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【坂本進一郎・ムラの角から】第5回 焦眉の急の戸別所得補償2019年4月10日

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【坂本進一郎】

 「作る自由に、売る自由」。この甘言には毒がある。この言葉は1995年ころ、「食糧管理法」を葬り「食糧法」を登場させる目的で喧伝された言葉だ。食糧法で国が意図したことは、いずれコメも完全な「自由化商品に」したいが、今はその時期でないので段階を踏んでいきたいということである。自由化とはコメ管理から国の手を引くことである。手を引くとはコメ管理について、国の財政負担を減らすことである。そのエポックは1969年(昭和44年)の自主流通米制度の導入である。なにがエポックか。二つある。

 一つはこれによって今までの国による全量管理に穴が開くことになったからである。ゆくゆくは「食管」を穴だらけにし「食管」を無用の長物にするためであろう。自主流通米導入は「食管」潰しの一里塚なのである。だが、同時に不正規流通米(ヤミ米)も増えだす。大潟村のヤミ米が話題になったのはこの少し後のことである。政府は大潟村内のヤミ米の是非をめぐって、転作順守派とヤミ米派のコップの中の嵐を放置し、ヤミ米派の力量をひそかに見ていたふしがある。だがこうなるとコップの中の嵐というより、全国でも珍しい農政の代理戦争といえる。
 自主流通米導入エポックの二つ目は、財政負担の軽減である。削った財政はどこに行くのか。軍事予算である。「食糧法」が発布されたころ予算の推移を見ていて気が付いたことは、「食糧管理法」が潰れるのと、軍事予算が肥大化するのは正比例だということである。将来軍事国家になるのだろうと思っていたところ、今、農水予算は2兆円、軍事予算は5兆円。2兆円ではなにもできないであろう。「食管法」が潰されたのは、経済復興のなった今日、財界・資本にとって食管制度は魅力のないものになったからであろう。こうして生まれたのが「食糧法」である。

 食糧法の特徴は二つある。一つは国が手を引いたこと。これは既定の路線である。
 二つ目はヤミ米を正式に認めたことである。「食管法」も「食糧法」も第一条で「主要食糧の需給及び価格の安定によって国民経済の安定を図る」と唱っている。これについて「食管法」では「国が食糧を管理する」となっている。これに対して「食糧法」第5条では「計画外流通米」いわゆる「ヤミ米」が認められている。この結果、今までヤミ米は法律的にママ子扱されてきたが今度は法律的に認知し、計画外流通米としたので、計画流通米と計画外流通米が制度的に並立することになった。その後計画流通米は計画外外流通米に呑み込まれてしまった。

 ところが生産調整も手上げ方式。各種の助成金もやめる。コメの価格保障もやらない。何もかも自由化にする。25年前の「食糧法」発布の時このような話を聞かされた。あれから25年何もかも引きはがされて農民は「資本主義の荒野」に放り投げられたも同然だ。食料自給率も38%という信じられない数字にもなった。「無農国」になったからである。農民にとって今の農政はあまりに冷たすぎる。
 そう感じるのは安倍首相が国連音頭の「小農宣言」調印にアメリカの顔色を窺って棄権したせいもある。この冷たさに国家はどこに行ったかと言いたくなる。こんなに中身が空洞でスカスカな法律も珍しいであろう。こうなったのは、農業に国民からの暖かい眼差しがないこと。法律をWTO体制に合わせたせいである。

 この点で食糧法2年後にこれまでの2万1000円米価(玄米60kg)が6000円も下がり1万5000円米価になったのは、信じられない話で、頭が混乱してしまった。以後米価はこの水準で推移しており、農民は浮かび上がれない地点に立たされている。
 民主党政権は2011年及び2012年戸別所得補償法を実施したが、政権が不安定で2013年以降は立ち消えになっている。しかし2012年当時、補償交付金の配布を受けたときには一息ついてホットしたものである。今、農家としては焦眉も焦眉、早急に実施してもらいたいと思う。その上で所見を述べてみたい。

 ヨーロッパに行って感心したことの一つに景観の美しさがある。向こうの人に聞くと景観保全助成金が出ているからだという。それだけでない。戸別所得補償ももらっているという。
 日本に帰国後この制度のことを訴えた。しかし俺は乞食でないからいらないという人までいて、理解を得ていない部分もあることを知った。
 それなら運動論として、訴えることも必要であろう。一つは規制緩和、コメ自由化一辺倒を破るのに戸別所得補償を武器に使えないか。二つ目は協同組合運動の大原点の一つは「共同出荷・共同販売」にある。協同組合運動の手段にならないか。実は食管法の淵源は1918年の米騒動にあった。米価を安定させるため1921年の「米穀法」により乱高下防止のため政府の買い上げ・放出を狙ったが失敗。そこで1933年無制限買い上げによって米価を安定しようとしたが駄目であった。1942年制定の食管法による計画生産・計画出荷によって安定したのである。今さらという感じもするが、原点に戻って、次世代のため農協の「共同出荷・共同販売」を広げて食管法の「計画生産・計画出荷につなげられないか。
 冒頭示唆したように「作る自由、売る自由」の美辞麗句には、毒がある。というのは作るのはできる。しかし、売るのはどうしたらいいのか。「作る自由」という器に「売る自由」という流通自由化の毒を盛ったのが、「食糧法」なのである。先述した米価6000円の下落は毒の効果が表われてきたためである。
 防波堤であった農水省も逆に激流となって押し寄せている。我々農民は小舟で脱出しようとしているが何か将来の、運動の柱になるものが欲しいと思う。

 

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