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【童門冬二・小説 決断の時―歴史に学ぶ―】ガバナンスには時に非情も 大岡忠相2018年11月16日

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【童門冬二(歴史作家)】

◆"江戸城の鬼"の処分

 徳川八代将軍吉宗は、紀州藩主から江戸城に入って征夷大将軍のポストを継いだ。江戸城の役人たちは戦々恐々とした。すでに吉宗は、
「厳しい改革の実行者」として名を馳せていたからである。江戸城の役人たちは、
「新将軍は、必ず幕府の組織を大幅に改革し、大規模な人事異動を行うだろう。そして、和歌山城から連れて来た腹心たちを重い役に任ずるに違いない」と噂し合った。しかし、江戸城に入った吉宗は宣言した。
「組織改正は行わない。人事異動も行わない。ただ、一人だけ現在伊勢山田奉行の大岡忠相を、江戸町奉行に任命する。異動はそれだけだ」といった。みんなびっくりした。しかし吉宗は大岡忠相を、いきなり江戸町奉行にはしなかった。
「町奉行に任命する前に普請奉行を命ずる」と言った。大岡は眉を寄せた。目に、
「なぜ普請奉行を?」という疑いの色が浮いた。吉宗はこう言った。
「前代まで、江戸城にあって学者でありながら実権を振っていたのは新井白石という男だ。わしは白石を用いない。江戸城の要職から外された人間は、どんなに優れた人物でも幕府が貸していた家屋敷あるいは備品などを接収する。おまえにそれができるかどうか、普請奉行を命ずるのはそのためだ。こういう仕事は町奉行ではなく普請奉行の役割だからな」
 大岡は考えた。実を言えば、かれは山田奉行の時から新井白石を尊敬していたからである。新井白石は、ただれて緩んだ元禄以来の江戸城の役人たちの気風を正しくしようと努力した。そのために、非情な人事も行った。その人事異動方針は厳しかった。そのために白石は、
「江戸城の鬼」と言われていた。しかし、大岡は、やはり正義を愛し、役人の清浄さを重んずる性格だから、遠国にいても白石の活躍ぶりに密かに拍手を送っていたのである。
「その尊敬する新井先生から、幕府が貸している家屋敷や本まで取り上げるというのは俺にできるだろうか?」と、自分で疑問を持った。しかし、吉宗のいう通り、
「統治には時に非情さが要る」ということは、やはり徳川家の武士だから大岡もよく分かっていた。

 

◆鬼の目に涙

ガバナンスには時に非情も 大岡忠相 (挿絵)大和坂 和可 大岡が挨拶すると、白石はニコリと笑った。白石もまた、
「伊勢山田に清廉潔白で、厳しい規範を実行している奉行がいる」ということを知っていたからである。
「新しく、普請奉行を命ぜられました大岡忠相でございます。お見知りおきを」と丁重に挨拶した。白石は頷いた。しかし、
「その普請奉行がなぜわしの家に?」
「尊敬する新井先生に対し、こういうことを申し上げるのは大変恐縮でございますが、現在ご使用中のこの家、土地を明け渡し願いとうございます。もちろん、替地は用意してございます」
「なに」白石は持っていた箒を固く握りしめた。複雑な表情が浮かんだ。しかし白石も幕府の慣習は知っている。どんな要職にいた人物でも、その職から離れれば借りていた土地・家・備品などはすべて幕府に返納しなければならない。湧き上がる不快感を抑えて、白石は頷いた。
幕府のしきたりは知っていたからだ
「わかった。あなたも辛い役目だな」
「はい、辛うございます」
 大岡は正直にそう告げた。白石は微笑んだ。そして、
「大岡殿、あがりなさい。茶を点てる」そう告げた。座敷へ上がって茶を出され飲みながら大岡は白石の話を聞いた。白石はいい話し相手が出来たとばかり愚痴をこぼした。
「江戸城の鬼と呼ばれた頃は、この屋敷にも多くの人が訪れて来た。が、一旦職を追われたと知ると最早幕府の役人たちは寄りつかない。私事で言いにくいが、実をいえば娘の縁談もこわれてしまった。相手の旗本が、事情があってこの縁は無かったことにしてほしいと申し出て来たのだ。人情というのはそういうものだよ。もちろん、あなたは伊勢の山田でも同じようなことをしばしば扱ったとは思うが」
 と、無念さをこらえて告げた。大岡は素直に白石の愚痴を聞いた。そして、白石がいった、
「人情とはこういうものだ」という言葉に共感を示した。大岡はしかしまだ言うことが残っていた。
「先生、申訳ございませんがお返し願いたいのは土地と家だけではございません」
「他に何があるのだ?」
「書籍でございます」
「書籍? わたしが持っている書籍は、すべて先代と先々代の上様(将軍)から頂戴した物だぞ」
「形はそうかも知れませんが、あれは幕府所有の書籍でございます。幕府の台帳に登録されている物で、申訳ございませんが是非ともお返し願わねばなりません」
「・・・・」
 白石は沈黙した。必死に不快感と怒りを抑えているのがよくわかった。逃げ出したいような衝動に駆られたがここが踏ん張りどころだと思った。今逃げ出したら、吉宗に命ぜられた任務を果たさずに尻尾を巻くことになる。やがて白石は頷いた。柔和な表情になっていた。
「わかった。書籍もお返しする。しかし大岡殿、こういう辛い役をよくお果たしになった。それでこそ、噂に聞く江戸町奉行の新しいお仕事が完全にできるのでしょう。期待していますよ」
 そう言った。大岡ははじめてほっとした。

(挿絵)大和坂 和可

 

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童門冬二(歴史作家)のコラム【小説 決断の時―歴史に学ぶ―】

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