【小松泰信・地方の眼力】自主夜間中学校が灯すもの2019年3月20日
いまだ「国税口利き疑惑」は晴れず、五月晴れにはほど遠い片山さつき地方創生大臣、2月26日開催の第41回規制改革推進会議議事概要によれば、冒頭のあいさつで、「まさに全ての政策分野の道が規制改革を通じてしか実現できないというのが実感であり、我々も既得権勢力と闘って、担当大臣として、事務局とも一丸となってしっかりとサポートさせていただきたい」とあいさつ。これを受けて、大田弘子議長(政策研究大学院大学教授)が「片山大臣、力強いお言葉、ありがとうございました」と返す。
◆規制虫はもとから絶たなきゃダメ
大臣の力強いお言葉に勢いづいたのか、八代尚宏委員(昭和女子大学グローバルビジネス学部特命教授)は、「地方創生のための規制・制度改革」の中で取り上げられた「農業生産性の向上と若者の農業参入促進」に関連して、「一番大事なのは株式会社による農地取得ということです。これは実は国家戦略特区において既に風穴があいており、養父市がこれを既にもう使っているわけです。やはりそういうものを全国展開するような形で、ぜひ株式会社の農地取得という点についても議論していただければと思います」と発言。
これを受けて、金丸恭文議長代理(フューチャー代表取締役会長兼社長 グループCEO)は、「八代委員の貴重なご意見として承って、検討課題といいますか、検討の方法も考えたいと思います」と応える。まさに、あうんの呼吸。
このやり取りについて、日本農業新聞(3月18日付)は、「昨秋は政府・与党としても、『まだまだ現状を見ていかなければいけない状況』(農水省)として、同特区の全国展開など株式会社の農地取得に関する議論は見送った」とする。にもかかわず、蒸し返されたことに不快感を隠さぬ自民党農林幹部やJA関係者の不安げな様子を伝えている。
何を今さら、不快ですか、不安ですか。自由を基調とする資本主義経済は、自由を束縛するものを忌み嫌うもの。まして新自由主義思想にずっぽり浸かった規制改革推進会議が存在する限り、緩和要求は終わらない。もとから絶たない限り、いつでも、どこでも、規制虫は生き延びて、またぞろ出てくることになる。
◆国会に期待するのは酷かい
同じく日本農業新聞(3月18日付)の論説では、今国会において、「食料・農業・農村基本計画見直しは議論さえ始まっていない。農水省は、食料・農業・農村政策審議会の企画部会で18日から農家らへの意見聴取を始める予定だが、本格的な議論開始は秋ごろになる見通しだ。野党各党が国会に提出した主要農作物種子法(種子法)の復活法案は、一度も審議されないまま4月には丸1年を迎える。見直し2年目で正念場を迎える米政策も、議論が深まらない」ことを嘆き、「争点を明確化することが選挙イヤーに課せられた民主主義の責務ではないか」と、国会において農政論議が活発化することを求めている。
悲しいかな、農業問題はその重要性と反比例するかのように、論議における優先順位を下げている。まして、第2次安倍政権における国会軽視戦略によって、国民の国会への期待値も低下している。民意の実現に何をすべきか、考え時である。
◆民意には応えません
毎日新聞(3月18日付)は、同紙が3月16、17日に実施した全国世論調査(固定電話回答者418人・回答率56%、携帯電話回答者525人・回答率81%)の結果を載せている。注目したのは次の四項目。
(1)毎月勤労統計の不正調査問題で、厚生労働省の特別監察委員会がまとめた追加報告書が、「担当部署がうその説明をしてきたが、隠蔽とまでは言えない」と結論づけたことについては、「納得できる」が13%、「納得できない」が70%。
(2)沖縄の県民投票で、米軍普天間飛行場の移設に向けた名護市辺野古沿岸部の埋め立てに「反対」する意見が7割を超えた。しかし、政府が埋め立て工事を続けていることについては、「賛成」が29%、「反対」が52%。
(3)東日本大震災から8年がたち、国民の被災地に対する関心が薄れたと感じることについては、「よく感じる」と「ときどき感じる」の合計が69%。「あまり感じない」と「ほとんど感じない」の合計が19%。
(4)東京と地方との経済的な格差は広がっていると思うかについては、「広がっている」が72%、「広がっていない」が13%。
これらからも、現政権の姿勢が国民の願いと乖離していることは明白である。
それでも、39%が安倍内閣を支持している。そしてその51%が「他に良い人や政党がない」ことを支持の理由としている。消去法による消極的支持は、負のスパイラルを加速させ、己の首を絞める。多くの国民が、このことに一刻も早く気づかねばならない。
◆研究者の一元管理は革新の芽を摘む
日本経済新聞(3月18日付)によれば、「政府は国立大学や国立研究開発法人に所属する研究者約10万人について、国が助成した研究資金や成果などの情報を一元管理する仕組みを導入する。研究者ごとにまとめたデータベースを作り、政府内で情報を共有する。関係省庁の政策効果を科学的に把握するとともに、研究資金の効率的な配分につなげ、イノベーション(革新)の創出につなげる」そうだ。「個別の研究者の業績評価には使わない」とのことだが、信用できない。なぜなら、「データを分析すれば、助成額と論文数や引用数、特許との関連がわかる。年齢や性別ごとの傾向を把握すれば、若手や女性研究者支援にも役立つ」ということは、支援しない対象者も明らかとなるからだ。
今月末に定年となる身にとって、一元管理の対象とならなかったことにホッと安堵する。その一方で、わが国の大学が、革新の「創出」の場から、「喪失」の場となることに暗澹たる気持ちとなる。なぜなら、管理は思考に萎縮をもたらし、革新の芽を摘むからだ。自由無き学びの場、研究の場に革新は生まれない。
◆革新の芽出し
山陽新聞(3月19日付)によれば、岡山市は義務教育の未修了者や学び直しを希望する人にボランティアの教師が教える「岡山自主夜間中学校」が要望していた、2012年から空き校舎となっている旧小学校の使用を認めた。3月18日に開かれた市協働推進委員会で有識者委員らが審査し「外国籍の人らの学習ニーズが高まっており、新しい学びの手段として支援する必要がある」と評価。各委員の採点でも基準を満たし、無償使用を認めるべきだと議決した、とのこと。精力的かつ献身的に運営に携わってきた城之内庸仁代表の「これで自分たちの『教室』を持てる。......学校生活を感じられる場にしたい」とのコメントは重い。社会を革新する芽は、このような無償の行為から生まれる。2月からボランティア教師の一員になった当コラムも、革新の芽出しに精を出す。
「地方の眼力」なめんなよ
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