代目当主の言。
酒もうまいが、喜多方と言えば、喜多方ラーメン。そのおいしさもこの水があればこそ。両親からラーメン店を継いだ店主は、「やっぱり水。水が優しい。作ろうと思っても作れない優しさ」と語る。東日本大震災の時に地域のあちこちで井戸水が出なくなった。その窮地を救ってくれたのが、もしもの時のために、父親が別の水脈からひいてくれていたもう一つの井戸。「二本掘っていてくれてありがとう」と、感謝の気持ちを忘れない。
そばも負けてはいない。飯豊山の山間に広がるそば畑。そこには8軒のそば屋がある。つゆも薬味も加えず、飯豊の山水だけで食べる「水そば」という、この地区ならではのこだわりの食べ方も知った。
エンディングのナレーション、「湧き水の恵み豊かなこの郷で」が、心に優しくしみていく。
◆ケニアからの吉報
今回のテーマにふさわしい「滴一滴」と名付けられた山陽新聞のコラム(6日付)は、「ルワンダで水の売店がスタートします」ではじまる。ケニアに本部を置くアフリカ各国出身の若者たちがつくった団体「国際トランスフォーメーション財団」から岡山市役所に届いたメールの一節。当財団は、岡山市などが設けたESD(持続可能な開発のための教育)アワードの2016年度グローバル賞に選ばれている。
ケニアでは朝、遠方まで水を買いに行くのが多くの子どもの役目。疲れ果て、学校も休みがち。そこで財団が考案したのが水の売店。財団が資金を貸し付け、学校に給水所を設ける。子どもたちは学校で学び、水を買って帰る。収益は次の学校での売店設置に充てられる。財団はアワードの賞金を近国のルワンダでの新規展開に使い、今月9日に第1号が開店するとのこと。
「水くみから解放され、教育を受けた子どもたちが国の未来を切り開いていく姿を想像する」と、希望を水に託している。
◆水道法改悪法案を通すな
福井新聞の論説(11月4日付)は、「水道法改正案 再公営化する世界に学べ」と、今臨時国会で再び審議される水道法改正案を取り上げている。
「改正案は水道事業の広域連携や官民連携を進めるのが狙いだ。なかでも水道施設の運営権を民間事業者に任せる仕組みが新しい。だが、海外では同じような『民営化』で料金が高騰したり水質が悪化したりして、公営に戻す事例が相次いでいる」ことから、「日本はいわば時代遅れの古いバスに乗り込む格好だ」と、慎重審議を求めている。
人口減少などに伴い、水需要が2000年をピークに減り続けているため、市町村の水道事業は厳しい経営環境下にある。「高度経済成長期に整備された水道管の老朽化が進み、更新が追いつかない実態」から、「水道事業の経営基盤の強化は避けて通れない」ことには理解を示している。
その上で、行政が施設を保有したまま「民間事業者に事業の運営権を売却する官民連携の仕組みを導入する」ことには懸念を示す。
世界に先駆けて水道事業を民間に委託してきたパリ市においてさえも、「パリ市の監督が行き届かないなどの問題があり、水道料金の引き上げが度重なった。この結果、市民の不満が高まり2010年1月、事業は再公営化された」からである。
さらに悲惨な例として、「1990年代後半に水道事業が民営化されると料金が2倍以上になり、支払えない貧困住民への供給を民間事業者が容赦なく止めるなどしたため暴動に発展」し、200人近い死傷者を出した、南米ボリビアの「コチャバンバ水紛争」の紹介も忘れていない。
「こうした実情が明らかになるにつれ、......英国に本部を置く公共サービスの調査機関によると、00~15年に世界37カ国の235水道事業が再公営化されている」として、「......命に直結する水道事業は誰にも等しく安価で安全・安心な水を供給するのが何よりの役割だ。それは、国や地方公共団体が担うのが本来でもある。目先の利益にとらわれてはならない」と、頂門の一針。
改憲問題、出入国管理法改正案、日米関税交渉などに国民の関心が寄せられているその間隙を縫って、当該法案の成立を目指す可能性大。命の水を奪いかねない水道法改悪法案の成立を絶対に許してはいけない。
「地方の眼力」なめんなよ
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