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【熊野孝文・米マーケット情報】米糀甘酒はコメ業界の点滴になり得るか?2019年3月12日

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【(株)米穀新聞社記者・熊野孝文】

 「飲む点滴」のフレーズでブームになった甘酒。民間調査会社の推計では2017年240億円が2022年には323億円まで拡大するという予測もある。ブームの最中、最大手味噌メーカーの100%子会社が魚沼市に年間製造能力2700tという大きな米糀甘酒製造工場を完成させ、5日にオープニングセレモニーが開催されたので行ってみた。
 新工場の場所は、上越新幹線浦佐駅から車で10分ほどの魚沼市水の郷工業団地内。ここには大手無菌パックご飯メーカーの工場やパックご飯委託製造専門会社の工場もあるなどコメ加工品の一大製造拠点になっている感もある。そこに4万平米の敷地内に鉄骨2階建ての大きな新工場が鎮座している。甘酒というと少しアルコールが入った甘ったるい白濁の液体が思い浮かぶが、これは酒粕から造った甘酒で、この工場で造るのはアルコールの入っていない米糀甘酒。こうじには「麹」と「糀」という漢字が当てられるが、なぜこの会社は糀の文字を使っているのかは後述するとして、これほど大きな米糀専用の製造工場は他には無いのでもう少しこの工場の概要について触れてみたい。
 最大の特徴は何といっても規模の大きさ。直径18mという蒸し器や一度に20tのコメに種麹を植え付けられる円盤型製麹装置、さらにはコメの鮮度管理のために300tを収容できる雪室まで備えている。こうした製造設備はガラス越しに見学できるようになっているほか、工場2階には「糀サロン」という広いスペースの場所があり、ここには糀がどのようにして製造されるかパネルで掲示されているほか糀そのものも置かれ、発酵学の書籍も揃えられている。さらには米糀から作ったアイスクリームやジェラードなどを食べられるように厨房まである。当日はこの厨房で世界ジェラード大使や著名なパティシエ、和菓子菓道家が米糀を使い、腕を競い合って実に美味な菓子類を提供した。
 それにしても古くからある米糀がなぜ今ブームになっているのか?ネットで検索してみるとこれかと思わせる米糀の効能が掲載されているものがあった。(1)消化吸収を助けるので胃腸にやさしい(2)腸内環境を整え便秘予防の解消(3)血行と代謝を促進、美肌効果も抜群!(4)ダイエットの強い味方!!。これ以外に目の下のクマが消える。マクロビオテックでは砂糖の代わりの甘味料などなど。
 この文言でわかるように米糀のターゲットは女性である。食品に限らず多くの消費材の購入選択権は女性が握っている。女性が喜ぶ効能が謳ってあればその商品は売れるだろうというとそれほど単純ではない。以前、おにぎり店舗で販売量を急増させた女性のスーパーパートさんに取材したことがあった。そこで言われたことは今でも忘れない。「(女性)はコメは右脳で買うが、パンは左脳で買う」。右脳は生活のためにやむなく買うが、左脳は自らの楽しみのために買うとの解説であった。
 右脳で買われる精米が今どうなっているかというと、米穀機構の調査では今年1月の1人当たり精米消費量は4187gで前年同月比4.9%減。なんと14ヶ月連続で前年同月を下回るという由々しき事態になっている。「ごはんを食べましょう!」と大声で何度も叫んでみても全く効果がないことがハッキリしている。つまり右脳にいくら訴えてもダメなのである。左脳に訴えるような工夫が必要なのだが、残念ながらそうした精米商品はほとんどない。それ以前に家庭用炊飯器の出荷台数は2010年に623万台あったが2016年には566万台に減っているのだから家庭用精米の販売量の落ち込みは加速するだろう。
 麹と言う文字はコメ、小麦、大豆など穀物を発酵させた時に使われる中国から伝わった文字だが、糀はコメだけを発酵させる際に使う和製文字である。この会社がこの文字を使ったのは国産にこだわっていることをアピールするためで、全ての甘酒に「国産米」使用を表示している。その狙いは、国内だけではなく海外に販路を築くためで今月末にはタイに米糀甘酒のテナント店をオープンする。日本にしかない文字を使うことによってより日本産をアピールできるという読みである。
 異国に自国独自の食品を売り込むのに最も大事なことは「異国に自国の文化について憧れを抱かせる」ことであると個性の強い東大の先生が言っていた。左脳だけではなく前頭葉にまで訴える必要がある。そうすることによって日本のコメ・コメ加工食品が海外で売れるようになる。

 

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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】

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