【森島 賢・正義派の農政論】統計のカラクリ2019年2月25日
統計の不正問題が、国会で議論の焦点になっている。政府が統計を不正に歪めている、というのである。まさか、野党が政府を困らせて、日ごろの鬱憤を晴らそうというのではあるまい。多くのマスコミは、これを劇場ふうに伝えている。
統計を不正に捏造して、真実を歪めて公表している、というだけなら、そうした議論は専門家に任せればいい。国会が行うべきことは、野党が中心になり、そのことで、国民がどのように怒っているか、国民の大多数である弱者が、どのように困窮し憤激しているか、それを政府に直視させて、反省と改善を要求し、実現させることである。
そして、それを5か月後に迫った参院選の成果につなげることだろう。
ことの発端は、全数調査をすべきなのに、標本調査でごまかしたことだという。だが、全数調査なら真実が分かるか。必ずしも、そうはならない。
農業には、以前に「縄伸び」というものがあった。農地の面積を調査するとき、四角形なら縦と横の長さを測量して掛け算するのだが、長さを測るときに巻き尺を強い力で引っ張る。すると実際より短い長さになる。その結果、面積が実際より小さくなる。
なぜ、そうするか。そのほうが面積割りの税金が少なくなるからである。農業者にとってトクになる。
社会統計にはこうしたことが、その本性としてある。この本性があるから、全数調査をしても真実には迫れない。
国会は、この点を追及すべきである。不正な統計によって、いったい誰がソンをしたのか。弱者にとってどうなのか、それを徹底的に追及すべきである。
◇
もう1つある。全数調査でも、それが真実ではないことがある。
ある1つの対象を調査するとき、ある調査員の調査結果と、別の調査員の調査結果が異なるばあいがある。いったい、どちらが本当の真実なのか。
昔の農村には、「ゴットウ」と同様な統計調査の偏りがあった。いまはないだろうが、統計機構が未整備な途上国にはいまもある。
「ゴットウ」とは、5日とか10日とか15日など、一桁目が5か0の日には交通渋滞になるという現象のことである。それと同様で、年令を調査すると一桁目を5や0で答える人が多い。だが、それは真実でない。
これは、調査員の資質の問題ではない。調査機関の問題である。その底には、安倍晋三首相の社会観がある。つまり、真実を見ないで、偏った独断で社会を見る、という社会観である。それを政治に反映させる。
◇
農林統計のばあい、以前は統計調査部が担当機関だった。しかし、いまは市場原理主義農政のもとで、組織の名前lから「調査」を消した。その上、人員を大幅に削減した。
以前は、統計調査部の名で、多くの会社の調査部と同じように、部内で活発な議論が行われていたようだ。新米の若い部員も、上司の係長や課長を相手にして、対等な議論をしていた。ここには忖度など微塵もない。夜おそくまで、侃々諤々の議論をしていた。だから、不正が入りこむ余地はなかった。
しかし、いまはどうか。安倍一強体制のなかで、課長は首相官邸の意向を忖度した結論を、問答無用で部員に押し付けている。課長に直言する部員はいないようだ。ここには、自由で闊達な議論はない。真実を見ようとする熱気はない。
これでは、標本調査を全数調査にしたからといって、真実には迫れない。これは、統計不正といっていい。以前の組織のような健全な組織だったら、こんどのような不正は起きなかっただろ。
◇
事実を隠蔽する政治は、安倍政権になってから特に目立つようになった。ここには、安倍首相の独断的で偏った政権運営がある。これは、戦前の軍部による政治の壟断と底通している。
これが、首相の主張する戦前回帰の一部だとすれば、根は深い。日本の針路を誤る由々しき問題である。
◇
以上のように、政府は統計を悪意のもとで操作して、政府にとって不都合な事実を隠蔽し、弱者にとって好都合な事実を覆い隠している。
野党が弱者の立場に立つというのなら、このことを徹底的に暴露すべきである。そうすることで、弱者の怒りを結集できれば、その怒りは、5か月後の参院選に爆発するだろう。
ちょうど、昨日行われた沖縄の反基地運動のように。
(2019.02.25)
(前回 全てを参院選に投入せよ)
(前々回 野党は選挙上手な自民党に学べ)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(123) -改正食料・農業・農村基本法(9)-2024年12月21日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (40) 【防除学習帖】第279回2024年12月21日
-
農薬の正しい使い方(13)【今さら聞けない営農情報】第279回2024年12月21日
-
【2024年を振り返る】揺れた国の基 食と農を憂う(2)あってはならぬ 米騒動 JA松本ハイランド組合長 田中均氏2024年12月20日
-
【2025年本紙新年号】石破総理インタビュー 元日に掲載 「どうする? この国の進路」2024年12月20日
-
24年産米 11月相対取引価格 60kg2万3961円 前年同月比+57%2024年12月20日
-
鳥インフルエンザ 鹿児島県で今シーズン国内15例目2024年12月20日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】「稼ぐ力」の本当の意味 「もうける」は後の方2024年12月20日
-
(415)年齢差の認識【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月20日
-
11月の消費者物価指数 生鮮食品の高騰続く2024年12月20日
-
鳥インフル 英サフォーク州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月20日
-
カレーパン販売個数でギネス世界記録に挑戦 協同組合ネット北海道2024年12月20日
-
【農協時論】農協の責務―組合員の声拾う事業運営をぜひ 元JA富里市常務理事 仲野隆三氏2024年12月20日
-
農林中金がバローホールディングスとポジティブ・インパクト・ファイナンスの契約締結2024年12月20日
-
「全農みんなの子ども料理教室」目黒区で開催 JA全農2024年12月20日
-
国際協同組合年目前 生協コラボInstagramキャンペーン開始 パルシステム神奈川2024年12月20日
-
「防災・災害に関する全国都道府県別意識調査2024」こくみん共済 coop〈全労済〉2024年12月20日
-
もったいないから生まれた「本鶏だし」発売から7か月で販売数2万8000パック突破 エスビー食品2024年12月20日
-
800m離れた場所の温度がわかる 中継機能搭載「ワイヤレス温度計」発売 シンワ測定2024年12月20日
-
「キユーピーパスタソース総選挙」1位は「あえるパスタソース たらこ」2024年12月20日