【近藤康男・TPPから見える風景】国会審議から見えた政府・与党の劣化の加速2018年12月13日
日EU・EPAに対する「TPPプラスを許さない!全国共同行動」の連日の反対行動の都度、参院外交防衛委員会を傍聴する機会を持った。与党の質問・ヤジ、閣僚・官僚の答弁の一言一句から、TPPの交渉・国会審議以来益々ひどくなっていることを感じさせられた。通商交渉の場における緊張の緩みを感じさせる官僚の答弁、協定についての質問に繰り返し答えをはぐらかす緊張感ゼロの閣僚答弁、その閣僚答弁のひどさに茶々を入れる与党委員...
通商協定については次回以降に触れるとして、今回は国会についての感想だけ記したい。
◆言わざるを得ない、入管法改正法≒奴隷労働拡大法=人権無視
今般の臨時国会は、通商協定も含め水道法改正・漁業法改正=公共の破壊と入管法改正≒奴隷労働拡大法=人権無視にに象徴される、今まで以上に危うい道へと続きそうな国会だった。
筆者は外国人労働者を排除するものではなく共生を受け入れる立場に立っている。しかし、報道に見られるように技能実習制度は人権無視に満ち満ちたものであるし、政府答弁も法案もお粗末としか言いようがない。このままでは、まともな事例もあるものの、奴隷労働とも言える状況が拡大することは必定だ。
今年6月の米国務省報告で13年ぶりに最良ランクにされたが、技能実習生については引き続き人身売買として問題視されている。
※米国務省2018年人身売買報告書リンク(国別Jの頭文字以降を抜粋)Technical Intern Training Program (TITP)という英文で技能実習生制度について報告されている。
⇒ 2018 TIP Report-Country Narratives J-M
◆これも言わざるを得ない、水道法改正法=公共の破壊
TPPや日EU・EPAなど通商協定本文には直接の言及は無いが、TPPの(国際約束を構成しない、としつつも)全33ページにわたる「保険等の非関税措置等に関する日本政府と米国政府との間の書簡」の15ページ「投資の項の3規制改革」では、"規制改革会議の提言に従って必要な措置をとる"との文言があり、政府はTPP原協定の発効に拘わらず、この書簡を実行に移すこととしている。
保険等の非関税措置に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の書簡
そして水道事業は、規制改革推進会議の前々身の総合規制改革会議の02年12月12日の第2次答申で「民営化、民間譲渡、民間委託すべき」とされている。
2003年3月11日厚労省事務連絡
⇒総合規制改革会議においてまとめられた、「規制改革の推進に関する第2次答申 ―経済活性化のために重点的に推進すべき規制改革―」について
TPP、日EU・EPAの政府調達による市場開放により、地域経済や住民に寄与しないまま、地域外に経済利益が流出し、地域の疲弊が進むだろう。筆者自身は、外資排斥論者でもないし、企業性悪説にも立っていないが、コンセッション方式はこのことを加速する筈だ。
水道法については、次回以降の中で記したい。
◆根拠を持たずに交渉・妥結
まさに、安易な譲歩の連鎖と拡大を続ける通商交渉、中身はどうでも、どうせ採決すれば承認されるだけだから適当に時間だけ過ごせばよし、とする国会対応というお笑いを見る思いだった。これは、他の重要法案においても同じだ。
外交防衛委員会では、徴用工問題、北方領土返還交渉、辺野古の埋め立て土砂搬出についての質問と追求がされたが、今回は、日EU・EPAに集中して質問をした国民民主党と共産党、及び立憲民主党からの質問のうち、何度も速記を止めることとなった2点を紹介したい。
12月4日の委員会で国民民主党からは、(個別的問題ではあるが)「クリームチーズの乳脂肪45%未満のものは関税の段階的撤廃、45%以上のものは低関税輸入枠、そして共に16年目に関税撤廃」とされたが、「このような合意を判断する根拠としてのEUとの競合関係を分析するうえで必要なそれぞれの輸入実績を示してほしい」との質問があった。農水副大臣答弁が曖昧で、また「財務省の分類データは無い」としたため、「根拠を持たないまま交渉をし、判断をしたのか」と詰め寄られ、急遽理事会を開催、「次回理事会に判断の根拠、データを出す」となった。しかし6日の委員会でも「推計なら出せるが、今後の他の交渉に影響もあるので適切ではない」との答弁に拘り、結局「協定発効までに提示する」となった。
そしてこの間自民党からは「答えにくい質問をしているだけだから、メリハリつけた答弁だけすればいい」などのチャチャが入る始末だ。
◆輸入数量の増加を検証もせず、前提にもしない国内対策・影響試算
この件については、共産党から12月4日、6日と質問があり、6日には立憲民主党からも追及があり、「EUはファクトシートで乳製品の対日輸出を948億円増加とし、農水省は203億円としているが、この大きな差について検証はしたのか、見直しはしないのか、TPPの時の決議でも他国の試算も充分把握するようにとしたではないか」、「チーズ消費の伸びがあるとしても、まずは輸入増があり得るのではないか」などの質問が続出した。
※203億円は農水省の生産額減少試算の内数とみられる。またEUは17年10月のファクトシートで「農産物でのメリットが50億ユーロ、加工食品で100億ユーロの輸出増」と公表。
そして農水副大臣からの答弁は「付帯決議はTPPに関わるものと理解。前提や基準も異なり、詳細の照会はしていないし、日本としての試算の精緻化にもつながらない。輸入数量増加は試算していない」、「協定の効果で経済も活性化し需要も増える。総合対策で生産性や競争力も強化され、輸入があっても押し返す力が強化される。輸入品に置き換わらないようにする」といった、根拠もなく誠実さの全く感じられない内容に終始した。
そして「そんな答弁では戦略構築など出来ないし、農家の不安は払拭されない!」との怒りにも拘らず、委員会採決がされることとなった。
冒頭に触れたように、まさに協定交渉から国会答弁に至るまで、政府・交渉官・与党の一貫した緊張感の無い対応と、譲歩の連鎖と拡大、そして米国のTPP復帰を促すとした通商戦略の挫折を見事に象徴したとしか言いようのない流れであり、この行きつく先が年明けからの日米交渉であることが懸念される。
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