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【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(128)誰を採用するか2019年4月19日

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【三石誠司 宮城大学教授】

 現在、大学4年生は就職活動(就活)の真最中である。一人ひとりに声をかけることはなかなか出来ないが、是非、頑張って頂きたい。この時期の学生を継続的に見ていると能力的にも人間的にも短期間に大きく成長するが、当の本人達はそれどころではないことも事実であろう。だが、あえて言いたい。少し、視点を変えて見ると見えるものが大きく変わるよ、と。

 一般に小中高、そして大学入試までは、試験科目を事前に準備し、受けた試験の点数が良い順に合格となる。10人募集のところに20人が応募すれば、試験結果が1位から10位までは合格、例え1点しか違いがなくても11位以下は不合格となる。
 こうした選抜方法に長年慣らされると、就活の採用試験も同じだという幻想に囚われる。もちろん、点数優位の採用を実施している企業も数多く存在するが、他の方法を用いている企業も同数程度は存在すると考えた方が良い。わかりやすい例を出してみよう。

 

※  ※  ※

 

 仮に基礎的な学力水準、つまり採用許容水準が50点という会社KにA、B、C、D、の4人が応募し、各々の点数が70点、55点、45点、30点だとしよう。本当に基礎的な学力が明らかに低いDさんは今回、残念だがK社には向かないかもしれない。問題は、合格者を1人とした場合、誰を採用するかである。
 大学のあるクラスで同じ質問を出したところ、その場の全員が70点のAさんという。これこそが、お受験から大学入試までの選抜方法に洗脳された見事な結果である。現実社会では、3人誰もが採用される可能性が高い。これが答えである。

 Aさんの点数は応募者中トップで、想定している採用許容水準を大きく上回る。受験脳では当然合格だが、就活では微妙だ。人柄云々という表現が良く使われるが、これは本質を曖昧な表現でうまく覆い隠している。人柄は重要だが、より重要なのは現実に入社してくれるかだ。実際、優秀な人材が欲しいのはどこでも同じであり、Aさんは恐らく、K社より良い(と学生が考えている)企業に受かればそちらに行く可能性が高い。そもそも、K社を受けた理由も本音では滑り止めかもしれない。能力は魅力的だが、採用が1名であれば、Aさんに内定を出すか否かは、「採用担当者」には非常に重要な問題である。

 Bさんはどうか。何とか採用許容水準はクリアしてはいるが、試験の点数はAさんより低い。問題は、BさんがK社をどう考えているのかである。本当の実力がどうであれ、Bさん自身が自分の実力はK社水準より高いと考えていた場合、Bさんは合格が当然と思い、それほど喜ばないであろう。仮に入社しても同僚のことを上から目線で見る可能性がある。こうなるとK社とBさん双方にとって余りハッピーではない。

 さて、残る1人はCさんである。CさんはK社の定める許容水準にわずかだが足りない。通常の点数制の選抜では文句なく落ちる。だが、面接の結果、K社が憧れの会社であり、どうしてもK社で働きたいという熱意が明確に伝わったとしよう。

 私が採用担当者であれば、選考の次のステップに進むのは恐らくCさんになる。その理由は明らかだ。どうみても(学生目線で上位と考えられる)企業から内定が出ればそちらに行くであろうAさんは優秀だが、内定を出してもK社には意味がない。Bさんは悪くないが、K社をやや格下に見ているところが気になる。ではどうするか。Aさんには「お祈りメール」を送り、Bさんはしばらくそのまま、次のステップに進むのはCさんのみ...これが、最も合理的な判断ではないだろうか。その後、万が一、Cさんの都合が悪くなった時や、採用予定者に余裕が出た時にはBさんに連絡をしてみても良いかもしれない。

 重要なことは、どの学生さんも受ける企業により、Aさん、Bさん、Cさんのいずれにもなり得ることだ。そして採用方法を変えれば、実はDさんが最も適しているということもあり得るであろう。これが現実に近いのではないかと考えている。

 

※  ※  ※

 

 以上は、あくまでも筆者が採用担当者ならどう考えるか...という前提で記した空想上の小話に過ぎない。だが、学校の成績が良い学生さんが受かるときもあれば落ちる時もあるし、成績が余り良くない学生さんが受かるときもあれば落ちる時もある。世の中の多くの企業の採用活動とは、「一緒に働く仲間を見極めることであり、試験の上位者だけを選抜することではない」ということを就活中の学生さんはしっかりと理解して頂きたいと思う。その上で、自分が本当に入りたいなら、それを素直に相手に伝えることだ。恐らく、それが一番採用担当者の心を打つことになるであろう。

 就活中の全ての学生さんに良い結果が出ることを心から祈る。

 

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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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