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【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】協同組合の使命2019年3月21日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

 「公」(公共政策)、「共」(共助・共生組織)をなくして「私」(私益追及)のみにすれば経済厚生は最大化されると市場原理主義経済学は説くが、その前提条件の「完全雇用」「完全競争」は実在しない。「勝者」が市場支配力を発揮し、「買いたたき」「つり上げ」で市場を歪め、儲けを増やす。さらに、資金力を利用し、政治と結びつき、さらに自己利益を拡大できるルール変更を求め(レント・シーキング)、「オトモダチ」への便宜供与、国家私物化、世界私物化が進展し、さらなる富の集中、格差が増幅されるのは「必然」である。これを食い止めるには、「公」と「共」の役割が不可欠である。
 そして、もうひとつ重要なことは、農地や山や海はコモンズ(共用資源)だということである。「公」と「共」をなくして「私」のみにする、つまり規制撤廃して個々が勝手に自己利益を追求すれば、結果的に社会全体の利益が最大化されるという短絡的経済理論のコモンズへの適用は論外である。筆者は環境経済学の担当教授で、毎年、学生に、入会牧場や漁場を例に、「コモンズの悲劇」(個々が目先の自己利益の最大化を目指して行動すると資源が枯渇して共倒れする)を講義している。「自然資源の共同管理制度、及び共同管理の対象である資源」(早稲田大学井上真教授)という定義に含意されるように、コモンズは共同管理されることで「悲劇」を回避してきた。それに対して、「コモンズの共同管理をやめるべき」というのは、根本的な間違いといえる。
 広く捉えれば地球環境全体も「グローバルコモンズ」であり、個々が自己利益の最大化に邁進したら破壊される。例えば、目先の狭い経済利益を個々が追及した結果、地球環境が悪化してゲリラ豪雨のような異常気象が頻発し、それによる洪水も、山が荒れ、田んぼが荒れて、止めることができない。それを回避するには、農林水産業(農地・森林・海)と他産業も含めた連携による自発的な共同管理、共助・共生システムが極めて有効であり、市場原理主義をふりかざしてはいけない。
 生源寺眞一教授の次の指摘が示唆に富む。
 「合意に立脚した共同行動、ここに変革期を生きるコモンズの道がある。・・・農村あるいは山村・漁村の共同行動は、地域の個性を濃厚に帯びながらも、人類共通の知恵の発露という面を有している。先ほどコモンズの悲劇の克服方法として、自己責任体制と政府介入の二つが提唱されていると紹介した。このうち自己責任制とは損得勘定の徹底であり、端的に言って、市場経済の世界にほかならない。けれども改めて認識すべきは、市場経済と政府介入だけでは現実の社会のシステムを十分に語り尽くせないという簡明な事実である。簡単な二分法には修正が必要だ。コモンズは市場経済でもなく、政府介入でもない第三のシステムなのである。そして、市場や政府がカバーしきれない領域に存在する点で、長い歴史を継承する農山漁村のコモンズと、19世紀のロッチデールやライファイゼンに始まる多様な協同組合活動には共通項がある。どちらもメンバーの自発的な合意に基づく共助・共存の仕組みなのである。」(生源寺眞一『完・農業と農政の視野』農林統計出版、2017年、p.49)
 故宇沢弘文教授の次の指摘も示唆に富む。
 「・・・私自身、かつては経済学者の通例として、すべて所有関係でものを考えてきました。しかし、それだけでは森林や海のような自然環境をうまく、持続的に管理していくのは不可能です。日本でも、明治の近代化の過程で急速に壊されてしまった入会制度のように、皆で相談して大切に使い、次の世代に伝えていく、つまりコモンズの精神を取り戻す必要があると思うのです。」(宇沢弘文『人間の経済』新潮社、2017年、p.135 )
 協同組合こそがコモンズを守るために不可欠な共助・共生組織であることを忘れてはならない。

 

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