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【坂本進一郎・ムラの角から】第1回 日本とフランスの間―基本的人権をめぐって―2019年2月27日

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【坂本進一郎】

 秋田県の水稲専業農家を営んでいる坂本進一郎氏に、農業生産の現場であるムラから、日本の農業・農政さらには都市の消費者について思うこと、感じることを中心に、隔週で書いていただくことになりましたので、これから乞うご期待です。

 フランスの農民は、時に過激である。その一端を1990年のブリュッセルの10万人デモで見た。デモ隊は道路の形に沿って、横列縦隊の隊列を組んだ。横列には2国のデモ隊が並んだ。幸か不幸か日本隊はフランス隊とのアベックであった。日本隊は行儀よくきれいな隊列を組んで、これまた行儀よく「家族農業を守れ!」といったシュプレヒコールを唱和した。
 だがフランス隊は違った。彼らは並木道を自由に歩き回り、並木道の木を次々と片っ端から倒していったのである。フランスデモ隊の通った後は立っているものすべてがなぎ倒されてしまったのでないかとさえ思われた。この風景を見たとき、他人の国にきてまで「やることがすごい」と思った。凄いのはまだあった。ついでに話してみよう。

 デモ隊はEU本部前を通る道順になっている。そこで当局も予想したのか、玄関前には装甲車、バリケード、それに機動隊も待機している。そして争いは、すでに始まっていた。我々が通りすぎると騒ぎが一段と大きくなった。何事かと引き返して高台に立って見ていると、デモ隊はジャガイモや石を投げ、火までも飛び道具になっている。
 隣のおじさんもニコニコしながらジャガイモを投げている。このおじさんどこに隠し持っていたのか次々ジャガイモを投げている。ポケットというポケットに隠し持っていたのである。すると装甲車はデモ隊の暴力行為を阻止するため、放水を始めた。すると濁った水が飛んできた。おかしいなと思っていると目がちかちかしてきた。催涙液であった。日本で催涙液に見舞われたことがないのに、こんなところでとんだおみやげをもらったと思った。隣のおじさんも眼をしょぼしょぼさせ顔をくしゃくしゃにしている。目が合った時、おまえもやられたのかとくしゃくしゃ顔を見やりながら、同類憐れんでニッコリし合った。

 それでは一般市民はデモ隊をどう思っていたか。彼らは沿道に出てきて我々を暖かい眼差しで見ている。これは日本と大違いだ。この後日本でデモをする機会がったが、沿道で見ている人は皆無で、なんだか無視されたような寂しい思いになったことをおぼえている。何しろブリュッセルでは、デモが終わって帰路の途中機動隊にあい、手を振ると手を振り返してくれるというおまけまでつき、違うお国柄を感じたのである。

 ではさらにフランスとの違いは何か。「農業大国」(フランス.)を目指すのか「農業貧弱国」(日本)を目指すのかの違いである。フランス人とのNPO(非営利団体)の会合や会議で感ずることは、「農業のない国は国家でない」というフランス人の自負心であり、ドゴール大統領も「食料自給なくして国家なし」と喝破している。これらの言葉の裏側に農業への暖かい眼差しの存在することを感じる。
 だが日本は「軽農主義」できた。その結果自給率38%の「農業貧弱国」になった。恐ろしいのは、「農業貧弱国」になっても「重農主義」に軌道修正をしないことである。このやり方はこの前の第二次大戦に似ている。第二次大戦は負けるとわかっていながら玉砕戦を敢行した。今も安倍首相はアメリカ、そしてEUにまで農業関税を下げ「玉砕戦」さながらの様相を呈してきた。

 次に日本とフランスの違いは何か。基本的人権を重んじる(フランス)か軽んじる(日本)かの違いだ。フランスで基本的人権思想が、はっきりその姿を現したのはフランス革命の時(1789年)である。フランス革命は、封建時代のシンボルであるブルボン王朝の専制支配を葬り、自由・平等の近代社会、つまり基本的人権が認められる社会の実現を目指したのである。
 フランスでは、昨年ストライキが頻発しフランス革命に匹敵する大規模なストライキも起こっている。私はこの大規模なストライキが起きた時、フランス革命とダブって見えた。フランス人にとってストライキはフランス革命で勝ち取った民衆の権利主張の「抵抗権」と考えられ、フランス革命以来ストライキは綿々として続いている。フランス人はフランス革命で勝ち得た民主主義の権利を色あせしないように復習しているようにも見えてくる。

 ところで日本はどうか三里塚の市東孝雄さんの土地とり上げが可能か、不可能かの請求権意義裁判の判決が出る三日前知人に「判決が出るよ」と教えると、「まだやっているの」という返事が戻ってきた。この返答に私は腰が抜けてしまった。市東さんの「土地取り上げ反対運動」は基本的人権問題を先鋭的に表しており、簡単に忘れてはならないものと思うからである。

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