【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第39回 明治・大正・昭和の記念式典2019年2月7日
昨年の10月23日、明治150年記念式典が政府主催で開かれた。
「明治の精神に学び、日本の強みを再認識する」ため「平成のその先の時代に向け、明治の人々に倣い、未来を切り開いていく」ためなのだそうである。
昨年のNHK大河ドラマは『西郷どん』だった。よくもまあ飽きもせず何度も何度も大河ドラマに出すもの、NHKは明治の「大物」がよほど好きらしい。
好きと言えば安倍首相も明治が好きらしい。昨年の夏、安倍総理が鹿児島で大河ドラマ『西郷どん』のように「しっかり薩摩藩、長州藩で力を合わせ、新たな時代を切り開いていきたい」と発言したそうだからだ。自分が長州人だからだろうが、これにはちょっと唖然とした。そして、薩長軍の武力侵攻で殺傷された東北人の血をひくものとして本当にいやな気持になった。
それだけではない、この明治薩長政府が始めた侵略戦争と他国支配の道を、古き「良き」時代への道を、「明治の精神に学び、日本の強みを再認識」してアメリカの言うことを聞きながら再び切り開いていきたい、その意識を高揚するために『明治150年記念式典』を開いたこと、これまた本当に腹が立った。
そういうと、そんなに目くじらを立てなくともいいだろう、時代の節目として100年、150年を記念することはあってもいいではないかと言われるかもしれない。
たしかにそうかもしれない。しかし、とまた言いたくなる。それならなぜ大正100年記念式典を開かなかったのかと。今から7年前(2112年)に開くべきだったのにである。元号を大事にしたい、改元や皇室崇拝に大騒ぎをする保守的な政治家のなかからも大正100年の話は出なかった。これはおかしいではないか。明治は150年だけでなく100年のときも記念式典をやっているのにである。
そういうと、大正は短かったし、明治のように維新や日清・日露戦争など皇威発揚で目立ったこともなかったのだからまあいいではないかと言われるかもしれない。
しかし大正は、関東大震災とか第一次大戦とかいろいろあったけれども、普通選挙実現運動など明治以来の藩閥・官僚・財閥・地主政治に反対する民主主義的な運動が展開され、「赤い鳥運動」など社会・文化の面でも自由主義的な思潮が横溢し、日本に童謡や児童文学を誕生させ、大正ロマンという言葉まで生み出すなど日本の文化の新たな夜明けをつくった年代だった。そして、戦後昭和の民主主義の確立、多様な文化の開花の基礎をつくった年代だったのである。
しかも、大正時代に生まれた人たちは昭和の戦中期に成人期を迎え、戦争の被害をもっとも強く受けた犠牲者だった。
こうした大正世代の人たちを考え、また大正期の政治文化等々の運動の成果を見直すことこそ必要だったのではなかろうか。
しかし、大正100年記念式典をやったのは岐阜県恵那市にあるテーマパーク日本大正村だけだったそうだ。政府は大正を完全に無視し、明治を礼賛する式典は行った。ここにやはり何かの意図を感じるのだが、私の考え過ぎなのだろうか。
幸いなことに(と私は思うのだが)、「明治150年記念」には安倍首相の意図したような盛り上がりはなかった。天皇も式典に出席しなかった。NHK大河ドラマ『西郷どん』の視聴率もあがらなかったらしい。
昭和100年まであと7年、この式典はどうするのだろうか。戦後昭和につくられた戦後レジーム(安倍首相はこれがきらいなのだそうだが)を憲法改悪で破壊し、それを祝うことのてきる昭和100年記念式典を迎えたい、そしてできればこの式典を自分で仕切りたい、それをやるためにも今年の参院選挙をはじめとする各種選挙に勝ちたい、そんな夢を安倍首相は見ているのではなかろうか。
そんな夢を幻として終わらせる年に今年をしたいと私は思っているのだが。
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