【熊野孝文・米マーケット情報】人手不足で運べなくなる30kg紙入り玄米2019年1月15日
人手不足が社会的問題になっている中、米穀業界にもかなり深刻な問題が発生している。
それはコメの運送問題で、年々深刻さ度合いが増しており、年明け早々にも各地の業者からこうした問題が伝えられた。いくつか事例を紹介すると、神奈川県の玄米卸は昨年末、産地からフレコンでコメが運ばれて来たので、帰り荷に30kg紙袋440袋を運んでくれるように頼んだところ断られてしまった。これまでは運送業者は帰り荷があると喜んだものだが、正規料金でも断ったという。青森県でも集荷業者が30kg紙袋の輸送を依頼したところ断られたので理由を聞いたところ「若い人が嫌がる」とのことで、運送業者としてもせっかく来てくれた若い従業員に辞められたら一大事で、こうした仕事はさせないようにしているとのこと。
コメの輸送問題は今に始まったことではなく、古くから改善策が検討されてきた。最初は物流の合理化策として産地のカントリーエレベーターからバラで輸送すべく、国が支援策を講じて実証テストも行われたが、この頃、60kgから30kgの紙袋への普及が急速に進み、バラ輸送は実態に合わないとされ、お蔵入りになった。変わったところではパレットに積んで鉄道輸送する際、最も合理的な荷姿は25kg袋ということで、自動梱包機まで作った包材メーカーもあったが、これも普及しなかった。以前、全国米袋協会なる団体があり、そこで荷姿別のコメ輸送量がデータとして出ていたが、すでに団体が消滅したため実態がどうなっているのかは分からない。首都圏の大手卸の精米工場に30kg紙袋とフレコンの入荷比率を聞くと、30kg紙袋が45%、フレコンが55%とのことで依然紙袋の流通ウエイトは高い。この卸は運ばれて来た30kg紙袋をどうしているのかというと自動破袋機で破袋して、袋は産業廃棄物として処理している。中小卸の精米工場の中には破袋せずに空袋を綺麗にまとめて販売しているところもあるが、これは張り込みの際、重労働になることは言うまでもない。従業員が嫌がるのでこうした作業を外部委託している卸もあるが、それはそれでまた別な問題が発生する。
それにしてもなぜこれほどまで30kg紙袋の流通ウエイトが高いのか? 1つには数は減ったとはいえ、自家搗精する米穀小売店が少なからずいるということで、こうした小売店がいわゆるこだわり米を30kg玄米で仕入れて搗精して販売しているためどうしても30kg紙袋で運ばれて来る玄米が必要。こうした小売店ばかりを対象に玄米を販売している仲介業者に販売メニューを見せてもらうと確かにこだわったコメが多く、中間マージンが加算される分かなり高額の価格が記されている。それどころか大手米穀小売店の中にはフレコンで運ばれてくる玄米を30kg紙袋に詰め替える機械を自社で開発し特許まで取得したところさえある。今風に言えばニッチな需要に対応しているということなのだが、こうした需要は必ずしもニッチではない。
分かりやすい例がコイン精米所で、ここで搗精される玄米はほとんど30kg紙袋で持ち込んで来る玄米である。さらにはホームセンターなどでは30kg紙袋に入った玄米を販売していることもあり、そうしたニーズが厳然としてあるため依然30kg紙袋の流通ウエイトが高いというしかない。 ホームセンターで販売されている30kg紙袋入り玄米を見ると等級印と銘柄が記させれている。未検査米よりちゃんと検査された玄米の方が消費者も安心して購入できるので当たり前かもしれないが、では、いったいいくらの銘柄があるのかというと30年産で銘柄が謳える品種は水稲うるち米だけで795品種もある。これだけの品種を知っている人はいないはずだが、とにかく制度上はこれだけの品種を紙袋に記載できるのである。しかもそれを記載するためには当然こととして農産物検査官が『目視』して等級を確定してから銘柄が謳えるようになる。
農水省は1月28日に農産物検査に関する有識者会議を開催することにしている。銘柄表示を担保するために検査官の目視検査が必要なのか? 検査手数料は北海道だけでも年間40億円に達する。それだけのコストをかける意味があるのか? 30kg紙袋に刺しを入れて決められた個数だけ検査する必要があるのか?物流コストをどう考えるのか? 新型穀粒判別器は画像で健全粒を瞬時に判別、データ化、それと取引価格は合致する。これを活用する方法はないのか? コメの流通合理化が急がれている現在、有識者会議で何が議論されるのか、いやが上でも関心が高まる。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(149)-改正食料・農業・農村基本法(35)-2025年7月5日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(66)【防除学習帖】第305回2025年7月5日
-
農薬の正しい使い方(39)【今さら聞けない営農情報】第305回2025年7月5日
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 石川県2025年7月4日
-
(442)エーカレッジ(作付面積)から見る変化【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月4日
-
【JA人事】JAながさき県央(長崎県)里山耕治組合長を再任(6月27日)2025年7月4日
-
人的資本を人事制度で具体化する 「令和7年度 人事制度改善セミナー」開催 JA全中2025年7月4日
-
「有機薄膜太陽電池」で発電した電力 ブドウの着色に活用 実証実験開始 山梨県2025年7月4日
-
株主優待制度を新設 農業総研2025年7月4日
-
夏の訪れ告げる初競りの早生桃 福島県産「はつひめ」販売 青木フルーツ2025年7月4日
-
ニッテン「スズラン印」ロゴマークをリニューアル 日本甜菜製糖2025年7月4日
-
「国際協同組合年」認知度調査「生協に参加したい」が7割 パルシステム2025年7月4日
-
洋菓子のコロンバン主催「全国いちご選手権」あまりんが4連覇達成2025年7月4日
-
野菜わなげや野菜つり 遊んで学ぶ「おいしいこども縁日」道の駅とよはしで開催2025年7月4日
-
北海道初進出「北海道伊達生産センター」完成 村上農園2025年7月4日
-
震災乗り越え健康な親鶏を飼育 宮城のたまご生産を利用者が監査 パルシステム東京2025年7月4日
-
神奈川県職員採用「農政技術(森林)経験者」受験申し込み受付中2025年7月4日
-
神奈川県職員採用「獣医師(家畜保健衛生分野)経験者」受験申し込み受付中2025年7月4日
-
信州の味が集結 JA全農長野×ファミマ共同開発商品 長野県知事に紹介2025年7月4日
-
障害者のやりがい・働きがい・生きがい「ガチャタマ」で応援 パルシステム埼玉2025年7月4日