【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第41回 「昭和は輝いていた」か2019年2月21日
今から10年くらい前ではなかったろうか、あるところで「昭和の懐古展」なる催しを見る機会があった。駄菓子屋、赤いポスト、メンコ(私たちは「バッタ」と呼んでいたが)、ブリキのおもちゃ等々、本当になつかしかった。
それから2~3年してからと思うのだが、BSテレビを中心に昭和の時代を振り返ってなつかしむ番組が多くみられるようになった。「昭和偉人伝」(2013年~)、「昭和は輝いていた」(14年~)、「昭和歌謡ベストテン」(14年~)、「あなたが出会った昭和の名曲」(17年~)等、それぞれ毎週もしくは隔週放映されるようになり、今も続いている長寿番組となっている。他にも「ああなつかしの昭和の演芸」、「昭和のお宝フィルム発掘」などがあり、昭和のテレビ番組の再放送もある。
昭和が終わってからふた昔、昭和生まれのものにとってもうなつかしいと思うだけの時間が経過したからなのかもしれない。あるいは、最近の世の中、平成になってからの日本の社会が何かおかしい、そうしたことから昭和の時代をなつかしむようになったのかもしれない。
それにしても何か奇妙である。昭和生まれで昭和の時代に50年以上も生きてきた私にとって、昭和が当たり前だったのに昭和がなつかしがられる、もう私も振り返られる過去の人間、なつかしがられる年代になったのかと何か変な気持になる。私も年をとってしまったものだ、回顧の対象になってしまったのだと。私自身ももう古く錆びついたホーロー看板(今の若い人にわかるだろうか)と同じ、そういえばそんな人もいましたねえと回顧される側になってしまった(思い出されもしなくなっているのだろうが)。何とも奇妙な感じである。
それはそれとして、私としては多くの人に昭和の時代を大いに回顧してもらいたい、なつかしんでもらいたい、そして私もなつかしみたい。そのためにも昭和の名がつけられているテレビ番組を見ることにしよう。
と思ったのだが、そのなかにちょっと気になることがあった。
私がこうした昭和回顧番組のなかで一番最初に気が付いたのはBSテレビ東京「昭和は輝いていた」(現在はBSジャパン「武田鉄矢の昭和は輝いていた」に変わっている)だった。そしてそのテーマが非常に気になった、本当に昭和は『輝いていた』と言っていいのだろうかと疑問になったのである。それで他の昭和回顧番組を探してみたらもっと気になる番組名があった。BS朝日の「昭和偉人伝」(13年から始まっていたのだが、14年まで私は気が付かなかった)である。その宣伝文句には「いまなお輝いて見え、私たちの心に深く刺さる『昭和』という時代を、偉人=時代を牽引したリーダーの後ろ姿から振り返る」とあったのだが、ここでも昭和は「いまなお輝いて見え」るとあるのである。
もう一つ、「昭和偉人伝」の『偉人』という言葉もかなり気になった。
しかし、昭和の時代はすべて輝いていたわけではない。
昭和の時代の最初の三分の一(1926~45年)は、おかみがいうことに続いてそれと同じ言葉を国民みんなが繰り返して唱える天皇陛下万歳の「唱和」の年代だった。そして侵略戦争を起こし、一般庶民はもちろんのこと、外国の人たちにまで多くの被害を苦痛を与えた暗黒の時代でもあったことも忘れてはならないのである。
そうした時代も輝いていたとみて、それを牽引した指導者を偉人として讃えて昭和を振り返るのだろうか。まさかそんなことはないと思うのだが。
もちろん、戦後の昭和の半分(つまり昭和の真ん中の三分の一、1946~69年の時期)は平和と民主主義の「唱和」の時代であり、貧しかったけれども平和と民主主義の実現に取り組み、さらに貧困からの脱却、格差の是正を目指し、さまざまな文化の花を開かせた年代であり、そういう点では一般庶民も含めてみんな輝き、また輝かせた年代ということができるだろう。そうした流れをつくった庶民をとりあげずに『偉人』なるものだけを取り上げていいのだろうか。
さらに昭和の最後の三分の一の時期(1970~89年)は国際化の「唱和」の時代であり、一方で大資本の巨大化・世界への進出が進み、他方で中小企業や地方の農山漁村の衰退がもたらされた時期であり、この時期を輝いていたとして一面的に見ていいのだろうか。
こういう疑問をもったのだが、番組の実際の内容はそう心配したほどのものではなかった。これについては次回述べたい。
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