【熊野孝文・米マーケット情報】田んぼに入らないコメ作り目指す農家2019年2月12日
1月、2月はコメの生産者の研修会等が多く、先週末と今週初めに立て続けに生産者の集まりに行ってきた。以前は講演を頼まれるとコメの需給動向や価格動向を主に喋っていれば良かったが、最近では流行ということもあってドローンやITといった話題にも触れなくてはいけない。驚くことにそうした最先端の機器を農業に活かそうとしている企業からも原稿依頼が来るが、とてもそうしたことを書ける器ではないので「そうした機器について生産者がどう見ているのかは書ける」と言うことにしている。
もっと驚いたのは1年ほど前、大手通信機器会社のコンサルをしているという人物から農業分野での5Gの活用法を提示して欲しいという依頼があったこと。「ゴージー」って何? というレベルの人間なので、その分野に詳しい人物や生産者に来てもらい一緒に話を聞いた。そこで出た話が面白かったので少し紹介すると、5Gは譬えて言うならF1レーサーはコンマ以下の速度で運転操作しなくてはならないが、それを遠隔操作で出来るようになる通信速度を持った通信システムで、このコンサル会社ではその活用法について製造業等様々な業種から3000社が集まって研究会を開催しているとのことだった。ただ、農業分野の企業からの参加が少ないとのことであった。その場にいた人から「誤差がないスピードで遠隔操作できるのなら全国どこの水田でも一カ所に設置された操作場からのドローンの操作で播種や農薬散布が可能になるのではないか」という意見が出た。 大学の研究会で直径15cmほどのドローンが無数に飛び立ち、害虫をビームで殺傷するという近未来のSFのような動画を見せられたが、そうした世界が近づいているのだろうと思うしかない。 先週末の生産者の集まりでも農薬や資材の商品説明はなく、農業用ドローンの紹介であった。説明にあたった会社は中国の会社で、2006年に20名で創業、現在、社員数1万4000名で世界の40%のシェアを有するまでになっている。 紹介した農薬散布用のドローンは、重量は9kg、8枚羽で2枚が故障しても安定して飛行できる。動力はバッテリーで40分の充電で22分の飛行が可能。マイクロ波レーダーで高度を計測、一般的な気圧センサーに比べ高度の誤差がない。10kgの液体を積み、噴霧システムと流量センサーにより、精密な噴霧を実現などの特徴があり、フライトして農薬を散布している様子が動画で紹介された。
最大の特徴は自動航行できることで、なんと中国では半分の農地で自動航行で散布等を行っているとのことであった。日本は自動航行についてはまだ緒に就いたばかりで、中国の圧倒的スピードには脱帽するしかない。10年程前、まだ無人田植え機が研究テスト段階にあったころ大手メーカーの研究者に話を聞きに行ったことがあったが、その時研究者が「日本より先に中国で始まる」と言っていた。その時はまさかと思っていたが、現実はその通りになっている。その研究者が中国の方が早いと言った理由は技術的なことではなく、広大な農地がある場所では無人機の近くに人がいなくても良かったからである。中国の農地の広大さは、黒竜江省の営農集団が日本製の田植え機を2000台スタンバイさせている様子を大学の研究者が写真で示し「これだけの田植え機が並んでいる様子は日本のメーカー自身でも見たことがないと言っていた」というコメントでよくわかった。
農地面積の差は如何ともしがたいので、日本の農地に合った機器の開発が必要になる。
興味深い取り組みとして今年から石川県で実証実験が始まるエアガン式直播ドローンがあげられる。このドローンは、水稲の種子を散播するもので、AIと接続、上空から圃場を撮影、土壌の硬度や水張りの水位を計測、AIがその場所に打ち込む種子の射出速度を弾き出し、最適な深度になるよう種を播くというもの。これであれば圃場を均平にする必要なく、入り組んだ棚田でも直播が可能になるため石川県では中山間地の低コスト稲作りの技術として農水省に実証プロジェクトの申請を行い、採択された。
実際に開発しているIT企業の役員に聞いてみると射出装置など技術的に解決しなければならない課題が多いと言っていたが、こうした新しい機能を持ったドローンが登場し、かつ自動航行で種子や農薬等が撒けるようになれば、革命的な低コスト稲作が実現可能になる。
こうした最新技術に関心が高く、実用可能になった低コスト稲作栽培技術を次々に取り入れている関東の大規模稲作生産者は「田んぼに入らないコメ作りを目指す」と言っていた。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
(458)農業AIは誰の記憶を使用しているか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年10月24日
-
【米価高騰・今こそ果たす農協の役割】農協は農家のインフラ 急がれる「備蓄米買い上げ」 神明・藤尾益雄社長インタビュー(下)2025年10月23日
-
現場の心ふまえた行政を 鈴木農相が職員訓示2025年10月23日
-
全中会長選挙を実施 12月に新会長決定 JA全中2025年10月23日
-
花は見られて飽きられる【花づくりの現場から 宇田明】第71回2025年10月23日
-
続・戦前戦後の髪型と床屋・パーマ屋さん【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第361回2025年10月23日
-
「ゆるふわちゃんねる」登録者数100万人突破 JAタウンで記念BOXを限定販売 JA全農2025年10月23日
-
愛知県の新米「愛ひとつぶ」など約50商品「お客様送料負担なし」で販売中 JAタウン2025年10月23日
-
人気アニメ『ゾンビランドサガ』とコラボ「佐賀牛焼肉食べ比べセット」販売開始 JAタウン2025年10月23日
-
佐賀県発の新品種ブランド米「ひなたまる」デビュー記念 試食販売実施 JAグループ佐賀2025年10月23日
-
AI収穫ロボットによる適用可能性を確認 北海道・JAきたそらちと実証実験 アグリスト2025年10月23日
-
西欧化で失われた日本人の感性や自然観とは? 第2回シンポジウム開催 2027年国際園芸博覧会協会2025年10月23日
-
GREEN×EXPO 2027で全国「みどりの愛護」のつどいと全国都市緑化祭を開催 2027年国際園芸博覧会協会2025年10月23日
-
食とエネルギーの自給率向上と循環型社会の実現に向けた連携協定を締結 パソナ、ヤンマー、Well-being in Nature2025年10月23日
-
栃木県「那須塩原牛乳」使用 3商品を栃木県内のセブン‐イレブンで発売2025年10月23日
-
都市農地活用支援センター 定期講演会2025「都市における農空間の創出」開催2025年10月23日
-
岩手県山田町「山田にぎわい市」26日に開催「新米」も数量限定で登場2025年10月23日
-
ニッテン×QuizKnock コラボ動画を公開 日本甜菜製糖2025年10月23日
-
北海道の農業法人25社以上が出展「農業法人と求職者のマッチングフェア」開催2025年10月23日
-
福岡市で「稲刈り体験」開催 グリーンコープ共同体2025年10月23日