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【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第36回 昨年の流行語大賞と創作四字熟語2019年1月17日

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【酒井惇一(東北大学名誉教授)】

 新年早々昨年の話をするのはどうかとは思うが、昨年の流行語大賞は「そだねー」だった。これが決まった時は本当にうれしかった。もちろん、「そだねー」の声を発した女子カーリングのチームが昨年の冬季オリンピックで銅メダルに輝いたときはそれ以上にうれしく、飛び上がって涙を流して喜んだのだが。何しろ私はこのチームの所在地の北海道東部の農漁村・常呂町(現北見市)、その隣の網走に99年から7年間住み、それ以降今までずっと常呂や農大オホーツクキャンパスのカーリング選手を応援してきた。
 その選手たちの代表が世界の桧舞台に立ったのである。しかも彼女らの発した何ともやさしい北海道語「そだねえ」(「ねー」よりは「ねえ」の方がいいと思うのだが)、何ともほほえましい「もぐもぐタイム」、これが話題になった。そして大賞受賞、心が和やかになった。
 しかし、どうしても気に食わない言葉も大賞のベストテンのなかに入っていた。

 いつだったかの土曜の朝食後、ゆっくり寝転んで新聞を見ているとき、点けっぱなしにしてあるテレビから突然でっかいキンキン声が耳に飛び込んできた。しかもその声で言う言葉がすさまじい、「ボーッとしてんじゃねえよ」ときたもんだ。
 びっくりしてテレビを見たら、頭のでっかい女の子の着ぐるみが意地悪そうな顔をして怒鳴っている。チコちゃんなる名前がついているらしい。その子が出演者の大人を耳障りな声で罵倒しているのだ。
 私はこのことに対して視聴者から非難の声が寄せられるだろうと思った。いくら何でも子どもが大人に向かって言うべき言葉ではないのではなかろうかと。年長者に対してはそれなりの尊敬の念をもって接するようにと教わってきた私には理解できなかったからだ。こんな子どもが大きくなったら、「いつまで生きてるつもりだ」などと老人に言うような政治家と同じように、年寄りを大事にしない人間になってしまうのではなかろうか。

 ところが批判はなかったようだ。それどころか大評判になった。そして流行語大賞にまで選ばれた。私にはわからない。どうしてこんな言葉が、あんな子どもが大賞のベストテンに入るのだろうか。世も末としか言いようがない。そしてそれを喜んでいるNHKがわからない。

 昨年世界無形文化遺産になった秋田の男鹿の『ナマハゲ』に、「年寄りのこど大切にすね子はいねがー」、「目上の人のこど敬わねえ子はいねがー」とあの腹から出る太い声でチコちゃんなる子に注意してもらいたいものだ。ついでに、最近のNHKテレビ番組の内容の品のなくなったこと、政府べったり放送になっていること(一部にはいい番組もあるが)にも喝を入れてもらいたいのだが。
 こんなことを言うのは自分が年寄りになったからなのだろうか。

 さらに嘆かわしいのは、「ご飯論法」なる言葉が流行語大賞のベストテンに入る世の中になっていることだ。
 安倍首相をはじめとする閣僚や高級官僚の得意とする「議論における言い逃れや論点のすり替えを表した言葉」なのだそうだが、国会での論戦などを聞いていると本当に腹が立つ。それをおかしいとも思わず、政府の出す法案をまともに審議もせず、居眠りしながら座っていて、賛成の起立や投票をするだけの与党議員に対してはなおのことだ。「ボーッとしてんじゃねえよ」と言いたくもなる。とすると、この言葉がベストテンに入るのもしかたがないのかもしれない。
 でも本当にそれでいいのだろうか。何とかしたいものだ。

 もう一つ、昨年末気になったのは「創作四字熟語」の優秀作品だ。
 「猛夏襲来(蒙古襲来)」、「台量発生(大量発生)」、「地震暗来(疑心暗鬼)」、まさに昨年にふさわしい言葉だったとは思うが、今年はこんな言葉が出ないような年であってほしいし、地球温暖化による異常気象や自然災害に対する取り組みが進む年であってもらいたいものだ。

 そして今年は、「金農感謝(勤労感謝)」や「娘軍奮銅(孤軍奮闘)」のような明るい言葉が、わが国の農業・農村の明るいニュースが「流行語」や「創作四字熟語」となって日本中を飛び交うような年になってもらいたいものだ。

 

そのほか、本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】

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