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【小松泰信・地方の眼力】コップの中の嵐にするな2018年12月19日

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【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

 中国新聞のコラム「天風録」(12月17日付)では、「公約違反」を「新しい判断」、「戦闘」を「武力衝突」、「移民」を「外国人材」、「カジノ」を「統合型リゾート」、「日米FTA」を「TAG」、そして「空母」を「多用途運用護衛艦」という、言い換えの数々を安倍晋三政権の専売特許としたうえで、「物は言いようとはいえ、程があるということだろう。紙で火をくるむことはできない。言葉の化粧紙で覆い隠そうとも、正体は火を見るよりも明らかである」と、容赦は無い。

◆まん延する換言病と見抜く国民の眼力

小松 泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) 皮肉なことに、先のコラムに感心しきりの時、「本日福知山線で、人と列車が『接触』したため、ダイヤに運休や遅れが出ております......」と、乗車していた新幹線車内にアナウンスが流れた。常識的には、「接触」とは「近づきふれること。さわること」である。ふれたり、さわったりすることでダイヤに乱れが生ずるならば、日本中至る所で列車はダイヤ通りには動いていない。なぜ「人身事故」とはっきり言わないのか。その方が、注意を喚起する意味も含めて明確に伝わるはず。こんな所にも、現政権の病とも言える言い換え、すなわち「換言病」が伝染したようである。
 しかし、国民の眼力にその正体が見抜かれていることを、毎日新聞が12月15、16日に実施した全国世論調査結果が教えている(同紙12月17日付)。
 注目すべき質問事項への回答結果は、次の通りである。
(1)消費税率10%への引き上げ;賛成43%、反対49%
(2)プレミアム付き商品券の導入(消費増税時の経済対策);賛成32%、反対55%
(3)改正入管法;評価する30%、評価しない55%
(4)辺野古沿岸部への土砂投入;賛成27%、反対56%
(5)改憲案の発議;急ぐべきだ22%、急ぐ必要はない61%
(6)モリ・カケ問題への首相や政府の説明;納得している12%、納得していない72%
 この世論調査の結果を国民の総意とは思わない。しかし、現政権が行っている注目すべき事項について、高評価や賛意を示す国民が少数派であることは疑いようもない事実である。

 

◆専権事項ではなく専権横暴

 12月14日、防衛省は米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画に基づき辺野古沿岸部に土砂を投入し、埋め立て工事を始めた。この件に関しても、反対が賛成を大きく上回っている。
 毎日新聞(12月15日付)から、玉城沖縄県知事と政権側の菅義偉官房長官、岩屋毅防衛相の発言の要点を紹介する。
 玉城沖縄県知事は、「法をねじ曲げ、民意をないがしろにして工事を進めるのは、法治国家、民主主義国家としてあるまじき行為だ」と、厳しく批判する。まったく同感。
 菅義偉官房長官は、「自然や住生活環境に最大限配慮しながら、移設工事を進める一環だ。引き続き全力で埋め立てを進めたい」と語っている。「全力で埋め立てを進めたい」という台詞には唖然とした。そして、2017年夏、「あなたはどこの国の総理ですか」と安倍晋三首相に怒りを込めて迫った、川野浩一氏(長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会議長)の言葉を思い出した。
 岩屋毅防衛相も「沖縄と対立する気持ちは全くない」と語っている。これが、「対立」でなければ「対立」とは何かをお教えいただきたい。閣議決定無しに。また同氏は、この移設を「日米同盟のためではない。日本国民のためだ」「この地域の抑止力を減退させるわけにはいかない」とも語っている(毎日新聞、12月16日付)。沖縄県民は日本国民ではないのでしょうか。
 15日の同紙には、米国国務省当局者がこの移設工事について、「運用面や政治面、財政面、戦略面の懸念に対処する唯一の解決策だ」とする認識を示したことが載っている。我が国政権担当者が、国民の意思よりも米国の意思に付き従っていることがここでも明らかとなっている。
 森本敏氏(拓殖大総長、元防衛相)は「自治体が国の専権事項である外交・安保の面で権限を行使できるかというのは疑問がある。その時々の選挙結果が日本の外交・安保政策全体に影響を与えないよう配慮していくべきだ」とのコメントを寄せている。自治体の選挙結果を軽く位置付ける、看過できないコメントである。辞書に記されている「権力をほしいままにすること。思うままに権力をふるうこと」という専権の意味に従えば、専権事項では片付けてはならない「専権の極み」である。
 今回の辺野古への土砂投入は、地方自治などは名ばかりの幻想であり、米国の意に沿わぬことは基地問題に限らず、我が国の国民の意思は蹂躙されることを教えている。

 

◆COP24でも恥をさらす

 ポーランド・カトウィツェで開かれていた第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)が、会期を1日延長し12月15日(日本時間16日)に閉幕した。難産の末、地球温暖化対策を進めるためのパリ協定の実施ルールが採択された。先進国と発展途上国が共通の厳しいルールの下で温室効果ガスの排出削減を進めることとなった。これにより、2020年の運用開始へ準備が整ったとされている。
 しかし、愛媛新聞の社説(12月18日付)によれば、「会期中、二酸化炭素(CO2)排出が多い石炭火力発電を推進する日本に批判が集まり、国際環境団体が国内外の建設に多額の融資をする日本のメガバンクを非難した。団体によると、世界の民間銀行が16年から今年9月に石炭火力関連企業に実施した融資のうち、3割を日本の金融機関が占めている。パリ協定で各国は20年までに長期戦略を提出することになっているが、先進7カ国(G7)で未提出は日本とイタリアだけだ。日本政府はようやく有識者懇談会で議論を始めた。産業界の一部は、CO2排出量が比較的少ない高効率石炭火力を途上国へ輸出しようと狙っている。しかし、脱炭素化を目指す長期戦略を骨抜きにする恐れがあり、容認できない」と、流れに逆行する我が国の姿勢を指弾している。
 岩手日報の論説(12月18日付)は、「温暖化の脅威は人ごとではない。太平洋などの小さな島国の多くは、海面上昇で住む場所が消える危機を訴える。それは、本県では貴重な砂浜や平地の消失に置き換えて考えることができよう。運命共同体の地球の環境をいかに保持できるか。『今だけ、自分たちだけ』ではなく未来に残す責任がある」と諭す。
 もちろん、防衛力の整備に血道を上げるこの国が環境問題に積極的に取り組むとは思えない。だからこそ、「COPの中の嵐」にしないために、環境問題への取り組みの必要性を言い続けなければならない。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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小松泰信・岡山大学大学院教授のコラム【地方の眼力】

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