【小松泰信・地方の眼力】嘘からは出ぬまこと2019年1月9日
明けましておめでとうございます。今年も当コラムをごひいきに。
と、型どおりのあいさつをしつつも、新年早々不愉快な話題からはじめなければならない。話題提供者はやはり安倍晋三首相。
◆嘘、大嘘。嘘の大本をやっつけろ!
2019年1月6日NHK日曜討論において彼は、辺野古における土砂投入に関して、「土砂を投入していくにあたってですね、あそこのサンゴについては、移しております。また、絶滅危惧種が砂浜に存在していたのですが、これは砂をさらって、これもしっかりと別の浜に移して行くという、環境の負担をなるべく抑える努力もしながら行っている」と語った。
早速、琉球新報は社説(1月9日付)で発言内容を否定し、「一国の首相が自らフェイク(うそ)の発信者となることは許されない」と一太刀。返す刀で、「事前収録インタビューであるにもかかわらず、間違いとの指摘も批判もないまま公共の電波でそのまま流されたことだ。......放送前に事実を確認し適切に対応すべきだったのではないか。放置すれば、放送局が政府の印象操作に加担する形になるからだ」と、NHKを指弾する。
皮肉なことに放送翌日の7日、NHKとともに御用メディアとして確固たる地歩を固める読売新聞には、見開き2ページにわたる宝島社の広告が載っている。「敵は、嘘。」と大書されたタイトルに、「いろいろな人がいろいろな嘘をついている。子供の頃から『嘘をつくな』と言われてきたのに嘘をついている。陰謀も隠蔽も改ざんも粉飾も、つまりは嘘。世界中にこれほど嘘が蔓延した時代があっただろうか。いい年した大人が嘘をつき、謝罪して、居直って恥ずかしくないのか。この負の連鎖はきっと私たちをとんでもない場所へ連れてゆく。嘘に慣れるな、嘘を止めろ、今年、嘘をやっつけろ。」と続いている。
「世界中」と断ってはいるが、明らかにわが国のこと。嘘の大本はもちろん安倍晋三氏。この人こそ、やっつけるべき相手。
農業・農協そして地方の問題に限定し、それらが置かれた情況を、日本農業新聞と中国新聞によるアンケート調査結果から確認し、嘘つき首相から「とんでもない場所」に連れて行かれぬために、いかなる姿勢で臨むべきかを明らかにする。
◆JA組合長から総スカンの安倍農政。大多数は野党の伸びを期待している。
まず日本農業新聞(2019年1月4日付)は、同紙が2018年11月上旬から12月上旬に、全国646JAの組合長を対象に行ったアンケートの結果を掲載している。回答率は79%。
まず、「JAを巡る事業環境」については、95.3%が「以前より厳しくなった」と回答している。
次に、「安倍内閣の農業政策」については、「高く評価する」が0.2%、「どちらかといえば評価する」が3.5%、「どちらかといえば評価しない」が51.3%、「まったく評価しない」が44.6%。評価するかしないかに大別すれば、95.9%が評価していない。
同様に、「官邸主導の政策決定」についても93.9%が、「生産現場の実態と乖離しており、農家の声を十分に反映していないため評価できない」としている。
大多数の組合長が評価しない安倍内閣の農業政策のもとで、JAの事業環境が改善しないのは当然の成り行きである。
ところが、「農業政策に期待する政党」としては、「自民党」が47.6%と最も多く、これに「期待する政党はない」の37.8%、「立憲民主党」の4.5%が続いている。
「安倍内閣の農業政策はまったく評価できないが、自民党しか頼るところがない」という組合長の心情が読み取れる。そのうえで留意すべきは、4割近くが「期待する政党はない」としていることである。
「2019年夏参院選後の望ましい参院での政治状況」については、「与野党拮抗」が75.0%と突出している。これに「自公で過半数を維持」の16.0%、「与野党逆転」の8.0%が続いている。
現状維持を求めている組合長は一握り。野党の伸びを期待する組合長こそが多数派である。だとすれば、国政選挙において、自民党候補者しか推薦しないような全国農政連(JAグループの政治組織)の意思決定は、組合長の総意とは明らかに異なっている。これは民主的な組織の意思決定ではない。それとも、JAグループは民主的な組織ではないということか。さぁ、どっちだ。
参院選挙はもとより、今春の統一地方選挙においても、農業政策が争点のひとつになることを願って、「今後重要度が増す農業政策(三項目まで選択可)」への回答結果を見る。最も多いのが「所得補填など経営安定対策」の55.0%。これに「担い手育成対策」と「農業の労働力確保対策」がともに44.4%で続く。注目しておかねばならないのが、これらに「農業・農村・JAへの国民理解の推進」が37.6%で続いている点である。
ことあるごとに指摘したことだが、「TPP絶対反対、断固阻止」などと叫んでいた組織が、TPPを推し進める政党・政権を支持する自己矛盾。その組織が、国民に理解してもらえる農業政策を求めるとは、厚かましいにもほどがある。多くの国民から信頼を失い、鼻で嗤われていることにまだ気づいていないのか。このような政策要求の前に、筋の通った組織となるべし。
◆中国地方は創生せず。東京栄えて地方は滅ぶ
つぎに中国新聞(2019年1月4日付)は、同紙が中国地方5県の全107市町村の議会議長を対象に2018年11月中旬に行った、アンケート調査の結果を掲載している。回収率100%。その中で地方創生に関係するふたつの質問への回答結果を紹介する。
表1には、安倍政権が進めた「地方創生」への評価を示している。評価をするかしないかで大別すると、全体の48.6%しか評価していない。首相のお膝元である山口県だけが73.7%と高い。岡山県は50%を若干超えているが、広島県に至っては34.7%しか評価していない。
表2には、人口減少や東京一極集中の影響の有無についての回答結果を示している。全体で82.2%が影響を受けている。島根、鳥取の両県では9割が影響を受けており、島根県に至ってはほぼ半数が「強く受けている」。安倍政権が進めた「地方創生」を評価していた山口県ですら、84.2%が影響を受けている。
人口の自然減に、東京へ向かう社会減が加わる状況をそのままにして、地方が創生する可能性は無い。東京一極集中のもとでの地方創生は夢物語である。
◆農業は未来への希望をつなぐ
小池昌代氏(詩人・作家)は長崎新聞(1月6日付)に、実家の庭に咲くサザンカのことを取り上げている。かなり前に江東区(東京)から無料配布されたとのこと。「ティッシュの無料配布も良いけれども、植物の無料配布は、未来の時間まで配られたようで、とても幸せな分配だと思う」と記している。
緒方麻ナさん(18歳・埼玉県)は毎日新聞(1月7日付)への投書で、「私が農業から学んだことはたくさんある。植物が季節によって姿かたちを変えていく面白さや生き物の生きていく力強さ、いのちの尊さや美しさ、『食べる』という行為は、多くの人が関わり、何かの犠牲のもとで成り立っているということ......」と記している。
そして、「正月に自家用にシャインマスカットの苗を一本植えました。楽しみです」と、賀状に記すのは今年83歳となる山下惣一氏(農民作家)。
嘘偽りのない、まことの言葉に出会い、嘘つきたちと戦う意欲がますます高まってきた。困ったもんだ。
「地方の眼力」なめんなよ
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