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【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(113)「お礼」と「既読スルー」2018年12月28日

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【三石誠司 宮城大学教授】

 2018年最後のテーマを何にするか。少し前から決めていたことがある。それはこの1年、様々な面でお世話になった方々に「お礼」を伝えることの大切さだ。こういうことを考えるようになると老境の入り口が見えてきたのかもしれないが事実故、仕方がない。

 今でも年に何回か目にする「絶滅に瀕した種」のようなものに「礼状」、特に毛筆でしたためた自筆の「礼状」がある。もはや現代日本人でこれを普通に書ける人は本当に限られた人であり、毛筆で書くこと自体、称賛に価するかもしれない。
 そもそも、日常生活の中では「手紙」や「はがき」ですら、ほぼ全文が印刷であり、個々人の個性のひとつとも言える「自筆」を目にすることすら滅多にない。大学のレポートですらパソコンで作成し、印刷したものを提出する時代である。稟議書や決裁書は筆者自身、当初は手書きをしていたが、昭和の終わり頃から平成に入る段階で着々と印刷様式に代わった。もはや30年以上昔である。
 話を戻すと、手紙を含む文書がコミュニケーションの中心であった時代から、電話が普及し、現代ではメール、携帯、そしてSNSによる各種メッセージのやり取りが極めて簡単になった。国内海外を問わず、リアルタイムで数多くどころか不特定多数の人とつながることが出来たこと、それは単なるグローバル化どころではない大変化である。問題も数多くあるが利点も多い。年の瀬に必死で年賀状を書いていた日々がなつかしい一方で、数年前には「あけおめ、ことよろ」メールが氾濫し、回線に影響が出た。今年の年末年始はどのようになるのか全くわからない。
 ところで、卒論が佳境に差し掛かるとゼミ学生との対応はSNSに関する限り24時間対応となる。働き方改革云々の議論はあるが、当の学生達が一日の仕事(遊びやバイトなど)を終え、一息ついた時に大学の課題や質問を思い出して連絡してくるのはどうしても休日か深夜か早朝になる。学生達同様こちらも忙しい以上、それは仕方がないし、定時定刻のみの対応だけに限定していたら、そもそも効率的なコミュニケーションなど難しい。
 365日ある訳ではないし、同僚や他人に強制できるとは全く思っていないが、期限が定められた卒論という課題に対し、研究室を運営していく中で自然に確立した目に見えないゼミの伝統のようなものかもしれない。もっとも、メッセージのやりとりだけであれば、それほど時間はかからない。良い時代になったものだと思う。
 こうした時間を共有して1年ほど経つと学生達の行動が明確に変化する。会ったこともない先輩達からの差し入れに対し、SNSを使用して即座に簡単なお礼のメッセージを自然に出せるようになる。英語で出せるようになれば言うことはないが、まだ国内対応が大半であり、国際対応は今後の課題である。
 卒業が近い4年生になると、就活で鍛えられたことも加わり、筆者が何も言わなくてもできるが、3年生はまだ「既読スルー」が大半だ。これには一定の時間がかかる。
 挨拶やお礼のメッセージは軍隊のように強制した場合、強制要素が消滅すると一緒に消えるが、自然に身に付いたものは社会に出ても大いに役に立つ。これが身に染みてわかるのはまだまだ先の話であろう。
 ぎこちない挨拶を促されてようやく何とか実施していた学生達が、いつの間にか自然に挨拶やお礼のメッセージを出せるようになると、教育における基本的生活習慣の分野はほぼ終わりとなる。後は、学業の仕上げとしてしっかりとした卒論を仕上げてもらうのみだ。卒業論文ドラフトの提出や添削にもSNSは不可欠だが、それはまた別の話である。
 さて、今年もいろいろとお世話になりました。愚痴のような話をお読み頂き、深くお礼申し上げます。皆様、良いお年をお迎えください。

 

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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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