【城山のぶお・リメイクJA】第19回 1つのビジネスモデルは100の理念に勝る2018年12月28日
およそ組織は、理念・特質・運営方法の三つの要素によって成立する。これは株式会社、政府などの公的機関、JAなどの非営利組織に共通するものである。
理念とは組織の目的・考え方、特質とは組織の体質、運営方法とは組織の技(ワザ)を意味する。このうち重要なのは運営方法であり、技である。これを今風に言い換えれば、ビジネスモデルということもできる。
1844年に設立されたロッチデール組合(いまの生活協同組合)が、世界最初の協同組合といわれるのは、ロッチデール組合の店舗の運営規約(組織の運営方法・技)がもとになって、グローバルスタンダードとしての「協同組合原則」(世界共通の協同組合の運営方法・技)がつくられてきたからである。
協同組合の理念の提唱と実践は、ロッチデール組合の設立に先駆けてロバートオウエンによって、主に彼が経営するニュー・ラナークの紡績工場を舞台として行われた(ニュー・ラナーク工場の実験)。
しかし、ロッチデール組合の運営規約のように、彼が実践したことを基にしたものが、普遍的な協同組合原則として直接、後世につながっていくことはなかった。その意味で彼は協同組合の父と呼ばれても、協同組合の創始者とはなりえず、協同組合理念の提唱者・実践者という地位にとどまったのである。
ちなみに、協同組合の先駆者といわれる人たちに共通するのは、彼らが協同組合の理念の提唱者に止まらず優れた協同組合の実践者であり、今日に続く協同組合もしくは社会一般のビジネスモデルの構築者・起業家であったということである。
例えば、わが国の最初の協同組合として法制化された産業組合法の手本にされたのはドイツ・ライファイゼン系の農村信用組合であるが、その基をつくったのは、F・ライファイゼン(1818~1888年)が設立した貧農救済組合(無限責任による貸付組合)であった。
これは、今日のドイツ・ライファイゼン銀行や、わが国の農林中央金庫の前身である産業組合中央金庫の設立につながるビジネスモデルとなっている。
また、協同組合のみならずわが国のあらゆる企業の思想的先駆者ともいえる二宮尊徳(1787~1856年)は、五常講(儒教の仁・義・礼・智・信の道義と経済を一体化した協同信用組織―報徳社)をつくったが、これも後のわが国銀行制度のビジネスモデルとなったと言われている。
さらに、わが国の戦前・戦後(第2次大戦)を通じて協同組合の発展につくした賀川豊彦(1888~1960年)も、多くの信用組合や消費組合などの設立を手掛け、また戦後の共済の先駆けとなった共栄火災を設立している。
このように彼らは、いずれも博愛主義による協同組合理念の持ち主であると同時に、一様に協同組合ビジネスモデルの構築者・起業家であった。このように見て行くと、協同組合の世界においても、まことに100の理念より1つのビジネスモデルが勝ると言うことができる。
ひるがえって、今時農協改革におけるJAの取り組みスタンスをどのように考えればよいか。その一つは、協同組合・総合JA否定の安倍政権への批判である。いまの安倍政権は、明らかに競争一辺倒の間違った政策運営で、社会を不安と混乱に陥れている。
こうした言うところの、遠くのわかりやすい敵に対しては、最終的には選挙で対抗していくしか方法はない。選挙による政権交代だ。問題はもう一つの対抗策であるが、それは批判だけでなく自ら協同組合のビジネスモデルを構築してこれに対抗していくことである。
JAのビジネスモデルの構築については、すでに多くのJAで取り組まれており、農業振興の面における代表的なものには、JA出資の農業生産法人があり、また農産物の直売所等がある。
とくに、農産物直売所についていえば、平成21年度の農水省調査ですでに、全国で1万6816店舗、取扱高8767億円となり、急成長を遂げてきている。
まずは、こうした農業生産・販売面におけるビジネスモデルを広く国民に知ってもらい、理解を求める努力が必要だ。
一方で、JAによる農業生産面におけるこれらのビジネスモデルについては、組合員がその責任を負う仕組みとなっているのが特徴的であり、今後は生産・営農指導面でJA自らがリスクを負っていく、さらに踏み込んだ取り組みが必要になっているように思える。
また、農業振興とともに重要な総合事業の展開については、とりわけ准組合員対策について、新たな取り組み・ビジネスモデルの構築が喫緊の課題となっている。
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