【小松泰信・地方の眼力】「もう戦争はごめんだ」と言い続ける意義2019年2月27日
米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡る沖縄県の県民投票で、埋め立て反対が7割を超えたにも関わらず、安倍政権にはそれに応えようとする気配がない。高知新聞(2月26日付)のコラム「小社会」は、第二次世界大戦後、かつての西ドイツが1949年に制定したボン基本法(憲法)のたたき台となった「ヘレンキームゼー草案」を取り上げている。条文は「国家は人間のために存在し、人間が国家のためにあるのではない」で始まるが、それを「ナチスが個人を軽視し、国民を全体主義に組み込んだ歴史を踏まえて生まれた基本的原理」と紹介する。そして、「沖縄の民意は個人(地域)と国家の関係への問いでもある」と、問題を提起する。
◆怒りの沖縄タイムス
県民投票から一夜明けた25日早朝から、ダンプカーが土砂の搬入を繰り返し、海上でも辺野古側の土砂投入と大浦湾側の護岸造成工事が続いた。沖縄タイムス(2月26日付)の社説は、県民を愚弄する行為として、「民主国家であるならば民意が示された以上、ひとまず工事を中止すべきだ」と、怒りを隠さない。
さらに、沖縄基地負担軽減担当相でもある菅義偉官房長官による、「普天間飛行場の危険性除去、返還をどのようにするのか、知事から語られておらず、ぜひ考えを伺ってみたい」との発言に対しては、「辺野古が唯一」という考えを見直す気がないのに、県に代替案を迫っているとして、これを「恫喝」と断罪する。
そして、「返還合意当時の橋本龍太郎首相は地元の頭越しには進めないことを大原則にしていた。米軍基地は人権や自治権を大きく制約し住民にさまざまな負担を強いる。自治体や県の同意なしにはできない」として、政府に「『辺野古唯一』の見直しを表明した上で、県との対話に臨むべきである」とする。
◆辺野古問題をわが事とせよと迫る地方紙
高知新聞(2月26日付)の社説は、「沖縄の基地問題は、民主主義や国と地方の関係の在りようを問うてきた。安倍首相は『県民投票の結果を真摯に受け止める』と言うのなら、県民に誠実に向き合い直し、その言葉にふさわしい対応を取らなければならない」とする。しかし、「移設をこれ以上、先送りはできない」と強硬な方針を変えていない情況に、「民主主義の国で、民意を排除するような強権的な振る舞いを容認するわけにはいかない」と畳みかけ、「見せかけの対話は許されない」とする。
信濃毎日新聞(2月25日付)の社説は、当初、賛否の二つだった選択肢に「どちらでもない」が加えられたことによって、民意をつかみにくい結果が危惧されたことから、「終わってみれば明快」とする。そして、「反対意見に耳を傾けず、一方的に国の方針を押し付ける―。そんなやり方を許せば、どの自治体でも同じことが起こり得る。沖縄にとどまらず、民主主義や地方自治の在り方に関わる問題である。国民全体で向き合い、政府に転換を迫っていきたい」と、わが事として考えることを訴える。
ずばり「沖縄の問題は本県にとっても人ごとではない」とするのは、秋田魁新報(2月26日付)の社説。その理由は、「政府が秋田市の陸上自衛隊新屋演習場を候補地としている迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』(地上イージス)配備計画も安全保障政策の一環であり、同様の構図」だからだ。そして、政府が「地域の理解を得ながら進める」としているものの、実際には国の19年度予算案に購入費の一部1757億円が盛り込まれていることを指摘し、「配備ありきの姿勢が際立つ」と警告を発する。そして、この投票を契機に、「各種安全保障政策に対し、国民が当事者意識を持つこと」で、「まっとうな政治を取り戻す第一歩となる」ことを期待している。
福井新聞(2月26日付)の論説は、「世界で最も危険と言われる普天間が固定化され、危険なまま置き去りにされることは絶対に避けなければならない」と首相は主張するが、「沖縄県は新基地の完成までには13年、約2兆5千億円以上を要すると試算しており、逆に危険性が13年間も放置されることになる」と、その矛盾を突く。さらに、「そもそも普天間が返還されるのかが不透明だ」として、「辺野古新基地建設イコール普天間返還とはなっていない」という、根本的問題を突きつける。
政府が「国の専権事項」とし地元の声に耳を傾けてこなかったことを指摘し、「沖縄以外の地方自治体でもありうることを肝に銘じる必要がある。一向に変わらない状況に『ノー』を突きつけた沖縄県民。それは地域の自己決定権をどう守るかの闘い」とする。
◆戦中派俳優が語る恵方巻き問題
日本農業新聞(2月24日付)の『食の履歴書』で、北村総一朗氏(俳優)は「戦中派だからね、僕は。戦争中は、ただただおなかいっぱい食べたいという思いだけで、おいしいものを食べたいという観念が全くなかったね。今は皆、ぜいたくにやっていて、それはとてもいいことですが、もったいないなあと思うことも多くて、大量に作った恵方巻きを捨てるなんてニュースを聞きますとね」と、恵方巻きの廃棄問題を嘆く。
学生時代に農作業を手伝い、その大変さを知ったことから、「米を一粒も残さずにいただこうと決めた」そうだ。だからこそ、「余った恵方巻きを捨てることが、どんなにひどいことか。......恵方巻きができるまでに苦労した方々への感謝の気持ちがあったら、できません。戦時中だったら絶対あり得ない。ああ、もったいない!」と、嘆く。
◆特攻兵器「桜花」搭乗員として死と向き合った農業経営学者の遺言
菊地泰次氏(2018年12月26日逝去、享年95歳、京都大学名誉教授・農業経営学)の「逝去者記念の式」(2月23日)に参列した。会場で毎日新聞(2014年8月15日付)に掲載された、氏による「肉弾の狂気もうごめんだ」という題名の手記をいただいた。
大学入学と同時に学徒出陣で海軍に入り、特攻兵器「桜花」搭乗員として出撃を待つ間に敗戦を迎えた。
「戦中は人命と人権を軽視したひどい世の中だったし、もちろんひどい戦争でした。しかし、戦争になってしまうと、みな狂気になってしまう。特攻が始まった当初、国民は『軍神の業。回天の壮挙』として賛嘆しましたが、後には半ば当然のこととして受け入れるようになっていきました。教育の恐ろしさもありますが、『肉弾三勇士』以降、ずっとその精神で突き進んできて、狂気に歯止めがかからなくなっていたのだと思います。......しかし、国のため、家族のためを思い、命を捨てた彼らの純粋な精神は美しい。だからこそ、こうした戦法を採用した陸海軍幹部の判断は許されないのです」と、怒りを込める。
第二次世界大戦後、日本に戦争がなかったことを奇跡とする。「9条の平和憲法があるからだけではないでしょう。軍人も一般市民もあの戦争を体験したすべての国民が『もう戦争はごめんだ』と強く思ってきたからではないでしょうか」とその理由をあげ、「その思いがどこまで続くでしょうか。......狂気に陥ることのないよう、念には念を入れた歯止めが必要です」と、結んでいる。
辺野古問題は、「もう戦争はごめんだ」と強く思い続けることと、入念な歯止めの構築という課題を我々に突きつけている。
「地方の眼力」なめんなよ
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