【熊野孝文・米マーケット情報】新年は機能性米商業ベース普及元年に2018年12月25日
早いものでこのコラムも今回が今年最後になる。米穀流通業界の忘年会での関心事はやはり新年の相場動向だが、それ以上に大きな変化が予想されるコメ政策について聞かれることが多い。一つには農産物検査法の改正に伴う「ダブルトラック」方式による人間の目視以外でも穀粒判別器のデータによる検査規格の制定で、この方式で銘柄証明が生産者の自己申告でも精米表示が可能になった場合、コメの流通に大きな変化が出てくることが想定される。
生産面では新年度予算で高収益作物に10a当たり2万円の助成金が加算されるため、加工用米や輸出用米を新規に作付した場合、既存の助成金と併せて10a当たり最低でも4万円が支給されることになる。10a10俵生産すれば1俵4000円の助成金が得られるわけで、これまでに比べようがないほど加工用米や輸出用米の価格競争力が付き、資本力のある流通業者ならば、加工用米や輸出用米に新規に取り組む産地と主食用米も含めて丸ごと契約することによって大きな収益源を確保することもできる。まさに「利は元にあり」ということをこれほどわかりやすく示してくれた予算はかつてなかったのではないか。
それにプラスして農業競争力強化を旗印にコメの生産面で様々な支援措置がなされることになり、低コストコメ生産の実証実験に取り組めば、それに対しても助成措置がなされるため、2000haというこれまでの実証圃場とは比べ物にならないような大規模な面積で「日本一低コストのコメ作り実証テスト」を行うことを計画しているところさえある。IT企業の中にはドローンをつかったピンポイント水稲栽培の実証テストで、その経費を全て自社で負担、生産されたコメを全量買い取るというところまで現れた。
まさに年号が変わる新年はコメの生産から流通までこれまでにない大きな変化が生まれる元年になると予想している。コメ業界でもう一つ起きることの元年を付け加えるならば「機能性米」を上げたい。機能性米が話題になったのは20年前以上のことで今さらという感もなきにしもあらずだが、これまでは必ずしも機能性米が商業ベースに乗っていなかった。
機能性米が商業ベースに乗らなかった要因は様々なことが考えれるが、その最大の要因を上げるならば、事例としては「春陽」が分かりやすい。この低タンパク米は腎臓病患者向けに提供すべく大手商社が専用の無菌パックご飯まで作ったが、厚労省が認可せず日の目を見ることが無かった。食品の機能性を謳うのならそれなりの科学的エビデンスが必要で証明するには大きな資金を投入しなければならず、ハードルが高い。ただし、コメそのものに一般的なコメとは異なる成分が多く含まれていることは謳うことが出来る。
東京農業大学が自大学で進めている研究プロジェクトを一般の人にも広く知ってもらうべく丸ビルホールで開催した革新的技術研究成果報告会で、鉄分を一般のコメに比べ10倍多く含むコメを育種したことが発表された。それによると研究の背景は、1980年代から食生活の欧米化から動物性油脂の摂取量が増加、それに伴い生活習慣病が増え、医療費が8,4兆円になるなど社会的問題になっている。この問題の解決には食生活の改善が有効で、玄米を中心とした食事でコレステロールが減少するということが科学的に明らかになっている。ただ、食生活は簡単には変えられないことや玄米食は食味の点で沢山は食べられないことから「玄米の有効成分を高濃度に含むコメの育種」が進められた。
玄米は白米に比べ繊維質が6倍、ビタミンが6倍含まれるなど生活習慣病改善に有効な成分が多く含まれているが、その中に鉄分が含まれている。鉄分は体内で酸素を運ぶなどの役割を担う必須アミノ酸で、一日8.5㎎~9㎎の摂取が必要だが、実際には6.5㎎~6.7㎎しか摂取されたない。とくに女性の摂取量が少なく、必要量を15%程度下回っており、貧血等の原因になっている。しかし、通常のご飯からこれだけに量を摂取するのは現実的でないため、鉄分を通常のコメに対して10倍含む米を育種した。
このコメ(高ミネラル突然変異体)は台中65号と朝紫を交配して育種したもので、黒米と白米の二種類あり、鉄分は玄米で10倍含まれるが精米でも3倍含まれているほか、マンガン、マグネシウムといった成分も多く含まれている。このコメは遺伝子組換えして育種したものではないので、一般栽培して流通することが出来るので多様な機能性を持たせたコメとして付加価値商品になり得るとした。こうした機能性を持ったコメが生産、商品化され、需要が拡大、生産者の所得向上にも寄与できるようになることを願い今年の締めにしたい。
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