【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】趨勢的な生産構造の脆弱化にTPP+の影響が加わると・・・2019年2月8日
TPPなどの貿易自由化の影響評価は、現時点における生産と需要に対して、どの程度のインパクトがあるかで議論が行われることがほとんどである。しかし、「TPP+」(TPP11+日欧EPA+日米FTAなど)の貿易自由化を前提にして今後の農業の持続的発展のための政策を検討する場合、すでに、現行政策の下で、現在進行している農産物の需給構造変化(過去の貿易自由化の影響も含む)、すなわち、担い手の減少による生産構造の趨勢的な脆弱化、人口減少と一人当たり消費の減少による需要の趨勢的減少などが継続した場合をベースラインとして、それにTPP+の影響が加わることが全体として、将来の生産、消費、自給率をどのように変化させるかを見極めて、総合的・長期的に採るべき政策を議論することが不可欠である。
そこで、鈴木研究室では、次のような分析を行なった。
(1)農業センサスの個票データを再集計し、全国の地域別に主要品目ごとに、規模階層ごとの農家の5年間の規模階層間の移動割合(遷移確率)を求め、これが将来的に継続した場合の規模別農家数に階層別の平均規模をかけることによって将来の生産量の変化(減少)を推定し、全国集計する。
(2)主要品目ごとの貿易自由化による価格低下と供給の価格弾力性の値から、TPP+の貿易自由化が進展した場合に、(1)の生産量の減少が、さらに加速する、その加速された生産量の減少を推定する。
(3)家計調査の年齢階層別消費量を価格と所得とトレンド(嗜好の変化)で説明する回帰分析を行い、将来の年齢階層別人口の推定値を用いて、年齢階層別消費の今後を推定し、将来的な総消費量の変化(減少)を推定する。
(4)主要品目ごとの貿易自由化による価格低下と(3)で推定した需要の価格弾力性の値から、TPP+の貿易自由化が進展した場合に、(3)の消費量の減少が、やや減速する、その減速した消費量の減少を推定する。
(5)上記で推定された将来の生産のベースライン、TPP+を加味した生産変化、需要のベースライン、TPP+を加味した需要変化、から、輸入によって需給は均衡すると仮定して、ベースラインの自給率変化、TPP+により加速された自給率変化を提示する。
まず、趨勢的な需給の将来推定を行うと、品目によって事情は異なるが、一般的には、担い手の高齢化・減少による生産構造の脆弱化が生産の減少をもたらす一方、消費も少子高齢化と嗜好の減退から減少する(豚肉、鶏肉など、増加が見込まれる品目もある)。これに、TPP+の貿易自由化による価格下落の影響が加わると、生産減少は一層激しくなり、消費は価格下落により減少が鈍化する。結果として、自給率低下が一層加速される。コメ・畜産の品目別の推定結果は以下のとおりである。
生産の減少以上に消費の減少が大きいため、大幅な米価下落で調整されるか、飼料米や輸出米の増加がないと過剰圧力が強まる。
飲用乳消費は減少するがチーズ消費の増加で需要は一度減少後に反転する。生産の減少が大きいため、自給率は低下する。
消費の減少以上に生産の減少が大きいため、自給率が低下する。
消費は増加するが、生産の減少は大きいため、自給率が大きく低下する。
以上から、
(1)総じて規模拡大は進むが、離脱・縮小による生産減少分をカバーしきれず、総生産が減少する局面に入っている。
(2)TPP+の追加的貿易自由化以前の問題として、現状の需給構造(過去の貿易自由化の影響も含む)に基づく趨勢的変化がもたらす自給率低下が大きな問題を投げかけており、それにTPP+の追加的貿易自由化の影響が加わることで事態はさらに深刻化する可能性がある。
(3)コメ過剰対策として飼料米の増産を行っても畜産の生産が大きく減少するため、飼料米需要が減り、政策が機能しなくなってくる可能性がある。
(4)飼料米政策にかぎらず、現行政策の延長線上では、食料自給率の低下に歯止めをかけることは極めて困難な状況に直面していると認識せざるを得ない。
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