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【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(118)「本」の定義と電子書籍2019年2月8日

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【三石誠司 宮城大学教授】

 意外と知られていないが、子供に「本って何?」と聞かれた場合、親はどう答えるのだろう? 電子書籍がそれなりに普及してきた現在、「本」の価値をどのように考えるか、ここにも現代社会が抱える様々な問題が見て取れる。

 国際連合教育科学文化機関(以下、ユネスコ)と聞くと、農業関係者の多くは「和食」が無形文化遺産に登録されたことを思い出す。しかし、ユネスコは結構様々なことを実施しており、その中の1つに冒頭で述べた「本の定義」などがある。
 1964年11月14日、ユネスコでは、「本と雑誌に関する統計の国際化に関する勧告」というものを出している。
Recommendation concerning the International Standardization of Statistics Relating to Book Production and Periodicals: UNESCO
 この中に「本」について記載されている箇所がある。短いので、原文を紹介する。

 

(a) A book is a non-periodical printed publication of at least 49 pages, exclusive of the cover pages, published in the country and made available to the public;?

 
 
 筆者の訳だが、「本は、国内で出版され、一般に入手可能で、表紙を除き、少なくとも49ページの印刷された非定期的な刊行物」ということである。
 因みに、この(a)項の次、(b)項ではパンフレットについて定められている。こちらの原文は、

 

(b)A pamphlet is a non-periodical printed publication of at least 5 but not more than 48 pages, exclusive of the cover pages, published in a particular country and made available to the public;

 

であり、これを訳すと「パンフレットとは、特定の国で出版され、一般に入手可能で、表紙を除き、少なくとも、5ページ以上で48頁以下の印刷された非定期的な出版物である」となる。

 

  ※  ※  ※

 

 こうした定義にはいくつか興味深い点がある。
 第1に、一般にここまで厳密な区別を知っているのは、恐らく関係業界の方達だけではないだろうかと思われる点である。49頁以上であれば「本」でそれより少なければ「パンフレット」という扱いになることなど一般人の生活には余り関係がない。
 日本語ではページ数の少ない出版物のことを「小冊子」と言うが、これがいわゆるパンフレットに相当する。これらに加え、現代ではブックレットやリーフレットといった印刷物を示す用語が普及している。一枚刷りのものはリーフレットと呼ぶが、これは一枚の「葉(leaf)」に由来する。郵便箱に投げ込まれる一枚紙の宣伝や案内文などもリーフレットだが、こちらは通常、フライヤーと呼ばれている。まさに飛んでくる紙である。
 ブックレットは、そこそこのページ数をもつ薄い「小冊子」である。特定のトピックについて簡単にまとめ、パンフレットやリーフレットのように宣伝を全面に出した形ではなく、わかりやすい「小冊子」の体裁をとっている。
 グローバル化の影響かどうかは不明だが、この他にもブロシュアラー(brochure)という言葉もかなり普及している。やや高級感を醸し出した表現であり、一般的には多色刷りで、高品質なパンフレット...といった感じが強い。出版物を示す用語も多種多彩である。

 

  ※  ※  ※

 

 第2に、何故、「本」の定義の方はin the countryであるのに対し、パンフレットはin a particular countryなのかという疑問が残る。定冠詞のa とtheの違いなどは中学英語のレベル以上には筆者には不明だが、それ以上にパンフレットだけ、どうしてparticular(特定の)という単語が入ったのかは正直よくわからない。何等かの意図があったのかと深読みをしたくなってしまう。
 第3に、「著書」という項目を履歴に掲載している場合、「本」も「小冊子」も著書にはなるのだろうが、何ページから「著書」になるのかは微妙かもしれないなどと、大学教員としては考えることになる。筆者などは50ページ前後の翻訳書が多いが、これも本当は「翻訳書」と「翻訳小冊子」という形に分けて掲載すべきなのかもしれない。
 最後に、電子書籍との関連で言えば、いまだ筆者の世代の多くの人は「本」に対して所有欲を満たす必要性を感じるのかもしれないが、本音はわからない。ミニマリストのように必要最小限のモノしか持たない生活者もいるし、受験や卒業シーズンが終了時に膨大な教科書や問題集がゴミとして出されることもよく目にする。
 筆者自身、年々増加する書籍を目の前にし、ここ数年は一度だけ読むような薄い本を中心に電子書籍にシフトし始めている。こちらはお金を払って出版物を購入するのではなく、専用の端末で読むことのできる「閲覧権」を購入するだけであるが、一度しか読まないものであれば十分であるとの判断である。
 現代のオフィスでは、机の前に座り、ほぼ一日中ディスプレイと対峙している生活が中心だからこそ、好きな活字くらいは紙媒体で読みたいという気持ちになるのかもしれないが、それこそ持続可能性の問題との闘いになるのかもしれない。

 

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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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