【小松泰信・地方の眼力】令和とオスプレイ2019年4月3日
新元号をうれし気に掲げる菅義偉ヒトの話は聞かん坊長官の顔と、付け焼刃談話で政治利用を目論む安倍晋三首相の顔。小面憎い二つの顔につきまとわれる令和の未来は推して知るべし。当コラム、発表の瞬間からテレビを通じた関連報道に目を背けている。
◆正面から切り込み乱痴気騒ぎに警鐘
「国民の存在はどこにある」と題して鋭く、深く切り込むのは信濃毎日新聞(4月2日付)の社説。
まずは元号を「独自の文化」と位置づけ、「天皇制と不可分の存在」とし、「現在は日本国憲法による象徴天皇制の時代だ。天皇は日本国民の総意に基づく存在である。それなのに今回の改元手続きは国民主権とは懸け離れている」と、問題提起。具体例として、新元号の候補名が政府首脳以外に初めて公開されたのが発表当日の有識者の懇談会で、かつ30分程度であったことを紹介し、「国民の声を聴いたという形を残したにすぎない」とする。
つぎに、前例踏襲といいながら前例なき記者会見で「一人一人の日本人が、明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる。そうした日本でありたい、との願いを込めた」と安倍氏が述べたことに対して、「だれの思いなのか。元号は首相の私物ではあるまい。『令和』を自らの国民へのメッセージとするのなら筋違いではないか」と指弾し、会見自体が「政治利用」であることをも示唆している。
さらに、一連の手法に固執する背景に、「日本会議」や連携する自民党保守派の存在を指摘し、「保守派に配慮して秘密主義で進めた元号選考には、政府への求心力を高める思惑もうかがえる」とは、御見通し。
最後に、「人口の減少や年金問題、経済政策の行き詰まりなど、日本が直面する課題は山積したままだ。新元号ブームにあおられて、目を曇らせてはなるまい」と、乱痴気騒ぎに警鐘を鳴らす。
◆国民主権にそぐわぬ元号の在り方
神戸新聞(4月2日付)の社説も、国民主権の下で「元号はどれほど国民のものとなったのか」と、疑問を呈する。
「国民は何も知らされず、待たされ続けた。私たちもつい『元号は上が決めるもの』と思いがちだ。それでは政府の決定を国民は押し頂くだけになる。もともとは元号は天皇の「御代(みよ)(治世)」を表す。だがその考え方は憲法の理念である国民主権にそぐわない。国民が自分たちのものと思えるような元号の決め方、在り方を模索する必要があるだろう」とする。
「上から押し付けるのは健全ではない」、前回の改元時も「新元号が空から降ってきたような違和感があった」とは、天皇制の歴史に詳しい本郷和人東大教授のコメント。「秘密主義は元号と国民との距離を遠くするだけである」で締める。
岩手日報(4月2日付)の論説も、「元号に関しては、国民主権の観点からさまざま意見があるのも事実。......国民生活に深く関わる元号の選定過程を当の国民につまびらかにするのも『時代』の要請」とのこと。
◆政府が時をも支配するのか
福井新聞(4月2日付)の論説は、首相が「人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つという意味が込められている」と述べたことに対して、「出典を精査しない限り、そう読み解くのは難しい。政府はそのためにも選考過程を分かりやすく説明する必要がある。世界で唯一、元号制度が残る国だからこそ、意義を捉え直すきっかけにもしなければならない」とする。さらに、「元号は『皇帝が時をも支配する』との考えに基づく。日本でも長年、天皇が定め、その権威を高めてきた歴史がある。政府がそうした視点をいまだに持ち続けているとしたら問題だろう」と、急所を突く。
◆「国書」強調への違和感
「首相は、日本礼賛的アピールに力が入っていないか」とするのは新潟日報(4月2日付)の社説。「日本のリーダーとして自国の文化や伝統への誇りを訴えたのだろうが、違和感も禁じ得ない」とする。歴史的に見れば、日本は他国の文化や文物を積極的に吸収することで、自国の文化的な幅を広げてきた。漢字など中国文化の影響も強く受けている。国境を越えた人々の交流が、万葉集など日本文化のベースとなったことは間違いあるまい。国際交流や友好親善は、平和の基礎ともなるものだ。平和な日々への感謝や新たな時代について語るなら、それらの事柄への言及があってもよかったのではないか」と、たしなめる。
◆象徴天皇制そのものの将来を考えよ
「大きな世替わりを経験するたびに、中国の年号を使用したり、明治の元号を使ったり、西暦を採用したり、目まぐるしく変わった」経験から、沖縄タイムス(4月2日付)の社説は、「歴史の流れをつかむことが難しく、同時代の世界史の動きと比較する視点を持ちにくいなど、マイナス面も多い。元号を強制することがないよう求めたい」とする。
そして、「『天皇退位による改元』は、憲法と元号の関係、象徴天皇制と民主主義の関係、象徴天皇制そのものの将来を考える機会でもある」と、本質的な問題を提起する。
◆オスプレイ緊急着陸は令和の未来を暗示する
2日の朝、わが家に届けられた毎日新聞(大阪版)の一面。新元号を伝える記事の横に、「オスプレイ伊丹緊急着陸」の記事が載っている。1日午後1時55分ごろ、米軍普天間飛行場所属のオスプレイが大阪(伊丹)空港に緊急着陸。同機は直前に緊急事態を宣言していたそうだ。米軍は「パイロットがコックピット内の警告灯の点灯を確認したため」と説明しているそうだ。
乱痴気騒ぎに多くの紙面を割く社会面には、「速やかな情報提供がなされなかったことは非常に遺憾」(伊丹市長)、「伊丹空港にオスプレイがあることに驚いた。気付いた時には、まだプロペラが回っていたが、うるさかった」(展望台から見ていた人)、「近くに自衛隊の駐屯地があるのに、なぜ伊丹空港に降りなければならなかったのか。オスプレイの事故の報道を耳にするので怖い」(緊急着陸を知り、空港に駆け付けた人)、といったコメントが紹介されている。
岩屋毅防衛大臣はアメリカ側に対し、安全管理の徹底を申し入れたそうだが、北朝鮮のミサイル問題で国難解散まで行ったバカ殿は慶祝ムードに酔いしれていたいようだ。しかしこのオスプレイ、御代変わりだ、新元号だ、国民主権などと、属国の分際で騒いでいる者どもへの、令和の未来を暗示する宗主国からのギフトとして見ると、暗澹たる気持ちを禁じえない。
「地方の眼力」なめんなよ
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