【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(124)憲法第16条再考2019年3月22日
遥か昔、学校では、天皇の地位、国民主権、戦争の放棄、国民の権利及び義務、基本的人権…といったことを学んだ。筆者も現代の多くの日本人と同様、これらの事は何となく覚えているが、全てについて該当する条文の番号を正確に記憶している訳ではない。特に、いきなり「憲法第16条は何を規定している?」と聞かれてすぐに答えられる人は、相当の人であろう。
問題の第16条にはこう記されている。
「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令または規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。」
これは、いわゆる「請願権」に関する条文であり、「平穏に請願」したことを理由として不利益な対応を受けないことを定めている。粗く言えば、文句には言い方があり、それを守って行う限り、不利益は受けないということになる。
※ ※ ※
さて、日本国憲法第16条はこのようなものだが、筆者が本当に記したい憲法第16条はこれではない。西暦604年、つまり推古天皇12年に聖徳太子が作ったとされる「十七条憲法」の第16条のことである。
この「十七条憲法」は真偽をめぐり様々な議論があるが、ここではその点には触れない。内容で最も有名なものは、第1条「以和為貴」、つまり「和を以って貴しとし...」である。第1条はこの後も漢文が続くが、多くの現代日本人はここまでなら何となく覚えていると思う。
問題の第16条には何が書かれているか。『日本書紀』第22巻に出ている漢文は以下のとおりである。読みやすいように適宜句読点をつけておく。
「十六曰、使民以時、古之良典。故冬月有間、以可使民。従春至秋、農桑之節。不可使民。其不農何食。不桑何不服。」
書き下し文は、以下のとおりである。
「十六に曰く、民を使うに時を以ってするは古(いにしえ)の良き典なり。故に冬の月には間(いとま)あり、もって民を使うべし。春より秋に至るまでは、農桑の節(とき)なり。民を使うべからず。それ、農(たつく)らざれば何をか食(くら)わん。桑とらざれば何をか服(き)ん。」
何となく意味はわかるだろうが、漢文を離れて時間を経た人には現代語訳も必要かもしれない。現代語に意訳するとこのようになる。
「第16条、(国や地方自治体が)国民に何かを課す時は、タイミングや状況を良く見極めてやること、これが昔からの良き例である。(農耕が中心だった当時は)冬の農閑期には時間があるから何かを課しても何とかなるが、春から秋は畑仕事や農作物を育てる大事な時のため、勝手に国民に仕事を課してはいけない。農民が農業をしなくなれば、国民は何を食べるのか(何もないだろう)。農民が桑を作らなければ何を着ることができようか(何も着ることができないだろう)」
特に下線部「不農何食」、ここは最も重要な点である。先日、仕事でJA群馬県農業協同組合中央会を訪問したところ、ビルの1Fにはこの四文字が大きく額に入れて飾られていた。上の書き下し文では「農(たつく)らざれば、何をか食わん」としたが、「農せずんば、何をか食わん」、こちらの方がわかりやすいかもしれない。いずれも正解である。
※ ※ ※
問題は、これをどう解釈するかだ。文字通り、農民が農業をしなくなれば何も食べ物が無くなるという解釈、これは最もオーソドックスなものであり、漢文のテストであればこれで十分である。
さらに発展的に解釈すれば、当時、聖徳太子は国政の基本として定めた以上、当時と現代の状況の差を考慮し、適切な類推が必要となる。国の根幹産業が圧倒的に農業と土木工事であった時代と現代との違い、7世紀当時の農業や土木工事に相当するものは現代日本では何か、を考えて解釈すると、この第16条は現代にも通用する警句となる。
農民と食料の問題は文字通り重要であり、これは言うまでもない。だが、同時に現代日本の多くの国民にとって、農繁期や農閑期に相当するものは何か、施策を考慮し、実施する上ではこれをよく考える必要がある。
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