【小松泰信・地方の眼力】出したヒト返せよ2019年3月6日
ペティーとクラークが明らかにした経験法則通り、わが国は経済発展にともない、産業構造や労働力構成が第1次産業から第2次、第3次産業に比重を移していった。見方を変えると、第1次産業は国家の経済発展に伴い、土地、労働力、資本という生産の3要素を供出していった。経済発展と共にやせ細っていく産業に、強くなれとはどの口が言うのか。本当に強くなって欲しいのなら、出したものを返してから言うのが筋。
◆手詰まり感が漂う人口増加策
「八戸市の人口が1月末に23万人を割り込んだ。少子高齢化が進む中、人口減少を食い止めるのは容易ではないが、多様な産業が集積する都市の特色を生かし、UIJターンなど市外からの転入者を増やす取り組みに活路を見いだしたい」で始まるのは、デーリー東北(3月3日付)の時評。
市の人口は2013年に24万人を割ってから約5年間で1万人が減り、減少スピードも加速している。人口減少対策として、市外への転出者を減らし、転入者を増やす「社会動態」の増加を目指すことを求める。そのためには、「まず最も自然なのが、元々八戸に住んでいて進学や就職などで、いったん地元を離れた人たちに再び戻ってきてもらうことだ。移住希望者に的確な情報を発信し、家族で移り住んでもらえれば転入者を増やしていけるはずだ」と、望みをつなぐ。
しかし、市の19年度当初予算案には、「UIJターンの促進や企業立地の推進にもっと積極性がほしい」と、苦言を呈している。移住促進策としては、「東京23区から移住、就業する人に最大100万円を助成する新事業などを展開するが、国が創設した制度を活用したもので独自性に欠ける。企業立地の推進も継続事業が目立つ」と厳しい。手詰まり感への焦りが伝わってくる。
南日本新聞(2月28日付)の社説も、「政権の看板政策である地方創生が行き詰まっている」ので、「集中から分散への流れを生むために、これまでの政策を検証し、大胆な戦略を打ち出すべき」とする。
「東京は家賃が高く、子育ての環境にも決して恵まれているとは言えない。それでも地方移住が進まないのは自分のキャリアを生かせる仕事が見つからず、賃金や福利厚生の面で希望する職場も少ない」ことを、この問題の大きな要因としている。
19年度が総合戦略の新5カ年計画を策定する年に当たるため、首都機能の地方移転について真剣な議論を求める。さらに、「国の『顔色』をうかがっていては、地方の独自性が損なわれかねない」として、自治体の自由度を高める必要性を強調する。
◆地域おこし協力隊は現代版人返し
当コラムは、これまで何度か、期待を込めて「地域おこし協力隊」制度に言及してきた。供出してきたヒトを取り戻す、現代版の「人返し」(江戸時代中期以降、農民の都市流入、農村荒廃に対してとられた帰農策)と考えるからだ。
2009年度に総務省が制度化したこの取り組みで、17年度の実績は、隊員数4976人、受入自治体997となっている。
日本農業新聞(3月1日付)は、同紙が、2月下旬に地域おこし協力隊171人を対象に行った、農業に関する活動の割合やその活動内容、JAとの関係などについての聞き取り調査結果を紹介し、今後の課題などを提示している。
「全活動に占める農業に関する活動の割合」については、5割以上という答えが33%。全くないという答えが22%。
「あなたはJAと関わりがありますか」については、「全くない」と「あまりない」の合計が78%。自由記述には、「JAが何をしているのか知らない」「活動拠点の近くに店舗がない」との記載あり。JAを知る機会すらないことが、浮き彫りになったようだ。
「もっとJAと関わりたいと思うか」については、「大いにある」と「ある」の合計が68%。自由回答には、JAが持つ情報や技術を求める記述も多くあったとのこと。関係構築の余地は大いに残されている。
同紙の論説では、「協力隊と連携するJAは『刺激になって地域が明るくなった』と実感する。実際、隊員と接点を持つJAには若者が集まり、農を基軸にした起業につながる成果も出てきた。協力隊の活動は多彩で、JAとの接点は多いはずだ。隊員が地域の担い手やキーパーソンに育ってから連携したのでは遅い。......協力隊とJA。交流を通し、双方の可能性を広げよう」と、接点づくりを呼びかけている。
◆注目すべき福井県での動き
福井新聞(3月3日付)の論説は、福井県における協力隊の現状と今後の可能性について言及している。
同県では、最初の2009年度は3市町で計5人の隊員を受け入れた。その後、他の市町も募集を始め、過去9年間に着任した新規隊員の累計は16市町で125人に上っている。年齢別では20歳代が半数、次に30歳代が多い。男女比は男性が6割を占めるそうだ。
また退任後の定住率は58.1%で、全国平均(63%)をやや下回るもののまずまずの成績とする。
移住先で起業する隊員が増えたことが最近の特徴で、退任後も同じ市町で活動を継続する人に最大100万円(市町が変わる場合は50万円)を補助する「定着支援金交付」(県が18年度から始めた制度)も追い風になっている、と見ている。眼鏡や漆器業者と連携した体験型マーケットを企画(鯖江市)、古民家を再生したゲストハウスを中心的に運営(南越前町)、古民家でカフェやクラフト体験教室(小浜市)、農家民宿(高浜町)が、起業例として紹介されている。
「地域の魅力を再発見し域内外に情報を発信、また住民自身が活性化に動き始めるようになるなど、文字通り『地域おこし』の推進役になっている」と評価し、「今後も定住率がアップし新たな挑戦が続けば、個性的な地域づくりに進化する可能性がある」と、大きな期待を寄せている。
「国の『地方創生』が機能せず『東京一極集中』が一向に止まらない中、人口減少や高齢化で苦しむ地方にとっては、数少ない明るい兆し」との結論には、異議なし。
◆高校生が教えてくれる「農業の教育力」
高校で農業を学び、大学では教育を学び、将来は教員免許の取得を目指す高校生の存在も「明るい兆し」のひとつ。
斎藤仁氏(高校生、18歳、埼玉県)が毎日新聞(3月3日付)に寄せた一文には、農業の授業で小学生と関わる中で、「農業だからこそ深まるコミュニケーションや成長があるのではないかと感じた。インターネットの普及などで閉鎖的な風潮が広がりつつある現代で、農業を通じた教育は、子供たちに必要な刺激となるのではないだろうか」と、記している。
諦めるにはまだ早い。農業者やJAの関係者は「戻ってこい!」と心で叫びながら、疎遠な人や組織との関係づくりに注力すべし。
「地方の眼力」なめんなよ
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